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第六章 前哨戦・後半
赤と白と(1)
しおりを挟む強力な乱気流によって、吹き飛ばされたクリムゾンフレイムとマリン。
しかし、あの時は一瞬油断していたと言え、そこはプロだ。
マリンは素早い操作で機体各部の、姿勢制御スラスターを操り、崩れた態勢をすぐさま整えた。
態勢を元には戻したが、レーダーで確認すると、やはりジンジャーブレッドとの距離は、再び引き離されていた。
苦虫を噛み潰したような表情を、マリンは見せた。
――やっぱり……そうなるか。いい所まで行ったのにね、全く……。一回使っちゃったシステム・スパークラーはもう使えないし、また追いつくには、苦労しそうだわ――
レーダーによれば確かに、距離は引き離された。しかし、まだ頑張りようによっては、取り返せるはずだ。
――でも、ただでは終わらないわよ。ここから全力で巻き返して…………ん?――
再びレーダーをよく見ると、すぐ近くに一機、飛んでいるのが見えた。
クリムゾンフレイムより僅かに後ろを飛ぶその機体は、順位で言えば三位に到達している。
相手の情報を確認すると、マリンの表情はキラキラと輝いた。
――あはっ! 後の楽しみに取っていたけど……こんな所で、予定より早く出会えるなんて、最高ね!
きっと、これも運命。そうよね…………シロノ――
同じ頃、強い寒気をシロノは感じた。
理由は分かっている。ついさっき、前方から吹き飛んで来た、レーダー上に映る機体の反応がそれだ。
――ううっ……覚悟していましたが、こんなに早く出会ってしまうとは、最悪です――
ディスプレイに映るのは、槍のように尖った深紅の機体、クリムゾンフレイムだ。
あまりにも急に出現したせいで、多少慌てはしたが、今自分のとるべき最適解は分かっている。
普段のシロノは、燃料を可能な限り節約し、使う時には効率良く利用、そしてコースの環境を最大限活用――この親善試合の場合なら、ツインブルーのガス気流の流れに、惑星重力を利用して速度の制御を行うスイングバイなどの利用――を行うなど、地形を利用してレースをするのが得意な、効率重視型のレーサーだ。
さらにホワイトムーンも、スリースター・インダストリーの技術の粋を集めて作られた最新鋭機。元より高い性能を備えた機体とシロノの腕があれば、性能を最大限に発揮するまでもなく、勝利する事が多い。
そのため今までのレースであっても、シロノは余程追い詰められない限り、ホワイトムーンの最高出力を出すことはない。それこそ以前の、アシュクレイ杯でフウマとリッキー相手にデッドヒートを繰り広げたのが最近だ。
しかし今、レースの勝敗には関係ないにしろ、レース以上にシロノは『ある意味』追い詰められていた。
ここまで比較的低出力に抑えていたホワイトムーン、操縦席の傍にある機体情報を示すモニターには燃料残量、損傷率、リアクターの稼働状況など、様々なものがグラフや数値になって示されている。
その中の一つ、熱核エンジンの稼働率と、それによる燃料の燃焼状態などにより示される、総合的な機体出力の部分は60%と、出力率がパーセンテージで分かる。
シロノは手元の操作パネルの一部を、指で軽く上へとスライドさせ、一気に引き上げた。
するとモニターの出力率も、60%から80%へと上がる。
急速度に上がるホワイトムーンの速度、そしてこれまでのように、上手く気流の流れに乗り高スピードで飛ぶ。
加速は常に最大を維持、燃料の減少も激しいが、シロノにはそれを構う余裕はない。
出来る限り、あの赤い機体から距離を離したい――、ただその一心だった。
しかし……。
ディスプレイに映るクリムゾンフレイムは、遠ざかるどころか、高出力のホワイトムーンと互角の速さを見せる。
惑星の各位置に浮かぶ無人機は、銀色と深紅の二機の機体が、同じ色をした二筋の光筋をツインブルーの空に残して飛翔する、レースの様子を映し出していた。
こうなる事は分かっていたらしく、シロノは力なくから笑いした。
――ははは……、まぁ、こうなりますよね……。スピードだけならクリムゾンフレイムは、ホワイトムーンとほぼ互角で、リミッターを外せばそれすら超えますもの。
そして、彼女が私と出会って、ただで済ませる訳がないですし――
このシロノの予想は、すぐに的中した。
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