テイルウィンド

双子烏丸

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第十章 Grand Galaxy Grand prix [Action!〕

対話

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 ――――
 ――うん! 上手く行ったね! これで形勢逆転さ、シロノ!――
 シロノの推察通り、あの時フウマは向かい風だった気流の流れが、僅かに変わりつつあるのを察知した。
 ただ、流れが変わる始めていると言っても、どれ程分かるかは不明ではある。
 少し運が左右する部分ではあったが……それでも向かい風だった今より悪くなる事はない。そう考えての賭けだったが、見事に的中した。
 気流は変わり、追い風に乗ったテイルウィンドは洞窟を通過したホワイトムーンよりもリードし、何とか追い抜いた。
 

 多少運が良かったかもしれない、でも逆転は逆転、これでシロノには勝利した。……わけだが。
 ホワイトムーンは再び、背後から追い上げて来ていた。
 ――でもやっぱり、これで終わりではないよね――
 接近するホワイトムーンに、フウマは苦戦する。
 腕と技量の優れた天才レーサー、シロノと、加速性能、機動性能、レーダー性能など、全性能が高い最新鋭機――ホワイトムーン。
 長年フウマとテイルウィンドが戦って来て、一度も勝てない程の強敵……そしていつか打ち倒すべき大きな壁、ライバルである。
 

 しかしこのG3レースで、ジョセフにリッキー、フィナとティナ、加えてジョンに……そしてマリン、フウマと同じあるいはそれ以上のプロレーサーを相手にした。 
 幾つも熾烈な戦いを重ねて来た、今のフウマなら、シロノに対しても何とか互角に戦える。
 ――やっぱりやるね、シロノ! でも僕だって成長しているんだよ――
 互いに互角の飛行を見せる二機。一度並びかけるも、それでさえフウマはリードを譲らない。
 ――ふっ、どうだい! ホワイトムーンみたいに最新鋭とは行かないけど、テイルウィンドだって良い機体なんだから――


 ……しかし、動力系のオーバーヒートは、なおも悪化していた。
まだマリンとの闘いの時みたいな不具合はないが、もし起こるとするなら、今度は無事で済むかどうか。
 それに各スラスターも調子が良くない。しかし……そんな状況でも対等に渡り合えているのは、おそらく――同じくホワイトムーンも、消耗をしているからだろう……。
 テイルウィンドと、ホワイトムーン、その距離は殆ど無いに等しいが、僅かにテイルウィンドが優勢に立ち、形勢を維持する。
 それだけでも、かつてのフウマと比べれば、随分な成長ではある。



 だが、それだけには留まらない。
 トップを飛行する、ジンジャーブレッドのブラッククラッカーとも、あと僅かで追いつく。
 ――このまま行けば、ブラッククラッカーにだって追いつける。……ジンジャーブレッド、憧れのレーサーである貴方と、ようやく相まみえることになるなんて――
 今でも信じられないが、それでも、こうしてたどり着いたのは事実だ。


 すると当のジンジャーブレッドから、通信が届いた。
〈……また会ったな〉
 通信からは、そう彼の声が聞こえる。
「……まあね。あの時助けてくれた事には、感謝しているよ。だからこうして、貴方と戦えるのだから」
〈そう、フウマ・オイカゼと言ったな。覚えておいて、正解だった〉
 ジンジャーブレッドの声からは、それに喜ぶような感じが見られた。
〈シロノに続いて、誰かがまたここまでやるとは、私は考えもしなかった。
 だが、君はここまでたどり着いた。未熟と言った言葉は取り消し、そして詫びよう。もはや君は……正真正銘に、立派なレーサーだ〉



 フウマに対し、まさかの言葉。
 憧れていた、あのジンジャーブレッドから、認めてくれたひと言。とても……嬉しかった。
「だって、僕もここまで頑張ったから。それに……他のみんなだって」
 今まで相手にした者も、それぞれの思いを抱き、レースをしていた。それはフウマも同じ、ジンジャーブレッドだって、そうだ。
「多分、目指すものだって、同じさ。頑張って、楽しんで、機体や腕を磨いて……全力を尽くして、優勝を目指すんだ。
 少なくとも僕は、これまでそう思って来た。それに、僕を応援してくれる人も――いるんだ。
 だから……もちろんジンジャーブレッドさん、貴方にだって負けないよ!」
〈ふむ、言うではないか〉
 感心する、ジンジャークラッカー。しかし――
〈……だが私はそれ以上に、譲れない物がある。負けることは、ありえないのだ〉
 彼は強い覚悟を決め、フウマに言い放つ。
〈それでは、これで失礼しよう。君は君の……全力を出すといい〉
 最後にそう言い残し、通信は終了した。



 やはり相手は、ジンジャーブレッド。
 機体や腕はもちろん、その精神も凄まじい。
 だが、それでこそ相手のし甲斐のある、立派なレーサーだ。
 ――さてと、それじゃあ行こうか。G3レース前半戦、最後の花舞台さ! シロノにジンジャーブレッド、相手に取って不足なしってね!――
 とても楽しそうに、フウマは満面の笑みを浮かべる。
 それはまさしく……年頃の少年の屈託のない笑顔、そのものだった。
  
  
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