テイルウィンド

双子烏丸

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第十章 Grand Galaxy Grand prix [Action!〕

白と黒と

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 ――――
 機体の多くは、ようやく惑星サファイアの空を抜けようとしている。
 第一陣、第二陣の多くは既に宇宙へと上り、第三陣、そしてごく僅かだが第四陣のレーサーも惑星の大気圏を、離脱する所だ。


 ……そんな状況で、ジンジャーブレッド、そしてシロノが競っていた。
 ――ふっ、運が良かったのもあるでしょうか、何とか見えるくらいの距離には――
 シロノは、満足そうな表情を見せた。
 そしてレーダーで、周囲の状況を確認する。
 星の大気圏を離脱するために、次第に高度を上昇させる二人の機体、ブラッククラッカーとホワイトムーン。もちろん、周囲には他のレース機体も存在している。
 おそらく、第三陣の上位グループと、一部、第二陣の機体も混ざっていると考えられる。
 だがもはや、シロノの敵ではない。狙うはジンジャーブレッド、ただ一人。


 レース機体は高高度にまで上昇しながらも、なおも競争を止めない。
 ホワイトムーンは邪魔な他機体を抜きながら、ブラッククラッカーへと迫るが、さすがはジンジャーブレッド、向こうもその分先へと行く。
 が……着々と、ブラッククラッカーには追い付いて来ているようだ。
 ――これは順調ですね、確かにジンジャーブレッドの腕は良いですし、機体だって高性能です。しかしそれは私と、ホワイトムーンだって――
 と、自信満々に思う、シロノ。
 しかし……それと同時に少し、疑問に思うことがあった。
 前方のジンジャーブレッドも、先を行く機体を、次々に追い抜いて行く。その動きは相変わらず、技量の高いものだったが……。
 ――けど……優秀な事は優秀なのでしょう。……けれど、親善試合の時にマリンと挑んだ時より、ほんの少し、反応が鈍っているようにも、見える気が――



 ――――
「ぐはっ! はぁ……」
 激痛と、頭痛と吐き気……、それらに苛まれるジンジャーブレッド。
 だが、それでもレースの最中、操縦を休めることはない。
 自らの脳と神経を機体のコンピューターに接続し、各センサーの情報を受け取り、操縦指令を機体に伝達する。
 ……だが、その繋がりさえ上手くいかない。
 外部からの情報も、朧気でもうろうとして、はっきりとしない。
 ――私の減退も、進んでいるわけか。くそっ!――
 ジンジャーブレッドの受け取る映像も、ややぼやけているように感じ、操縦もいくらか困難になっている。
 

 それでも、ここまで健闘しているのは、ジンジャーブレッドの強い精神力があるからだ。
 ――だとしても、私は、負けるものか――
 ブラッククラッカーは成層圏近くにまで到達し、上には宇宙が、ようやく見えて来た。
 今はジンジャーブレッドがリードしている、が……。


 すぐ後ろにまで迫るのは、シロノのホワイトムーン。
 先ほどからずっと追って来ているのは分かっていたが、もはや今は、かなり近くまで追いついていた。
 ――あれは、親善試合の時の……。確かシロノと言ったか、また私の所にまで来るのか!――
 満身創痍の身だが、ここでは止まれない。
 ままならない接続の中、ジンジャーブレッドは更に集中を深める。


 ――――
 ――ふっ、ジンジャーブレッド! 今度こそ親善試合のようには、行きませんからね!――
 目の前のブラッククラッカーに、シロノは闘争心をくすぐられる。
 彼の高い操縦技術でホワイトムーンを駆り、ジンジャーブレッドを追い抜こうと試みる。
 ……が、やはり相手は相手、あの時と同様に隙のないディフェンスで、それを完璧に防ぐ。
 ――私一人では、やはり無理がありますね。この操縦でも……厳しいのでしょうね――
 しかし、同時にこんな事も考えていた。
 ――けどやはり、以前よりも少し、動きが鈍いですね。これなら――
 ホワイトムーンは左方から、ジンジャーブレッドを攻める。鈍くなったとは言え、強敵に変わりない。当然、それは防がれた。
 だが同時に……ブラッククラッカーのその動きには、僅かな隙が見えた。
 ――厳しいかもしれませんが、幾らか攻めれば、もしかすると、行けるかもしれません――
 まだ燃料は、大丈夫だ。少しくらい勝負に出た所で……問題ないはず。
 ――さてと……私とホワイトムーンが、どこまで頑張れますかね?――



 ――――
 惑星サファイアの大気圏を抜け、今や二機は宇宙空間。 次は惑星ルビー、その小惑星群へと向かっている。
 あそこまで行けば――ブラッククラッカーなら再び、有利に立てる。しかし――
 ジンジャーブレッドの額には、冷や汗が滲む。
 機械に覆われ姿は見えないが、彼の表情にも余裕はない。機体の動作を指示する度に、脳髄に直接激痛が走り、息が荒くなり表情が歪む。
「…………」
 喉も枯れて、呻き声にすらならない。だが、それでも……。
 先をリードするブラッククラッカーと、それに迫るホワイトムーン。
 持前の高い機動力と、ジンジャーブレッドの反応で、背後の機体が先行するのを防ぐ。
 だが、肝心の操縦者である彼の疲弊しきった能力では、もはや防ぎきれるかどうか。
 ――今の私では……やはり、ここで限界、なのか――

 
 しかしジンジャーブレッドにはそう考える、余裕もなかった。
 はっと気が付くと、再びホワイトムーンが追い抜こうと迫る。
 とっさに彼は反応し、それも防ぐことには成功……するも、あと一瞬遅れれば、間違いなく今ので追い抜かれていただろう。
 ――今頃あのパイロット、シロノは惜しいと思っただろうな。二度の挑戦でここまで行くとは、さすがだな。それに引きかえ、私は――
 昔のジンジャーブレッドなら、こんな苦戦などする筈なかった。
 それでも辛うじて彼を支えているのは、かつて現役の頃と同じように、そして自らが伝説と呼ばれる所以となった――まだ誰にも追い抜かれてはいない、その一点が残っているからだった。


 例え追い抜かれようとも、後で再び巻き返し優勝する――――では、ダメなのだ。

  『どんなに早く走っても、誰も僕を追い越せない』

 大昔の童話、ジンジャーブレッドマンで語られる、その一文。
 そして、その名を自らに冠し、名前の通りに一度も他の追随を許さず、常に誰よりも先を飛び優勝して来た伝説のレーサー、ジンジャーブレッド。
 だが……今は追い詰められ、それすらも危うい。
 ――何が何でも、私は……負けるわけには。例え、どんな手段を使ってでも――
 そう、ここで先を越されるわけには、どうしてもいかない。
 だから――
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