テイルウィンド

双子烏丸

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第十一章 束の間の安寧と、そして――

最後の陰謀

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 ――――
 ジョセフは一人、ある人の元へと向かっていた。
 コートのポケットに両手を突っ込み、相変わらずの緩い表情で、道を歩く。
 

「ようやく、来たな」
 たどり着いたのは、あるゲストルームの中。そこにいたのは、ゲルベルト重工の会長、ゲルベルトが一人いた。
「ああ、もちろんですとも、クライアント様」
 だが彼は、会って早々、不機嫌な様子である。
「ふん! 失礼な奴め。それにあの時の対応も、よくも、あんな真似を。
 私のブラッククラッカーに攻撃を加えるとは、万が一……」
「相手はあのカイルですぜ。奴の存在があるから、あなたは私を雇った――文句を言われても困りますな」
 ジョセフは、口元に怪しい笑みを浮かべた。
 彼と、そしてカイルとの対決は長い。おそらくゲルベルトはそれを知り、フォード・パイレーツの対策のために、彼を雇ったのだろう。
「私は、カイルから機体を守ると言う、依頼は果たしましたが……それでも、相変わらずクライアント様には余裕がありませんな」


 痛い所をつかれたのか、ゲルベルトは苦い表情で呻く。
「そんな事など、お前には関係ないだろう。だが、難にせよ
フォード・パイレーツを阻止した働きは認めてやる。約束の報酬も渡す、だから早々に消え失せるがいい」
 だが、ジョセフは追いうちをかけるかのように、こんな話をする。
「そう寂しいことを、言わないで下さいよ。見たところ、クライアント様はまだお困りにのようだ、良ければ力になりましょうか。それに……」
 ゲルベルトの顔を覗き込み、さらにこう続ける。
「見たところ何か訳ありのようだ、報酬さえ貰えれば、私で良ければ力になりましょう。――少なくとも、ナンバーズ・マフィアよりも、良い仕事をしますとも」

 
「その事まで、知っているのか」
 思わぬ事を突っ込まれ、ゲルベルトの表情は更に悪くなる。
「それは……探偵ですから、ついね。何しろフォード・パイレーツが相手だ、こちらも対処のために多くの事を、知る必要もありますし。
 まぁ、おかげで色々と知ってしまいましたが。当社の機体ブラッククラッカーや、そしてパイロットのジンジャーブレッドについても、ね」
 これにはとうとう、ゲルベルトは後ろにたじろき、動揺を隠せなくなる。
「お前は――私を、脅す気か!」
 だが、ジョセフは首を横に振る。
「ふふふっ、貴方は私のクライアントですよ? 金銭目的で大事な秘密を公にはしませんとも」
 どうやら、話の主導権は、彼にあるようだ。
「だが……あの秘密がある以上、フォード・パイレーツはこの程度では諦めないでしょうな。
 どの道、秘密と権益の保持のためには、もうしばらく契約を延長をした方がいい。――ま、これはあくまで忠告ですが」
 ニヤニヤと笑みを見せながらそう言うジョセフ、おそらくもう相手の次の反応が、予想をついたからだろう。
 ゲルベルトもそれを察したが、こう言われた以上、現状取るべき手は一つ。
 悔しさを顔ににじませながら、ゲルベルトはこう返答する。
「分かった。ジョセフ……お前との契約は延長させてもらう」
「ふっ、それは毎度、ありがとうございます。
 ――しかし、私が知っている情報もまた、全てではありません。奴らが次にどんな手を打つのかも分かりませんし、ここは後程、情報提供を願いますが」
「構わん! どの道そこまで知られていてはな」
 もはや仕方なしと言うとうに、ゲルベルトは言い捨てた。


 ……しかし、ここで彼は、ある事を切り出す。
「だが、その代わりお前には、探偵以外にある仕事をして貰おう。確か、ナンバーズ・マフィアよりも有能なのだろう?」
「もちろんだとも。多少の仕事なら、追加料金はまけるとも。
 しかして、その仕事とは?」
 ジョセフの返答を聞き、ゲルベルトは嗤う。
「心強い返答だな。肝心の、仕事の内容はな……」
 そして彼は仕事について、ジョセフに話す。
 ゲルベルトが話す、その内容―― 


「まさか、それを私に……手伝えと?」
 話を聞いたジョセフは、緊張し、固まった表情を見せる。
「さて? 有能な探偵、ジョセフらしからぬ狼狽ぶりだ。金を払えば、力になるのだろう?」
 今度はゲルベルトが、場の流れをつかんだかのような、余裕を示す。
 ジョセフはしばし沈黙するも、ついにこう答えた。
「分かったさ。その仕事、喜んで引き受けよう」
「それは何よりだ! ではジョセフ君、よろしく頼むよ」
 ゲルベルトはそれに、喜んだように振る舞う。
「では、私はこれで、失礼させて頂きますよ」
 ――これでお前も、私の共犯者だ。こうすれば、秘密も確実に守られるだろう――
 去って行くジョセフの背中に、彼はしてやったと言うように、にやりと笑う。
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