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幕間 遭遇
宇宙の女王
しおりを挟むゲルベルト重工所有の、超大型豪華客船、クイーンギャラクシー。
重工業を主要産業としている会社であるが、ゲルベルト重工は観光業にも手を広げている。
このクイーンギャラクシーにも、金持ちを中心とした客が多く乗っており、彼らもG3レースへの観戦に、向かうところだった。
全体像はまるで巨大な円盤で、下部にはクラゲの触手のように、内部設備がむき出しとなって生えている。
そして、上部中央には、まるで城を思わせるような大型構造物が一つ。それこそクイーンギャラクシーにおける、ゲルベルト重工の会長、アーノルド・ゲルベルトの居城であった。
居城の頂上に位置する、会長室までも、広く豪華絢爛だ。
彼が莫大な資産にものを言わせて集めた、銀河各地の美術品と、彫刻に絵画、更には珍しく美しい原生生物のはく製までもが所狭しと並び、家具や机などの調度品、そして壁までも全て、金と銀を贅沢に使い装飾されていた。
これらの持ち主、ゲルベルトは美術、芸術の愛好家だと自認している。
――が、実際彼には愛好家どころか、それらを見る目は全くない。
ただ乱雑に集められた美術品、芸術品は全体の調和は微塵もなく、景色はまるで混沌の極みで、更に辺りにギラギラと光り輝く、金銀の装飾もそれに拍車をかけていた。
一言で言うなら……非常に悪趣味な部屋だ。
主人であるゲルベルトは会長室で、ある来客を出迎えていた。
「ふふふ……、ようやくG3レースだな。君には期待しているぞ……ジンジャーブレッド」
純金の会長机を前に、王者のように傲岸不遜な態度で座る、やや肥満気味に近い中肉中背の、頭が禿げ上がった、傲慢さが服を着て歩いているかのような男。
この男こそゲルベルトであり、彼の目の前には、ジンジャーブレッドが立っていた。
ゲルベルトは机に乗せられたワイン瓶を手に取ると、二つ置いているワイングラスへと、中身を注ぐ。
まるで血のように、紅い液体が、並々と透明なグラスへと注がれる。
彼はワイングラスを手に取り、もう一つのグラスをジンジャーブレッドへと渡す。
「……私は、酒はあまり……」
「惑星パープルスカイで採れる、スカイグレープを使ったワイン……五百年物だ。まさか、飲めないとは言うまいな」
強引に言われ、仕方なくジンジャーブレッドはグラスを受け取る。
「さて、乾杯だ。君の勝利と、わが社の更なる、発展の為に!」
二人は、グラスの中身を、一気に飲み干した。
「約束は、守ってもらうぞ。もし私が優勝すれば……」
ゲルベルトは陰気な笑いを見せる。
「優勝するとも。ジンジャーブレッドの天才的な腕と、我が社の技術の粋を集めて作られた機体、ブラッククラッカーがあればな」
「……」
一方でジンジャーブレッドは、苦々しげに沈黙する。
「ハハハ! それに『量子化次元加速ドライブ』もある! 敗北する理由は無いに等しい。
――だが」
そこで一旦、言葉を止めた。ゲルベルトはジンジャーブレッドを睨む。
「親善試合の、あれは何だ? 無敗を誇る、伝説のレーサーが聞いて呆れる! むざむざ二機もの機体に、それもブラッククラッカーの性能にも関わらず、あそこまで接近を許すとはな。
あれがなければ今頃は……」
「……それは、油断していただけだ。本番ではそうはいかない」
だが、ゲルベルトはなおも嫌味な表情を向ける。
「だといいがな、君とブラッククラッカーには、随分と資金をかけているからな。……無駄にはしないでくれよ。
君たちに特別に用意した、賓客用の客室もだ。せいぜいゆっくりとくつろぐがいい、その分、本番では働いてもらうからな」
「くっ!」
ジンジャーブレッドは小さく舌打ちし、ゲルベルトに背を向けた。
「ご厚意には感謝するが……、ここからは俺は一人で開催地まで向かう。ここのベッドやソファーは柔らかすぎる、長く居れば身体がなまりそうだからな。
ブラッククラッカーは持って行くぞ、今のうちに、軽く肩慣らしさせてもらう」
、対するゲルベルトは、背中越しにジンジャーブレッドに言い残す。
「好きにするといい。――だが、宙域座標『SC―899CW』には近づくなよ。小型機用のワープ地帯であり、ここからだと一番の近道であるが、迂回して行け。……どの道、そこまで遠回りになることはないだろう」
それを聞いているか、聞いていないか分からない様子でジンジャーブレッドは、会長室から去った。
一人となったゲルベルトは、乱暴に鼻を鳴らす。
――ふん! いい気になりおって! ……まぁ構わん、最後に笑うのは、この私だからな――
彼はワインを再びグラスへと注ぎ、それを口につけた。
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