テイルウィンド

双子烏丸

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第九章 Grand Galaxy Grand prix [Ready?〕

青き海のツバメ

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 そこから、少し思い出したかのように続ける。
「そう言えば、リッキーさんとシロノさんは、先に着いているのかしら?」
 海賊による襲撃の後、シロノ達二人とは、離れ離れになってしまっていた。
 おそらく、先に惑星サファイアに着いているとは思うが……。
「多分先に向かったはずだけど、今頃、どうしているんだろうね。待ってくれていればいいんだけど」
 すると、そんな時に、外の景色にある光景が映りこむ。
 あちこちから現れる、幾つもの輝き、それは各星系、惑星からやって来たレース機体の輝きであった。
「――レース機が、あんなに沢山。やっぱり、親善試合に参加していたのは、一部だけだったみたい」
 そう呟くミオ、フウマも同じ考えだった。
「ああ。……こんなに大勢、楽しみだよ」
「ふふっ、それでこそフウマね。……あれ?」


 その輝きの一つ、一機の機体がこちらに向かい、接近して来ている。
 全く見慣れない機体、濃紺色で、まるで燕を思わせるような姿の機体は、テイルウィンドの方へと近づく。
 そして機体から通信が入り、フウマはそれを開いた。
「やぁ、フウマ・オイカゼ、再び会えて僕も嬉しいよ」
「おまえは……ジョンか?」
 現れたのは、親善試合でも一度会ったレーサー、ジョン・コバルトの姿であった。
「親善試合ぶりの再開だね。どう? 元気にしていたかな」
 相変わらず気さくな様子の、青年である。
「まぁね。――それにしても、それがジョンの機体って訳? なかなかいいじゃん」
 ジョンは得意げに笑う。
「元々は軍用の偵察機だった物を、ちょっとしたルートで手に入れたのさ。こっちでも色々と手を加えて、濃紺の塗装も僕の趣味だ。名前は『スワロー』、いい名前だろ?」
 そこでジョンは、こう言葉を続ける。
「さてと、レースでは僕とフウマとは競争相手だ、こんな僕が有名な一流レーサー、フウマに叶うか分からないけど、手加減するつもりはないさ。
 ……けど、それまでは知り合い同士、短い道中、仲良くしようぜ?」
 ここからは、シロノ達の代わりに、ジョンが同行する事になった。
 まぁ、旅は道連れ、世は情けとも言う。
 それに――断る理由だってないだろう。


 
 トライジュエル星系の第三惑星、惑星サファイアの大気圏を、二機は降下する。
「……それにしても、やっぱり海ばかりの所だね、ここは」
 眼下に広がるのは、一面青に覆われた、惑星の地表だった。
 波は殆ど見られず穏やかな海面は鏡のように滑らかで、済んだ青は惑星の名が冠する宝石、サファイアのようだ。
〈ふっ、海ばかりと言うのは、少し違うね。確かに陸地は存在しないけどその代わりに、惑星上には人間の住むコロニー、海上都市に人工プラントが幾つもある。
 鉱物資源は殆どないけど、エネルギーは太陽光で賄い足りない分は輸入している感じで……まぁそこはどうでもよくて、何より水産資源が銀河で指折りなくらいに豊富で、質がいいんだ! 何せ星全部が海で覆われているんだ、普通じゃ考えられない魚や生物が多く生息している。味だって美味に珍味に薬味、何でもござれ、だから他の星にだってサファイア産の生物が出回っているわけ〉
 画面上のジョンは、得意げにそんな説明をする。
「言いたいことは分かるけどさ、それがレースとどう関係して来る訳?」
 フウマの問いに、彼はやれやれと苦笑いする。
〈分かってないな、もっとレース以外にも、目を向けたらどうだい? レースだけじゃなくて、観光だとか色々な目的で、自由に星を巡ってみるのも悪くないよ〉
 これを聞いたフウマは、少し考える様子を見せる。
「レースも好きだけど、宇宙を自由に巡ってみる……か。たしかに、ちょっと憧れるな」

 
 ジョンは、嬉しそうに頷く。
〈そう言ってくれて、何よりだ! ……僕は君の事を、とても気に入っているし、その腕も買っている。だから――僕の仲間にならないか〉
 突然の、奇妙な発言。フウマは戸惑う。
「それは、どう言う意味?」
〈言葉通りの意味さ。実は僕、あるちょっとしたグループのメンバーなのさ。いつも色々な仕事入ってきて、レースよりも少しスリルだけど、宇宙各地を巡り廻ることが出来るんだ。
 何もレースだけじゃない。もっと、広くて新しい世界が、君を待っているのさ〉
 これには、少し興味が沸いた。しかし――
「悪いけど、僕にはまだ学校だってあるし、それに……」
 フウマはちらと、横にいるミオへと、目を向ける。
〈ああ、それなら心配ないさ。学校なら卒業するまで待つさ、それに彼女の事なら、一緒に仲間に迎えるよ、メカニックの腕もあるみたいだし、大歓迎だ〉
 熱心に勧誘しようとする、ジョン。
 正直どう答えればいいか、フウマは悩むが、ここはこう答えることにした。
「……うーん、ちょっと考えさせてくれないかな?」
 断ろうにも、魅力的な話に思えた。ここは答えを先延ばしにして、後で考えようと思った。
〈アハハハッ! 困らせてゴメン! そう言えば今からG3レースだったね。まぁ、今はレースの方に集中してよ。まぁそんな話があるって、後で考えてくれたら嬉しいな〉
 微妙に気になるところはあるけれど、ジョンの言う通りだ。
 フウマはとりあえず、この話については脇に置いておくことにした。

 ――だが、後にこの話を、意外な形で思い返すことになるとは、まだフウマは知る由もなかった。
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