テイルウィンド

双子烏丸

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第十一章 束の間の安寧と、そして――

温泉での二人

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 ――――
 ジョンがフウマに通信を入れていた、その時。
 ズボンのポケットの通信端末には着信が入り、バイブレーションと着信音が鳴っていた。
 ……もっとも、それを聞く当の本人は、ここにはいない。
 木造で作られた、和風の更衣室、そこの棚の中に、フウマとミオの服はそれぞれ入っている。
 そして、当の本人たちと言えば――。


「ここが、オンセンって所か。……でっかいお風呂だね」
 浴場も、いかにも風情があると言った感じだった。
 入口手前にはそれれシャワーと石鹸にシャンプー、そして木製の風呂桶に椅子と言ったアイテムが置かれていた。
 壁も木造建築の建物らしいが、所々岩肌の壁が覗き、いかにもな雰囲気を醸し出す。
 フウマは椅子の一つに座り、シャワーで体を洗う。 
 ……ちなみに腰には、タオルを巻いた状態だ、完全に裸であるわけではない。
「そうね。プールみたいに、泳げちゃいそう。
 確か去年だったかな、フウマと友達と一緒に、リゾート惑星のプールに、遊びに行った事もあったよね? まるで南国の海岸みたいな感じでさ、もっと、海みたいに広かったの、覚えてる?」
 一方、ミオは反対側に座っているらしく、背中越しからシャワーを浴びる音が、聞こえて来る。


 フウマは頷いた。
「あの時は、ミオも楽しそうにしてたよね。誰よりもはしゃいでいてさ、泳ぎだって上手かったし……正直言って、見惚れちゃってたんだ」
 これを聞いたのか、後ろからミオの笑い声が聞こえてきた。
「そんな時にも、私を見てくれてたの?、ふふっ、嬉しいな」
「まぁね。だって昔から――――いや、今更言う必要もないか」
 フウマは天井を呟いて、嬉しそうに微笑む。


「そうそう、一方で僕は、全然のカナヅチでさ、レースでは大活劇なのに泳ぎはダメダメって、笑われたっけ。んでもって、途中からミオに教えてもらって、何とか泳げるようにはなったっけ」
「それも私とフウマの、良い思い出って所ね、良かったらここでも、泳いでみる?」
 軽くミオは、そんな提案をする。
 だが、対するフウマは、途端に顔が赤くなった。
「ちょっと! プールと違って、今は水着さえ着てないんだ! そんな真似なんて……」
「ふっ、冗談よ、フウマ」
 おかしそうにクスっと、ミオは笑みをこぼす。



「あはは、これは一本取られたね。
 でも――僕たち二人だけだとここも、十分すぎるほどに広いさ」
 たしかに中にいるのは、フウマとミオの二人だけ。
 チケットによると、この温泉は貸し切りらしい。だから他に、客は入って来ない、と言うわけだ。 
 一通り体も洗い、今度はシャンプーで、頭をシャカシャカと洗い出す。
「あら? 私は好きだよ。フウマと私と、こうして二人――素敵じゃないかな」
 そんなフウマの後ろ姿を、ミオはちらっと見て、こんな事を言う。
「確かにこんな状況で二人ってのは、そりゃ初めてかな。プールなんかとは、また違うしさ。
 まさかコンヨクって……ミオと一緒にお風呂に入ることなんて、ビックリしたさ」
 あの時マリンが言っていた、混浴と言うのは、男女がともに一緒の場所で温泉に入る事を指していると、温泉に来てから初めて分かった。
「本当に、変わってるよね。
 ――さてと、ちゃんと全身も洗ったし、いよいよオンセンにでも入ろうか」
 フウマは椅子から立ち、ようやく温泉に入ろうとする。 


 ここの温泉は岩肌に囲まれた中に、泉のように沸いていた。
 広い温泉から立ち上る湯気は、辺りを白く曇らせる。何だかとっても、暖かそうだ。
「ねぇ、ちょっと熱そうみたいだけど……」
「なあに、これくらいなら問題…………熱っ!」
 温泉に足先から入ったフウマ。しかし、思ったよりも熱かったらしい。
「フウマ、大丈夫?」
「うん、思ったより少し熱くて、ビックリしただけさ。確かにいつもの風呂よりも熱いけど、それでも、入れなくはないさ」
 さっきは驚いて足を引っ込めたが、再びゆっくりと足から温泉に入り、そして全身で浸かった。
「――うーん、とても気持ちがいい、レースでの疲れが全部取れそうさ
。チケットをくれたマリンには、感謝しないと」
 続いて、ミオも温泉に入る、チャプっとした水音が聞こえた。
「ううっ、フウマの言う通り、ちょっと熱いね。だけど……なかなか良い気持ち」
 そう言って、彼女はフウマに笑いかける。……が。
「ねぇ、フウマ」
「ん?」
 フウマはリラックスしているせいか、ちょびっと呆けた返答を返した。そんな彼に、ミオはこんな事を聞いた。
「……いつまで、そんな事してるの? ずっと私から目を背けなくっても、別にいいのに」
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