123 / 204
第十章 Grand Galaxy Grand prix [Action!〕
逆転劇
しおりを挟む――――
二機の合流とともに、強い衝撃が互いの機体を襲った。
ジョセフの乗る玄武号と、そしてテイルウィンド、両機の側面がぶつかり合い、拮抗する。
――ちっ、坊主! 随分な真似をしてくれるじゃないの!――
口にした煙草を強く咥え、ジョセフは険しい表情となる。
合流するやいなや、テイルウィンドは回避運動を取らず、そのまま玄武号に接触した。
対するジョセフにしても、ここは譲るわけにはいかなかった。こちらも回避を行わずに接触を許し、両者機体で競り合う形になっている。
恐らくこのまま、気流の外へと、押し出すことが目的だろう。
が、最も……そんな勝負になった場合、有利なのは――
相変わらず険しいながらも、その顔には笑みを浮かべる余裕は、十分にあった。
――でもちょっと、頭が足りないんじゃないか? こんなぶつけ合いになった時には、そんなシャトル型だと色々不利なんだよね!――
互いに競り合う二機だが、有利なのは玄武号、テイルウィンドは次第に押されがちになっていた。
単純な四角のボックス型の玄武号は、大気圏内の飛行ではシャトル機にはやや劣るこそすれ元々汎用性の高いように作られた民間機だ、それなりには飛べる。
そしてこの場合においては外見の造りのために、衝突を行う際には平坦な面を持つ分、力の伝わりが良い。
対するテイルウィンドは曲線的な船体のせいで力が伝わりにくく、また飛行する分には有利だが、こうした事になると逆に空気抵抗を受けてしまい、更に不利となる。
次第に追いつめられる、テイルウィンド。
――悪いけど、コースアウトするのはそっちさ。なかなか楽しませてくれたのは褒めてあげるけど、残念だよ――
もはやギリギリまで追い詰めている。あと一押しで、今二機が乗る気流から、落とされようとしていた。
――それじゃあ……これでサヨナラだ――
そして勢いをつけ、最後の一押しを加えようと、した瞬間だった。
「何だって!?」
思わずジョセフは、思わず口に出して驚く。
玄武号で一押ししようとした――この瞬間。
テイルウィンドは玄武号を避け、その上を沿うように飛び越えて、180度回転しその位置を入れ替えた。
玄武号はその勢いのまま、気流から外れた。
――なるほど、やるじゃないの――
外れたのはほんの少し、しかしそれでもテイルウィンドには十分だった。
玄武号は元の位置に戻ろうと態勢を整えた隙に、機体はその先を、追い越した。
回転したせいで上下逆さまになったテイルウィンドは、それと同時にまたその位置で180度の急回転し、元へと戻った。
今や先を行くのはテイルウィンド、玄武号はもはや追い越され、その後ろを飛行する事になる。
こうなった以上、地の利はテイルウィンドに味方する。
大気圏飛行が得意な分、一度先を取り有利になった機体は、次第に玄武号を引き離す。
――ふっ、やはりこうなった以上は、向こうが有利って訳か。だが、こちらもまだまだ、負けた訳ではないさ――
見ると、すぐ向こうには晴れ間と、先には青空が広がる。
これで嵐ともお別れだ。
テイルウィンド、続いて玄武号が、その巨大な積乱雲から脱し、青空の下へと現れる。
途端、ジョセフは出力系の設定を操作し、出力のリミッターを外す。
この玄武号も、通常の最高速度以上の速度を、制限さえ外せば一時的に出す事が出来る。
最も、長く続ければ続ける程に機体への負担も増大し、マリンのシステム・スパークラー程ですらもないが、それでも加速は最高時よりも上がる。
探偵の仕事にはさまざまなトラブルが付き物、本来は、その時の緊急離脱の為のものだ。
……まさか、こんな事に使うことになるとは、ジョセフさえ考えもしなかった。
機体にだって相当な負担がかかる。本当なら、ここまでレースで本気を出す、そのつもりさえもなかった。
しかし、ここまで来て引き下がれない。
何しろ――いつの間にか、こんなに熱中しているのだから。柄ではないが、せめてこの時は最後まで、持てる力をすべて出し切りたい。
――さてと、続きを始めようじゃないか――
ジョセフは、本気を見せるかのような鋭い瞳を、強く輝かせる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる