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第五章 深紅の炎
再び、密談
しおりを挟むそんな女性陣の会話の間、ジョンは何か神妙な表情で、他所の方向を見ていた。
リッキーはそれに気づいた。
「どうした? 誰か知り合いでも見つけたか?」
声に反応したジョンは、慌てて彼を見た。
しかし、すぐに表情を、人の好い笑顔へと戻した。
「ああ、そうさ。よく分かったね」
そしてジョンは続ける。
「ところで、少し席を空けていいかな? その知り合いと、少し話をしたいんだ。
あっ、そうそうティナ、ついでに君のポップコーンも買ってくるよ。さっきは塩味だったけど、味はどうする?」
声をかけられたティナは、元気よく答えた。
「おっ、いいのか! 至れり尽くせり、お姫様の気分だぜ! そうだな……同じ味も飽きたから、今度は、キャラメル味を買って来てくれ!」
ジョンは立ち上がると、恭しく頭を下げ、洒落をきかせる。
「……これはこれは、承知しました、お嬢様」
ウィンクしてみせて彼は、席を離れて、何処かに行ってしまった。
会場全体に複数個所存在する、外との出入り口。
その一つ、周囲に人影は見えない出入口の傍で、何処にでもいるような格好をした男が一人
、辺りの様子を伺っていた。
そんな男に、手を振りながら近づく、人影の姿。男もそれに気づき視線を向ける。
「やぁディアス、調子はどうだい? 何か進展でもあったかな?」
声は年若く、軽快な口調。それは先ほど席を離れたジョンだった。
そんなジョンに対し、ディアスと呼ばれた男は、少しはにかんで答えた。
「今はもう、動きなんてありませんよ。つい先ほど銀河捜査局の、『大掃除』が行われた後ですからね。もし、奴らがまだ残っていたとしても、動くどころではないでしょう」
「ほぅ? 『大掃除』とは……」
妙な言葉に対し、興味津々にジョンはたずねた。
ディアスは得意げに説明する。
「ええ。例のナンバーズ・マフィアの連中、今度は会場で観戦しているG3レースのパイロットを標的にしたようで。彼らは、パイロットを相手に、ウイルスをばら撒くつもりでした。
ウイルスの中身は、遅効性で発症する熱や風邪。症状自体は大したことはありませんが、もしその状態でレースをするとなると、さて、本調子なんて出せるかどうか……」
「やはり――レースの妨害と来たか。各惑星で行ったレース機体の破壊工作に次いで、彼らもよくやるよ。いや……、正確にはナンバーズ・マフィアにそんな真似を依頼した、クライアントの方か」
やや呆れ気味で、ジョンは苦笑いする。
ディアスも同様の様子だった。
「全くもって、そのようで。しかし今回の奴らには運がなかった。いざウイルスをばらまく前に、警戒を行っていた銀河捜査局の連中に察知されてあえなく御用、さすがに奴らも無能ではないと言う事ですな」
「まぁ、前回は彼らにしてやられたからね。ああして妨害工作を行っていると分かったからには、十分に警備を行うさ」
「ははは、我々も少しは、奴らへ密かに情報を流していたと言え、意外に動きが早い。これは、負けていれれませんな」
「確かに、それはそうかもね。……おっと!」
するとジョンは、何かを思い出した様子を見せる。
「……どうしましたか?」
「いや、ティナからキャラメル味ポップコーンを頼まれていたのを忘れていたんだ。急いで買いにいかないとね」
「へっ? ポップコーンですって?」
「それじゃあ、引き続き見張りを頼んだよ。じゃあね!」
理解が追い付かないディアスを置き去りに、ジョンはポップコーンを買いに向かった。
残されたディアスは、まるでこんな事には慣れているかのように、軽くやれやれと、一人首を振る。
そして再び、ジョンに言われた通りに、見張り作業へと戻った。
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