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第六章 前哨戦・後半
二対一(1)
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赤と白と、そして黒――、三機の機体が軌跡を描き、ツインブルーの青空を駆ける。
先を行くのはやはり黒の機体、ジンジャーブレッドのブラッククラッカーだ。
対する赤、そして白の機体であるクリムゾンフレイムとホワイトムーンは、接近こそするが、追い越すには至らない。
何しろ、ジンジャーブレッドは上下左右にジグザグに動き、クリムゾンフレイム、ホワイトムーンの進路に立ちふさがり、上手く妨害している。単純な加速性能にはブラッククラッカーより幾らか分があるとしても、その機動性は二機よりも圧倒的に高い。
ブラッククラッカーに阻まれては、満足に加速を出すことも、ろくに接近することも出来ない。
船体そのものが物理的な障害になることもあるが、機体が噴射するガスなどのエネルギーさえ、後続の機体を阻む。
――ふっ、さすがにやるわね。……そう来なくっちゃ――
赤毛の少女、マリンは、強敵を相手する興奮に、胸を高鳴らせる。
加えて、あのシロノと一緒に、こうして共に飛べる事も、彼女にとっては嬉しいことだった。
――そして、ジンジャーブレッドを相手にして、シロノとこうして一緒…………。私達って、やっぱり良いコンビじゃないかしら。何ならここで優勝して、ついにシロノと恋人同士に……きゃっ!――
レースも、色恋も一生懸命に。これこそ、マリンのモットー、その一つだ。
――くっ! あれ程の相手を、それも二機……。しかも加速性能は高いと来た、下手をすれば――
実際、ブラッククラッカーの加速性能もかなり高い。しかし、ここでも発作により休憩を挟んだ事が仇となった。
接続を解除していた時に、速度を落としていたブラッククラッカーとは違い、あの二機、クリムゾンフレイムとホワイトムーンは加速をかなり前から続けていた。
ジンジャーブレッドさえ、これでは機体で二機の前に立ちふさがり、何とか先を越されないように防戦することがやっとだ。
そして…………それはジンジャーブレッドのプライドを、ズタズタに傷つけた。
――しかし、何とも情けないものだ! かつて、他の追随さえも許さず、無敗の伝説を誇った私が……このようにみっともなく動き回り、妨害するしかないとは! やはり昔とは、かつての私とは、違うのか――
かつて現役だった頃は、常に圧倒的な差で勝利を勝ち取って来た。こうして、苦戦するような事は、決してなかった。
ブラッククラッカーは今、横に二機並んで飛行して迫るクリムゾンフレイムとホワイトムーンに、左右に両機の進路を防ぐように動き、何とか行く手を遮ることで首位を維持していた。
ゴールはすぐ近くだ。だが、あの二機を同時に相手するのは、この状態では厳しい。いつジンジャーブレッドの苦肉の妨害を突破し、どちらかが追い抜いたとしても、不思議ではない。
追い詰められたジンジャーブレッド。しかし……彼にはある考えがあった。
――ここは、『あれ』に頼るしかないのか、以前はスポンサーの強い願いで、一度だけ使いはしたが、あの時は私が追い込まれるような事はなかった。今みたいに……無様な真似を晒している訳ではない!
それに、使った相手も骨のある相手だったが、敢えて私が『あれ』を使うために、わざわざ誘い込んだのだ。本来なら使う必要もなく、十分に勝利出来る相手だった――
あの時の相手は、確かリッキーと言う名前だったか……、ジンジャーブレッドは一瞬そんな事を思い出したが、今はそれどころではない。
――あんな反則に近い代物など……レースで使うものではない。しかし…………今こうして私が、再びレースの場に立てられるのは、スポンサーがいるからだ。例え、どんなスポンサーであろうとも、逆らう訳にはいかない。……つくづく情けないものだ。
だが、今度は……、スポンサーから強制されたわけでなく、自らの意思で――
ジンジャーブレッドは葛藤する。
しかし、今のような状態を、このまま続ける訳にはいかない。そして、例え親善試合だとしても、自身が敗れるような事は、それ以上にあってはならない……。
その為には……もはや手段さえ選べはしない。
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