テイルウィンド

双子烏丸

文字の大きさ
150 / 204
第十章 Grand Galaxy Grand prix [Action!〕

前半戦、決着

しおりを挟む
 ――――
 ジンジャーブレッドは、ついに敗北を喫した。
 ――まさか、ジンジャーブレッドである私が敗れるとは。やはり…………『違う』と言うのか――
 未だその身体には激痛が走る。だが、彼にとって初めての敗北、肉体の痛みよりも、精神的なショックが大きかった。
 しかし、彼は何かを悟ったような、諦めのついたような……まるで憑き物が落ちたような、さっぱりした様子を見せる。
 ――だが、最後で私は私なりにレースに全力を注ぎ、そして敗れた。もはやそれで満足だ、悔いはない、例え私が――


 
 ……高潔な精神を持つジンジャーブレッド。
 だが――残酷な運命は、それを踏みにじった。




 ――――
 突然、自身の脳髄そして神経に、何かが無理やり流れ込んで来た。
 ――何だっ!? これは? 一体――
 激しい頭痛に、吐き気、自分が自分でなくなるような、脳が蝕まれ支配されて行く感覚……。
 考えられる可能性は、一つだけだ。
 ――まさか、ブラッククラッカーのシステムが、私を支配すると言うのか!――


 人機一体システム、それはパイロットの神経を直接、機体システムに接続して高精度で動かすものだ。
 つまり人が機械を支配するのが本来のありかた。その逆など考えられる訳がない、はずだった。
 しかし現実それは起こっており、ジンジャーブレッドの意識は、もはや機体をコントロールすることさえ――出来なくなりつつあった。
 ――馬鹿な! 支配権は私にしかないはずだ。機体制御のコンピュータが、勝手に機体と私の脳神経を操り出すなどと――
 自我を保つことさえ、やっとの状態だ。
 自身の脳が機体によって、勝手に動かされているのが分る。


 言うなれば、機体制御は完全にオートとなり、ジンジャーブレッドは機体コンピューターの単なる、補助システムにすぎなくなっていた。
 そして、コンピューターが自動で動かそうとしているものは――
 ――よせ! そんな事など、私は絶対に認めはしない!――
 それが何なのかを理解するジンジャーブレッドは、必死に抵抗しようとする。……が。
「うっ……ぐあああああっ!」
 彼の意に反し、無理やり脳を操られる事への拒絶は、想像を絶した。
 だが、そんなジンジャーブレッドの抵抗も――もはや叶わなかった。

 
  
 ――――
 ブラッククラッカーを追い越し、残るはゴールに辿りつくだけだ。
 ……しかし、その前に。
 ――けどこれで、シロノには、少し先頭を取られてしまったな――
 そう、先ほどの出来事で、ホワイトムーンにほんの僅か、リードされてしまっていた。
 ゴールとなるリングは、目の前に大きく迫っている。
 ――最後の最後……いけるか――
 フウマがそう考えていた時……後方から異変を感じた。


 後ろを飛行するブラッククラッカー、その全体が怪しく、銀色に輝き出す。
 ――あれは、親善試合の時の――
 フウマも覚えがあった。
 親善試合で見た、あの超加速の前兆……しかも、今度は前方にテイルウィンド、ホワイトムーンの両機が存在していた状態だった。
 嫌な予感を――彼は感じる。



 ――――
 そしてそれは、シロノも同様に――。
 ――ジンジャーブレッド、まさかあの加速を……正気ですか!?――
 親善試合で直接目にした彼は、この状況の不味さを、フウマ以上に感じていた。
 後方に見えるブラッククラッカーの輝きは、更に増す。このままでは――ホワイトムーンとテイルウィンドに衝突しかねない。
 ――とにかく、今は進路から避けないと――


 とっさにホワイトムーンは右へと避ける。
 フウマも同じ事を考えたのか、逆の左方向へと舵を取った。
 それと同時に……後ろから、光り輝くブラッククラッカーが、ついに加速した――



 ――――
  両機とも間一髪の所で間に合ったらしく、二機のすぐ真横を、ブラッククラッカーは急加速し、飛び去った。
 そして機体は……呆気なく、一気にゴールを迎えた。


 フウマはその姿を、見送ることしか出来なかった。
 ――結局、ジンジャーブレッドには逆転されちゃった、か。 残念だな――
 ジンジャーブレッドとの勝負に、敗北したフウマ。そして……テイルウィンドにもとうとう、限界が訪れた。 



 次の瞬間、テイルウィンドの動力機関の機能が、急速に低下し出した。
 速度を失う機体、ホワイトムーンはそれを追い越し、ブラッククラッカーに次いで易々と二位にゴールインする。
 続いてフウマは、シロノにも敗北を喫した訳だ。


 だが、不幸中の幸いと言うべきか……動力部は停止さえせず、辛うじて稼働を続けていた。
 あまり動かしていないせいか、熱も少しづつではあるが低下している。オーバーヒートによるこれ以上の危機は、ないだろう。
 ――速度は低下したけど、全然飛べるもんね。故障して止まることも、なかったから。これもミオが、よく整備くれたおかげ……だよね――
 改めてフウマは、彼女のメンテに感謝した。
 後はもう……ゴールに向かうだけ。テイルウィンドはどうにか飛行可能であり、それは何とか叶いそうだ。
 ――結局僕は三位か。でもまぁ、案外悪くないかも。僕なりにベストは尽くせたんだからさ――
 機体は難なく飛行し、黄金のリングをくぐり抜け、ゴールインを果たした。
 ――これでゴール! ……って所だけど、最後は地味な終わり方だね――
 一人フウマは、苦笑いを浮かべた。
 

 結果、フウマが満足した終わりではなかったが、……これで前半戦は幕を閉じた。
 残りの勝負は、後半戦に引き継がれることになるだろう――


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...