テイルウィンド

双子烏丸

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第十章 Grand Galaxy Grand prix [Action!〕

追い風の助け

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 ――――
 ――ふっ、一度は差を伸ばしたが、再び迫って来るか、シロノ・ルーナ――
 首位を飛行するのは、ブラッククラッカー。
 ジンジャーブレッドの体調は良好で、機体を問題なく動かせている。
 ――確かに優れたレーサーと機体だが、それでも伝説と呼ばれた、私に敵うものか!――
 ブラッククラッカーは、近道である渓谷の洞窟を抜け、再び外へと出た。
 先ほどまでの大雨は弱まっているが、それでも雨は振り続けていた。
 そして風も強く吹いている……。だが、それは追い風とは真逆の向かい風だ。これはレース機にとって障害となる。近道と言う二重の意味でも、渓谷の溝や洞窟を通った方がいいだろう。


 
 ブラッククラッカーはそのホワイトムーンさえ上回る、高い機動力で渓谷内を掻い潜る。
 ――ゴールまで、あと少しか。……他愛もない、と、言いたい所だが、そうは言かんな――
 背後からは、不利な状況ながらもホワイトムーンが迫る。
 ――速度性能は、ホワイトムーンが上だからな。それに背後がら、もう一機……か――
 そして更に一機、別の機体が迫って来ていた。――フウマ・オイカゼのテイルウィンドだ、
 G3レース、本戦へと向かう間の宇宙空間で、偶然助けた少年……。ジンジャーブレッドはその事を覚えており、機体にも見覚えがあった。
 

 これには、さすがの彼も笑いを堪えきれなかった。
 ――まさか、あの小僧までもが! くっ、くくくく! 面白いな、楽しませてくれる――
 ジンジャーブレッドは、胸の奥底で、沸き立つものを感じる。
 ――こうして、強力な相手がいる。それでこそレースだ! 私も……全力で相手してやろう!――
 すべては万全、彼は本気で戦うことを、改めて誓った。



 ――――
 テイルウィンドは渓谷を飛行し、ホワイトムーンに迫る。
 最新鋭機とは行かないが、それでも機体性能は低くない。
 ――いくら何でも、向こうも全く消耗してない訳は、ないからね――
 ディスプレイには、狭い渓谷のすぐ前を飛行するホワイトムーンの姿が見えて来た。
 ――ようやく、ここまで追いついた。まずはシロノから――
 ……だが、途端にホワイトムーンの姿は、フウマの前から掻き消えた。
 見るとすぐ横にはぽっかり空いた洞窟が一つ。おそらく、そこを通って行ったのだろう。


 ――ふふん、シロノが通ったって事は、近道になるわけだ。なら当然、その後を追えば――
 フウマはそう考えて、後に続こうとした。
 ……しかし、ふと彼は、レーダーの画面に示される、風圧、気流に関する気象情報が目に映った。
 ――いや待てよ。これは……運がいいかもしれないね――
 と、何を考えたのか洞窟への進路を諦め、そのまま上空へと昇る。
 ――ちょっと賭けになるけど、上手く行けば――



 ――――
 時間は少し前に遡り、渓谷を飛行していた時だった――
 ――上手く追って来ますね。しかし……まだまだ足りません――
 シロノには、その背後から迫るテイルウィンドの姿が、確認出来ていた。
 確かに迫っては来ているものの……この調子ではジンジャーブレッドのブラッククラッカーどころか、自らのホワイトムーンにさえ追いつくのは難しい。
 ――まぁ、仕方がないかもしれませんね。ここまでの頑張りは評価しますが……、もう余力も少ないでしょうから――
 

 ――さて、それでは少し近道をしましょうか。私もジンジャーブレッドに、追いつかないといけませんし――
 そしてホワイトムーンは、横に見えた洞窟の中へと突入する。
 レーダーによれば、そこが一番の近道らしい。ショートカットには、丁度いいルートだ。
 洞窟の中は暗く狭く、機体はその三日月状のブースターを閉じ、機体の幅を短くした状態で飛ぶ。
 曲がりくねった飛びにくい場所ではあるが、シロノはそれに意を介さない。
 ――まだまだ、これくらいなら、私には大したことありません――


 すると、そこでシロノはある事を思い出した。
 ――そう言えば……フウマはどうしているのでしょうか?――
 ふと考え、シロノはホワイトムーン後部の状況を確認する。
 映像には……彼の乗機、テイルウィンドの姿は見られない。
 ――おや? これくらいならついて来るかと思いましたが、いないみたいですね――
 外に向かい風が吹いている今、恐らく、現段階ではここが一番の近道だ。なのに、機体の姿はない。
 少しだけ不思議に思うが、考えていても仕方ない。
 ――まぁ向こうも、無理しているかもですし、厳しかったのでしょうね。……これでフウマとは、サヨナラですね。呆気ないですが――


 おそらくこれでは、もうフウマが相手として来ることはない。
 少し残念に思ったシロノだが、今はそれよりジンジャーブレッドだ。
 それに、もうすぐ出口が見えて来ていた。
 彼の乗るホワイトムーンは、洞窟を脱して地上へと出る。
 出た先は渓谷内の横穴でなく、地上のジャングルに空いた、縦穴だ。機体はそこから、垂直で飛び立った。
 それと同時に――

  
  
 垂直飛行するホワイトムーンに重なるかのように、一機の機体が至近距離で交差する。
 ほんの一瞬の出来事だったが、その一瞬で、シロノはその姿を見た。
 ――両翼を広げ、空を飛ぶその姿…………まさしくそれは、フウマのテイルウィンド、そのものだった。
 


 ――――
 それはあまりに突然の、出来事だった。
 ホワイトムーンは飛び立った後、すぐに水平へと戻った。……が、既にテイルウィンドに先頭を取られてしまっていた。
 ――これは一体、確かにショートカットをしたハズですが――
 シロノは驚き、一瞬理解出来なかったが、レーダーの気象情報を見て、原因を察する。
 原因は……簡単な事だった。
 さっきまで外はゴールの方向とは逆に、向かい風が吹いていた。
 しかし――今は風向きが変わり、ゴール側に向かって風が吹く、つまり追い風だ。
 

 ――私が洞窟に入った後に、空気の流れが変わったみたいですね。これは仕方ないと言いますか……見事に、してやられましたね――
 洞窟に入った後なら、幾らホワイトムーンのレーダー性能と言え、外の気象を知る事は難しい。テイルウィンドが若干遅れたからこそ、その前兆を察して追い風に乗った、と言う事だ。
 ――テイルウィンド……ふふっ、名前にふさわしい逆転劇ですね
。ですが――
 先を越された、と言ってもまだ大して離れていない。これなら、まだどうにでもなる。
 ホワイトムーンの燃料も少ないが、あと少しなら相手に出来るはずだ。
 ――腕が上がったのは認めますが、私も負けられませんからね。……もう少し付き合ってもらいますよ――


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