テイルウィンド

双子烏丸

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第十一章 束の間の安寧と、そして――

海賊、再び

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 ――――
 爆発音の正体は、コート姿の女性が握る、大型のハンドガン。
 彼女が撃った会場の壁には、大きな穴がぽっかりと開く。
 唖然とする辺りの人々……。女性はそんな中で、高らかに宣言した。
「この会場、そしてスカイガーデン・ポリスの全ては、我々クロスメタル海賊団とフォード・パイレーツの手中にある!
 さて、大人しくして頂こうか!」
 サングラス、そして帽子がはずれ、紫の長髪と、そして片目の機械仕掛けの義眼が見える。
 クロスメタル海賊団の首領、キャプテン・サイクロプスは、大勢の前へと華麗に姿を現した。
 


「くそっ! どうしてあんな奴を、会場へと入れた! まぁいい、すぐに取り押さえさせてもらう!」
 勿論これには、警備員も動かないわけがない。
 何しろ相手は一人、すぐに取り押さえられると、そう考えていた警備員の隊長は指示を出す。が……
「動くなと言ったろう!」
 突然、他の警備員が、先に動こうとした隊長に対し、銃口を向けた。
 それは他も同様だった。海賊は彼女以外にも、警備員やウェイトレスなどに変装し、多く潜入していた。
 どうりで、あんな武器を持って、ここに入って来られたわけだ。 
「さぁ、武器を全て捨ててもらおうか。警備員の装備については全て分かっているから、胡麻化しても無駄だ」
 変装していた海賊は、速やかに警備員の武装を解除し、そして、他の客とともに会場の中央へと集める。
 

「悪いが、こちらも仕事だからな。……おや?」
 するとサイクロプスは、人々の中に、ゲルベルトの姿を確認した。
「誰かと思えば、ゲルベルトさんでは、ありませんか」
「う……私は、お前など知らん!」
 かつては妨害工作をサイクロプスに依頼した、ゲルベルト。とてもではないが、彼女との関係を公に出来ない。
「ふむ、知らないふりか、まぁいい。
 そして――スカイガーデン・ポリスの市長さん、貴方たちとこの都市全ては、我々の人質となる。理解して頂けただろうか」
 ちょうど近くにいた、都市の市長に対してもこう話すサイクロプス。
 だが、市長は屈する様子はない。
「たとえ私たちを人質にしようとも、都市全体を人質にしたと言うのは、あまりにも大げさすぎはしないかね。
 現に君たちが制圧したのは、たかがこの会場程度ではないか」
 しかし、彼女はくすりと笑う。
「おや、そう言えばまだ言っていなかったな。諸君、上空を見るといい」
 晩餐会の天井は、その中央が大きな窓となっていた。そこから見える夜空には――ある物体が浮かぶ。


 まるでシャチのような、流線型の優美な、濃紺色の大型宇宙船。
「フォード・パイレーツの旗艦――ラグナシア、言っただろう、会場とスカイガーデン・ポリスの全ては、クロスメタル海賊団とフォード・パイレーツの手中にある……と」
 人々は都市の真上へと浮かぶ、ラグナシアの威容に、思わず息を呑む。
 ――が、それはすぐに、恐怖へと変わる。
 ラグナシアの底部が展開し、大型の砲塔が出現し、その砲塔がスカイガーデン・ポリスへと向けられる。
「私の船ではないが、あの高エネルギーのビーム砲の威力は、一撃で都市に壊滅的打撃を与えられる――との事だ。
 お分かりかな? 人質は諸君らのみならず、都市全体であることを」


 これには、さすがの市長も、どうする事も出来ずに項垂れる。
「ぐっ……」
 苦しい表情を見せる彼と対称的に、サイクロプスは優雅にほほ笑む。
「これでお分かりかな、市長。特別に連絡を許してやろう、市長は市長らしく、住民に避難指示でも出すべきではないか?」
 あの上空のラグナシアは、会場のみならず都市全体の住民にも、姿は丸わかりだろう。
 おそらく混乱も起こっているはず……、今はそれを鎮めることが、市長の使命だった。
 彼は通信端末を手に、住民、都市にいる人々に対する避難勧告を出した。
 またサイクロプスは、こうも続けた。
「それに、ここに来ている銀河捜査局の連中にも、くれぐれも下手な手を出すなとも、伝えてくれたまえよ
 もし変な真似をしたら……分かっているな? とな」
 



 ――――
 格納区画では、ミオがロボットを操作し、修理を行っていた。
 ――ふぅ、これで修理は全部、完了かな。後はちょっと微調整を行えば――
 見ると他の機体でも、スポンサーのスタッフや、また雇われたメカニックが、修理を行っていたのが見える。
 そんな中で、彼女が修理を終えた、ちょうどその時……


〈緊急速報、スカイガーデン・ポリスは現在、危機的状況の中にあります。本都市のすべての人々は速やかに、指定された最寄りのシェルターへ避難して下さい〉
 突如警報音とともに、このようなアナウンスが格納区画に、繰り返し響く。
 そしてそこに、数人の都市のスタッフが現れる。
「皆さん、一番近いシェルターは、こちらになります。ご迷惑をおかけしますが、どうか我々の指示に従い、速やかな避難を」
 この流れにはミオも、そして多くの人が戸惑う。
 しかし指示を受け、何人もの人が次々と、指定されたシェルターへと向かって歩いて行く。
 ――いきなり、避難って言っても――
 どうするか悩む中、彼女の所にスタッフが一人近づき、声をかける。
「お嬢さんも、早く避難した方がいい」
「……でも、こんな中で、テイルウィンドを放って行くなんて」
 スタッフの青年は、安心させるように笑いかける。
「大丈夫だとも。この状況で、君たちの機体に手を出すような輩など、いるはずがないさ」
 確かに機体を放っておいて、心配な部分もあるが……仕方ない。
 ミオも避難指示を受け、シェルターへと向かうことにした。



 ――――
 さらに、この異変は銀河捜査局のヘンリックにも。
 ブルーホエール内の、臨時作戦室で、彼は唇を噛む。
「ヘンリックさん、いかがしましょう」
 他の捜査官からの言葉に、考えるようにしながら、彼はこう言った。
「会場を占拠するクロスメタル海賊団は、まだどうにでもなる。問題は……」
 モニターに映るのは、都市上空を覆う、海賊船ラグナシアの姿。
「フォード・パイレーツのラグナシア、か。近くにいるとは分かっていたが、まさか、こうも目立つ形で現れ、実力行使に出るとは――」
 他所から戦艦を呼ぶにも、時間がかかる。その上都市の真上を陣取っていることもあり、仮に戦力が揃ったとしても迂闊に攻撃出来はしない。
 そして海賊は、都市そのものを人質に取っている状況……、下手に行動など、取れるはずがない。


 
 だが、しかし――

 この状況下の中、ヘンリックはある重大な疑問を抱く。
 ――いや待て、仮にもフォード・パイレーツは義賊的存在でもあるはず。ならこのような大勢の民間人を人質に取るまねなど、する訳がない――
 そう考えるものの、都市上空の宇宙船は、紛れもなくラグナシアだ。
 これまで捜査局が集めた資料と比較しても、その外見と船が発する識別信号は、紛れもなく本物のそれだ。
 識別信号に対しては、通常の船舶はともかく、海賊などの非合法集団がそんな物を用いる事は少ない。が、フォード・パイレーツは何の目的か、敢えて独自の信号を扱っている。
 つまりあれは、本物のラグナシアである可能性は高い。……わけなのだが。
 ヘンリックの脳裏には、それすらも疑問に思えてならない。


「……会場にいる潜入捜査官には、まだ気づかれていないか」
 彼の問いに、依然モニターを見続けている捜査官が答える。
「はっ。元々の設備である監視カメラはシャットアウトされたものの、捜査官の存在は知られておらず、隠しカメラによる内部の映像も、現在確認を続行しています」
 ヘンリック付近のモニターにも、会場を占拠する海賊の姿は、映されていた。
 これを見た彼は、更に複雑な様子を見せる。
 ――やはり妙だ。捜査官に気づきもしないとは、あまりにも甘い。しかしここは――
「しばらく、監視を続けたまえ。様子見と行こうではないか」
 彼は様子を見ることにした。
 が……、同時にどのように動くか、策を巡らすことも忘れはしない。
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