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第十一章 束の間の安寧と、そして――
形勢逆転
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――――
都市全域に避難命令を終えた市長。
「これで……満足かね」
なおも彼は、サイクロプスを睨み据える。しかし彼女は余裕のまま。
「よろしい。さすが、市長としての役目を果たしたな。
――さてと、では我々も、いよいよ本番と行こう。海賊は海賊らしく、略奪しなくては!」
サイクロプスの言葉を合図に、周囲を囲んでいた海賊は、ずいと前に進み出た。
「ここにいる皆様方の多くは、さぞ裕福な身分とお見受けした。ならほんの少し、我々はそのお零れに預かっても、良いとは思わないか?
では、今身に着けて持っている、値打ち物をそれぞれ渡して頂こうか。もし抵抗するのなら……分かっているな?」
周囲の海賊は、それぞれ手元に袋を用意していた。
「皆様には指示通り、その袋に貴重品を入れていただく。何、早く終わればその分、早く解放されるとも」
多くの人々は怯えながらも、身に着けていたアクセサリーや、カバンから宝石類を取り出して、袋に入れる。
そんな中、サイクロプスの視線は、人混みの中にいたフウマに留まる。
――うげっ! これは……面倒だな――
彼女はにやっと笑い、足早にフウマへと近づく。そして……
「まさか、こんな所でフウマと会えるなんて、私は嬉しい!」
先ほど海賊として見せた、あの冷酷な笑みではなく。フウマに見せたそれは、まるで一ファンのように、生身の片目をキラキラと輝かせていた。
「君のレース、実はずっと見ていたのさ。――いつも以上に、素晴らしい飛びっぷり、ファンとして改めて惚れ直したとも!」
会って早々、絶賛して褒めるサイクロプスに、フウマは戸惑う。
「あ、はは……ありがとう。確か、レースに向かう途中で、テイルウィンドに襲撃されて以来、だっけ」
「それは、すまない! こちらにも都合があってな、しかし――あの時は本気で、襲うつもりはなかったのだぞ? ……本当さ」
……と、サイクロプスは親しそうに彼の背中をポンと叩く。
「だが、あの時には確かに、迷惑をかけた。それに今の状況にも巻き込み、申し訳ない。
フウマに対しては、略奪はするつもりはないから、安心してくれたまえ。まぁ、君に少し不自由させるのは心苦しいものの、それは我慢して欲しい。ところで……」
「えっ?」
彼女はやたらジロジロと、フウマの全身を見回す。
「……その服、一体どうしたんだ? まぁ、その恰好もまた、似合っているがな」
サイクロプスが言っているのは、フウマの浴衣姿についてである。
「うっ!」
この指摘に思わず、彼は赤面する。
「だが、こんな場にその恰好で来るとは、意外にフウマは変わっているな」
「――違うって! それはアイツに服と、それにテイルウィンドのキーを取られたからさ!」
こんな場所で指摘された恥ずかしさで、思わずフウマは、人込みに隠れようとしていたクレインを指さす。
――うげっ、しまった! 僕は余計な事を――
つい言ってしまった言葉に、とっさに嫌な予感を感じたフウマは、強く後悔した。
……しかし、後悔するには、もう遅かった。
途端、指さした先にいたクレインは、背筋に悪寒が走るのを感じる。
恐る恐る振り向くと、そこには、先ほどとは比べ物にならない程に冷たい笑みで、彼に微笑みかけるサイクロプスが立っていた。
「……へぇ?」
彼女はゆっくりと、クレインへと歩み寄る。
「随分な真似を、しているではないか? どう言うつもりか――ぜひ知りたい」
言い方こそ丁寧だが、そのにじみ出る強い殺気は、とても隠せるものではない。
「ひいっ!」
怯えた彼は、とっさに逃げ出そうと走った、しかし……。
――ヒュン!
鋭く空を切り、一瞬でサーベルの刃を、サイクロプスはクレインの目の前に突き付けた。
「逃げようとしても、無駄だ」
さながら死刑宣告のように、響く彼女の声。
「……では、話の続きでもしようじゃないか? 一体、何故このような真似をしたのかを。
話次第では――」
サイクロプスの話が終わらない、その間に……。
背後から彼女は、何者かによりサーベルを握る腕を掴み捻じる。
「ちっ!」
痛みで手の力が弱まった瞬間、サイクロプスからサーベルを奪い、今度は彼女の喉元へと刀身が突き付けられる。
「さてと、観念してもらおうかしら……サイクロプス!」
その正体は、ミーシャ・フローライトであった。
都市全域に避難命令を終えた市長。
「これで……満足かね」
なおも彼は、サイクロプスを睨み据える。しかし彼女は余裕のまま。
「よろしい。さすが、市長としての役目を果たしたな。
――さてと、では我々も、いよいよ本番と行こう。海賊は海賊らしく、略奪しなくては!」
サイクロプスの言葉を合図に、周囲を囲んでいた海賊は、ずいと前に進み出た。
「ここにいる皆様方の多くは、さぞ裕福な身分とお見受けした。ならほんの少し、我々はそのお零れに預かっても、良いとは思わないか?
では、今身に着けて持っている、値打ち物をそれぞれ渡して頂こうか。もし抵抗するのなら……分かっているな?」
周囲の海賊は、それぞれ手元に袋を用意していた。
「皆様には指示通り、その袋に貴重品を入れていただく。何、早く終わればその分、早く解放されるとも」
多くの人々は怯えながらも、身に着けていたアクセサリーや、カバンから宝石類を取り出して、袋に入れる。
そんな中、サイクロプスの視線は、人混みの中にいたフウマに留まる。
――うげっ! これは……面倒だな――
彼女はにやっと笑い、足早にフウマへと近づく。そして……
「まさか、こんな所でフウマと会えるなんて、私は嬉しい!」
先ほど海賊として見せた、あの冷酷な笑みではなく。フウマに見せたそれは、まるで一ファンのように、生身の片目をキラキラと輝かせていた。
「君のレース、実はずっと見ていたのさ。――いつも以上に、素晴らしい飛びっぷり、ファンとして改めて惚れ直したとも!」
会って早々、絶賛して褒めるサイクロプスに、フウマは戸惑う。
「あ、はは……ありがとう。確か、レースに向かう途中で、テイルウィンドに襲撃されて以来、だっけ」
「それは、すまない! こちらにも都合があってな、しかし――あの時は本気で、襲うつもりはなかったのだぞ? ……本当さ」
……と、サイクロプスは親しそうに彼の背中をポンと叩く。
「だが、あの時には確かに、迷惑をかけた。それに今の状況にも巻き込み、申し訳ない。
フウマに対しては、略奪はするつもりはないから、安心してくれたまえ。まぁ、君に少し不自由させるのは心苦しいものの、それは我慢して欲しい。ところで……」
「えっ?」
彼女はやたらジロジロと、フウマの全身を見回す。
「……その服、一体どうしたんだ? まぁ、その恰好もまた、似合っているがな」
サイクロプスが言っているのは、フウマの浴衣姿についてである。
「うっ!」
この指摘に思わず、彼は赤面する。
「だが、こんな場にその恰好で来るとは、意外にフウマは変わっているな」
「――違うって! それはアイツに服と、それにテイルウィンドのキーを取られたからさ!」
こんな場所で指摘された恥ずかしさで、思わずフウマは、人込みに隠れようとしていたクレインを指さす。
――うげっ、しまった! 僕は余計な事を――
つい言ってしまった言葉に、とっさに嫌な予感を感じたフウマは、強く後悔した。
……しかし、後悔するには、もう遅かった。
途端、指さした先にいたクレインは、背筋に悪寒が走るのを感じる。
恐る恐る振り向くと、そこには、先ほどとは比べ物にならない程に冷たい笑みで、彼に微笑みかけるサイクロプスが立っていた。
「……へぇ?」
彼女はゆっくりと、クレインへと歩み寄る。
「随分な真似を、しているではないか? どう言うつもりか――ぜひ知りたい」
言い方こそ丁寧だが、そのにじみ出る強い殺気は、とても隠せるものではない。
「ひいっ!」
怯えた彼は、とっさに逃げ出そうと走った、しかし……。
――ヒュン!
鋭く空を切り、一瞬でサーベルの刃を、サイクロプスはクレインの目の前に突き付けた。
「逃げようとしても、無駄だ」
さながら死刑宣告のように、響く彼女の声。
「……では、話の続きでもしようじゃないか? 一体、何故このような真似をしたのかを。
話次第では――」
サイクロプスの話が終わらない、その間に……。
背後から彼女は、何者かによりサーベルを握る腕を掴み捻じる。
「ちっ!」
痛みで手の力が弱まった瞬間、サイクロプスからサーベルを奪い、今度は彼女の喉元へと刀身が突き付けられる。
「さてと、観念してもらおうかしら……サイクロプス!」
その正体は、ミーシャ・フローライトであった。
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