テイルウィンド

双子烏丸

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第六章 前哨戦・後半

赤と白と(2)

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 ホワイトムーンのコンピュータから、こんな連絡が届く。
〈クリムゾンフレイムのマリン選手から、通信が届きました。通信を許可しますか?〉
 予想していたと言え、そのショックにシロノは、頭を抱えた。
 ――出来れば無視してもいいのですが……、そうすると彼女は、とても悲しみますからね―― 
 半分諦めた様子を見せて、シロノは仕方なしに許可した。
「ええ……分かりました、通信を繋げて下さい」
 コンピューターは、すぐに通信を繋いだ。 


〈ここでも会えたわね、シロノ! ふふっ、私、とても嬉しいわ!〉
 通信が繋がるやいなや、通信用ディスプレイには、身を乗り出すばかりに顔を近づけた、二十歳前後の赤毛の女性が映っている。
 しかし今の彼女は、まるで少女のように輝く笑顔を見せている。
「……はは、私もですよ。奇遇ですね、マリン」
 シロノも何とか笑ってみせるが、口元の端が心なしか引きつっていた。
 この彼女、マリン・フローライトとシロノの間には、フウマとほぼ同じようなライバル関係が存在していた。
 何年も前にレーサーとなり、今まで負け知らずだったマリンの前に現れ、初めて敗北を味わった相手がシロノ。それ以降、シロノをライバル視して、いつか超えるべき目標にしている……。ここまではフウマと全く同じで、それだけで終われば、別に大したことではない。
 しかし――それから後が問題だった。


 
 ディスプレイ上のマリンは、シロノの言葉に頬を赤く染めた。
〈シロノってば、そんなに私の事を思ってくれているなんて……私……〉
 そして嬉し恥ずかしそうにはにかむ顔を僅かにそむけて、彼女はもじもじとしている。
 そう、このクリムゾンフレイムを愛機とし、プロの宇宙レーサーとして宇宙各地を飛び回っているマリン・フローライトは、シロノに強く惚れていた。
 俗に言う、一目惚れとの事らしい。
「マリンさんが、嬉しそうで何よりです。互いにレースでも、良い勝負をしましょう」
 すると、これを聞いたマリンの表情にレーサー特有の、挑戦的な笑みを彼に向ける。
〈言われるまでもないわ! だって、私がシロノに勝てたら……あの約束、叶えてくれるんでしょ?〉
 シロノは一瞬、ギョッとする。
「……え? ええっと、一体……何の約束でしたっけ?」
 彼女の言っている『約束』について、シロノは覚えていたが、とっさに誤魔化して覚えていないフリをする。


 最も、そんな真似は、マリンには通用しなかった。
〈ふっ! 誤魔化しても駄目よ! 初めてシロノに負けた時、もし貴方が私に負けるような事があればその時は…………シロノは私のものになってもいいって、約束したじゃない〉
 ――ああ、あの時に調子に乗って、余計なことを言わなければ――
 数年前、初めてシロノがマリンとレース試合で戦い、そして優勝した時に、つい一目惚れした彼女の約束を受けてしまった。
 ――初めは、てっきり冗談かと思いましたが、まさか、本気で私に惚れているなんて……。毎回毎回、一緒に戦う度に、寿命が縮まりそうです。何度かは危ない時もありましたし、こちらも普段より必死で勝負しないといけませんし……これでは、絶対に負けが許さないプレッシャーが強い分、フウマよりも性質が悪い――
 
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