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第六章 前哨戦・後半
二対一(4)
しおりを挟む――私が思いついた作戦、上手く行くかしら。何しろ、その場で思いついた、試した事すらない荒っぽい作戦だもの――
クリムゾンフレイムは上、ホワイトムーンは下の位置に、互いに機体底部を重ねるようにしてブラッククラッカーに再接近する。
これから数秒もしない内に、マリンとシロノは、あのジンジャーブレッドを相手に一勝負を打つ。
内容についてはシロノと話をつけてはいる。しかし、不安材料はまだ残る。
――シロノのホワイトムーン、そして私のクリムゾンフレイム……、二機とも機体の形状や重量、制御スラスターの配置は大分異なるから、そこが一番の問題ね。まぁこれまでレースで戦って来た相手だから、大体の予想はつくって事はつくし、それに合わせてスラスター出力を調整すれば済む訳なんだけど、所詮は予想だしね、もし予想を大きく外していたら、その時は――
だが、そんな不安はすぐに振り払う。
あのジンジャーブレッドを相手にするんじゃ、並大抵の方法じゃいけない。ここは少しでも冒険しないと……。
マリンはそう思いながら、機体の操作キーに手をかける。
クリムゾンフレイム、ホワイトムーンはブラッククラッカーに迫る。
――二機は何か策があるようだが、所詮は小手先程度だ、防ぎきってしまえば問題ない。増してや私とブラッククラッカーなら――
ジンジャーブレッドの自らと、自らの機体に対する自信は、まだ保っていた。
彼らが行おうとしている真似は、彼には予想が出来ていた。しかし、もしその予想を上回った…………その時には。
彼は相手がどう出るのか、待ち構える。
――ふっ、何をしようとも、私に通用するとでも――
だが、次の瞬間――、その自信は驚愕に変わる。
「……何だと!」
互いに重なる二機は、速度はそのままに、制御スラスターの一部を強く噴射する。
そして僅かな時間で、機体は重なったまま4分の3回転、270度の回転を付けると、その遠心力とスラスター出力の相乗効果により、高速で左右に分離、ブラッククラッカーのディフェンスを突破した。
クリムゾンフレイムとホワイトムーンは、その高い速度はそのままにしてブラッククラッカーに並んだ。
かつて現役の頃には、誰にも追いつける事を許さなかった、不敗の伝説を持つジンジャーブレッド。
シロノはその伝説を、完全にではないにしろついに破り……彼と同列に並んだ
――やった! 上手く行きました! あのジンジャーブレッドと並ぶだなんて――
普段の柄にもなく、シロノは大喜びしていた。
恐らく、ジンジャーブレッドはあの時、上下に分離してディフェンスを破ると考えるだろうとは予想していた。
そこでマリンは、一旦そう見せかけて機体同士を重ねたまま急回転し、意表の更に意表をつく形で、攻略しようと試みた。加えて回転の遠心力が加われば、分離の際の加速も上がり相手に対応させる隙を減らせると、彼女はそれも考えた。
しかし、やはり重量バランスなどの問題や、何よりジンジャーブレッド相手には子供騙しに近いかもしれないと不安もあった。
が、とにかく上手く行った。これもマリンの作戦のおかげだ。
そう思いシロノはディスプレイに映る、彼女の機体を確認する。だが……
クリムゾンフレイムも、ブラッククラッカーを突破したが、その加速は止まり、機体ブースターも停止していた。
加速が止まったせいで、機体は二機から、次第に離れて行く。
――やはり、燃料が尽きたようですね。マリンだって分かっていたはずなのに、私のために、ああなるまでずっと――
マリンへの申し訳なさと、自らの不甲斐なさを感じ、シロノは僅かに唇を噛む。しかし……このままではいられない。
――ここまでして与えられたチャンス、無駄には出来ません。なら、私に出来ることは、それに応えることしか――
シロノがそう考えていた、その瞬間…………異変が起こった。
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