テイルウィンド

双子烏丸

文字の大きさ
149 / 204
第十章 Grand Galaxy Grand prix [Action!〕

勝ち取る勝利

しおりを挟む
 ――――
 ブラッククラッカーを駆る、ジンジャーブレッド。
 もはや、ラストスパートの終盤――彼はトップを全力で死守する。 
 ――ふっ、これでこそレースだな。……ここまで全力を出せる相手がいるとは、良いものだ――
 確かに有利ではあるものの、やはり相手が相手だ。それに先ほどは圧倒していたが、ここまで来ればフウマ、シロノは着々とブラッククラッカーの機動に、慣れつつあった。


 そんな二人を相手には、半端な実力では足りはしない。
 後ほんの僅かの距離だが、それでも、全身全霊を賭けなければなならいくらいに、ジンジャーブレッドにとっても強敵だった。
 勿論、負けるつもりはない。
 かつて、無敗を誇ったジンジャーブレッドとしてのプライドと、アイデンティティを守るため。……ではあったが、それはもはや二の次である。
 それよりも今は、レーサーなら誰もが持つ、ただ早く飛ぼうと言う意思そして――純粋にレースを楽しむと言う、思いが強い。
 ――ああ、そうだ。こうして飛ぶことこそ、本当に、私が求めていた事なのだ。
 ただレーサーとして、純粋に自由に楽しみ、全力で飛ぶことこそが、本当の在り方だと分かった。……今更、すぎるがな――
 それは先ほど、フウマも話していた事でもあった。ジンジャーブレッドは改めてそれを、身に感じる。
 もはや量子化次元加速ドライブを、使う必要もない。自分の好きなように、レーサーとして本気のぶつかり合いをすればいい。
 

 だが、再び発作が起こったのは、そんな時だった。
「うっ! ……ぐあっ!」
 身体の全神経に走る痛み、とりわけ、頭に走る痛みはとりわけ酷い激痛である。
「……かはっ、はぁ……はぁ……」
 今まで発作が襲わなかった分、その痛みは強く増していた。これでは……もはや機体操作も難しい。
 ――しまった、これでは……ブラッククラッカーの動きが――


 ――――
 対するシロノも、フウマそしてジンジャーブレッドとの決戦に、全力を尽くしていた。
 ――やはりこれ以上は、厳しいですか――
 ここまで追いつき、拮抗した勝負を繰り広げるものの、それでもジンジャーブレッドを抜き、トップに立つのは厳しい所があった。
 

 それに――テイルウィンド、そしてフウマも。同時に相手しているのもあるが、やはり手強い相手だ。
 思った通り、以前よりも成長している。
 ――ふふっ。それでこそ、私のライバルですね――
 彼の成長に対し、少しシロノは微笑ましく思った。
 本当ならそんな暇など無いだろうが、それでも、そう思わずには……いられない。

 
 ホワイトムーンは、テイルウィンドと並び熱戦を繰り広げる。
 そして、互いに競いながら――両機が目指すのは、ブラッククラッカーが君臨するトップの座。
 ゴールまでは一刻の猶予もない、残る力を出し切り、そのトップをジンジャーブレッドから掴み取ってみせる……。そうシロノは強く願う。
 ――フウマも、ジンジャーブレッドも、どちらとも強敵です。……でも、だからこそ、張り合い甲斐がありますが――
 燃料こそ多く消費したが、テイルウィンドみたいに無茶な勝負が少なかったためか、機体やその機構そのものには、全く損傷はなく消耗も僅かであった。
 だからこそ、フウマ以上に自身の機体のポテンシャルを、大いに発揮出来る訳なのだが……それでも、彼のテイルウィンドはなおも追いすがり、ジンジャーブレッドのブラッククラッカーには、未だ追い付けていない。
 ――本当に……これだからレースは面白い。しかし、私だって――

 

 そんな時……前方を飛行していたブラッククラッカーの動きが、一気に鈍くなった。
 機体は殆ど動かなくなったどころか、若干不安定なぐらつきを見せ、速度までもが低下する。
 ――これは、ブラッククラッカーにも不具合が?――
 シロノはその異変に、疑問を抱いた。……が、これは絶好の機会だ。
 ――いくらジンジャーブレッドでも、機体に無茶をさせすぎたみたいですね。残念ですが……ここで越させてもらいますよ!――
 今なら相手も隙だらけだ、シロノはついに決心した。 
 

  
 ――――
 ブラッククラッカーの異変は、フウマも察知した。
 加えて、ライバルであるシロノがこの機会を逃さず、一気に行動に移ったことも。
 ……当然、フウマもそれを逃す手はない。
 ――悪いね、ジンジャーブレッド。本当なら正々堂々、実力で打ち破りたかったけど……こっちだって満身創痍なんだ。
 所謂、運も実力の内ってことさ――
 ホワイトムーンにほんの僅か遅れたが、フウマが乗るテイルウィンドもそれに続き、ブラッククラッカーへと迫る。
 そして――



 
 ――ホワイトムーンとテイルウィンドは、ブラッククラッカーを追い抜いた。



 もちろん、これはジンジャーブレッド、もしくはブラッククラッカーのどちらかに不調があったからこそだ。
 だが、それでも……ここまで来れたのはシロノ、そしてフウマの実力、頑張りがあったからである。
 それは十分に――誇るべき事だ。

 
 フウマは大いに喜ぶ。
 ――やった! ついに僕は、ジンジャーブレッドに勝ったんだ!――
 後部ディスプレイには、追い抜いたブラッククラッカー。それはまさしく、あのジンジャーブレッドに上回った証であった。
 もちろん正確には勝ったと言えず、ただ追い越しただけにすぎない。
 しかしそれでも、これはまさしく快挙だ。
 ホワイトムーン、テイルウィンドの両機と、パイロットであるシロノとフウマ。
 

 二人はついにジンジャーブレッドによる無敗の伝説を……ついに打ち破ったのだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...