テイルウィンド

双子烏丸

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第七章 反省会

疑惑と代償

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〈見事トップでゴールしたのは…………ジンジャーブレッドのブラッククラッカー! やはり無敗の伝説は、尚も健在って事ね!〉
 司会のレイは、今回のレースの勝利者であるジンジャーブレッドを称える。
 会場の映像には、銀色に輝くブラッククラッカーが急加速し、ホワイトムーンを追い抜き、見事にゴールを果たした様子が映されていた。
 実況であるリオンドも、ふむふむと頷く。
〈この親善試合、結果はジンジャーブレッドの勝利か。だが、あの二人もよくやるものだ。正直、あの時シロノが彼と並びかけた時は、もしかしてと思ったくらいだ。
 それにしても、ジンジャーブレッドがあんな切り札を隠していたとはな。そもそも、どうやればあんな加速が可能かさっぱりだ、本当に現代の技術を使っているのか?〉
〈さぁ? 私にだって分からないわ?〉
〈だが、機体登録した際に、機体構造の確認はしたのだろう? あんな桁外れの加速を短時間でさえ行うには。恐ろしく相当な燃料を消費するはずだ。
 もしや規定以上の燃料を、隠し持っていたのではあるまいな〉
 リオンドの疑問を、レイは否定する。
〈いえ、機体の確認をした際には、燃料を隠し入れるタンクらしいものは無かったし、レースが始まる前にも、その辺りのチェックは怠ってないわよ。そんなレギュレーション違反は、考えられないわ。
 …………でも〉


 すると何か思案顔を見せて、レイは続ける。
〈彼の機体、ブラッククラッカーは、大企業ゲルベルト重工が直に開発を手掛けただけあって、相当に高性能の高いシステムや機構ばかり使われていたわ。
 ……けど、その中で出力系の一部、そして何故かレースで使う機会がない、ワープ航法を行う量子化リアクターと空間転移機構が、詳しい構造と原理が不明な、ブラックボックスと化しているわ。
 でも、それが原因とは……考えられないわね。やっぱり出力系に何か、秘密があるはずよ〉
 しかし、ここは考える時でないと考えたのか、彼女は再び司会としての役割に戻った。
〈……まぁ、とにかく今はこのレースの選手たち、優勝したジンジャーブレッドも、惜しくもそれを逃した選手達みんなを讃えないとね。
 みんな! 今回素晴らしいレースを届けてくれた彼らに、どうか祝福を!〉
 彼女の言葉とともに、会場は歓声に包まれた。
 こうしてG3レースの親善試合は、観客の歓声そして、ジンジャーブレッドの勝利とともに幕を下ろした。



 この親善試合で勝利を果たした、ジンジャーブレッド。
 だが、その彼はといえば――――苦痛に苛まれ、操縦席で呻いていた。
 それは先ほどのものより、より強く、より激しく、比べ物にならない苦痛だ。
 腕に指しているのは、あの注射器。それも一本だけではない。
 彼は注射器の中身を、すぐに体内に注入するやいなや、空になった注射器を廃棄し、再び注射器を取り出して同じ場所へと刺す。
 しかし……痛みは一向に治まる気配はない。
 ――はっ! 当然の報いだな。私はレーサーとしての誇りと、レースそのものの尊厳を、自らの下らないエゴとプライドのために踏みにじったのだからな――
 痛みによる顔の歪みとやつれが相まった、壮絶な自嘲の表情、もし見るものがいたなら、あのジンジャーブレッドとは別人だと思うだろう。
 ――だが、こうでもしなければ……私は勝てなかった。機体のせいではない。性能はかつての愛機、クッキーよりも上回っていた。本来なら、あの機構にさえ頼ることなく、ああも追いつめられることもなく、ジンジャーブレッドの名に恥じぬ圧勝が可能だったはずだ。これもすべて――
 ジンジャーブレッドは、自らの腕と手に目を移す。


 手は震え、腕にはいくつもの注射跡、一見丈夫そうには見えるが、その血色は死人のように青白い。
 ――発作も次第に強くなる。限界はもう……近いのかもしれないな。やはり私は――
 だが彼は、途中まで考えていた思いを、自ら打ち消す。
 ――いや! どんな形だろうと、私はこうして勝利した。負けなければ私は、ジンジャーブレッドでいられる――
 そう、最初から最後まで、ジンジャーブレッドには敗北と言う選択肢はなかった。
 完全な勝利の為なら、汚い手を使おうと、自らを犠牲にしようと、もはや一向に構いはしない。
 ――次の……G3レースで最後だ、それまで耐えられれば、私はどうなろうと構うものか。私が私であるためには、勝利するしかないのだから――
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