テイルウィンド

双子烏丸

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第十二章 Grand Galaxy Grand prix [Restart〕

墜ちる朱炎

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――――

 背後に映る緑の大地は、段々と遠ざかる。
 テイルウィンドは惑星エメラルドの大気圏を突破しようと、急上昇を行っていた。
 だが……。
〈ふっ! これは私がもらったわね!〉
 目の前のクリムゾンフレイムは先に、ぐんぐんと高く上がって行く。
 やはりここは高加速、高出力の機体が有利。後方に位置する、先を越したはずのワールウィンドまでもが迫って来る。
 ――くっ、やっぱりここは、厳しいよね。

 
 
 ワールウィンドも上昇を続け、ついにはテイルウィンドに
追いつき並ぶ。
〈俺も、こうして追い付いたぜ! ……フウマだけに良い恰好はさせないっての〉
 そうしているうちに、惑星の重力圏を突破した。
 フウマのテイルウィンドは限界まで高加速し、どうにかリッキーとは、良い勝負をする。
〈なかなか、しぶといじゃないか〉
 リッキーの言葉に、フウマはニッと笑う。
「そりゃ、こっちだって誰よりも先を行く理由がある。ここで引き下がれないよ。
 もちろん、マリンにも……ね」
  前をリードするマリンは、高笑いする。
〈アハハ! 面白いこと言うわね、フウマ! でもそう簡単には――行かないわよ〉
「さてと、それは……どうかな!」



 宇宙空間を三機は飛行し、小惑星帯へと突き進む。
 ――さてと、小惑星の中でも、その速度を維持出来るかな?――
 辺りには小惑星が徐々に混じる中、マリンは何度か進行方向を阻まれ若干速度が落ちた。
〈……ちっ!〉
 これでクリムゾンフレイムが遠ざかるのは止まった、後は逆転して行くだけだ。
 高出力の機体であるものの、機動性はあまり良くはない。障害物を回避する際に、それによる高速度はやはり低下する。 
 再び、クリムゾンフレイムへと迫って行く、テイルウィンド。
〈おっと! こっちも少々厳しいが……それなりには動けるんだぜ〉
 ワールウィンドも奮闘により、現状でもどうにかテイルウィンドと同列を維持し、先を飛行して行く。



 ――――
 ついに小惑星帯へと突入した頃、マリンはやはり、行く手を阻む小惑星に苦戦する。
 ――やっぱり、クリムゾンフレイムでは大変か。……だけど、それ以上に!――
 後ろから迫る、フウマ。前半戦で戦った時よりも動きは上がっていた。
 ――悔しいけど、やるじゃないの。前よりも上がっている気がするけど、たった短期間でなんて――


 しかし、マリンがそう思っている間に、テイルウィンドはクリムゾンフレイムへと迫って来る。
 正直ピンチではある。……しかし。
 ――だけど、こっちもまた、プロレーサーとしてのプライドがあるの。……負けないわよ!――
 だからといって、おとなしく負けるわけに、いかないマリンである。
 


 ――――
 
 ――ん? マリンさん、さっきよりも動きが良くなったかな――
  さっきまでは彼女に追いつきそうであった、フウマ。
 だが今は、徐々に再び、距離を取られつつあった。
「ちっ! 向こうもやっぱり――」
 想像以上の実力に、フウマでさえ焦りと戸惑いを覚える。
 ……いや、マリンもフウマ同様、レースで成長しているのだ。
 マリンだけではない。恐らく、他のレーサーもまた、レースを通じて成長、向上しているのだ。
 それはもう一人、リッキーさえも。
〈マリンにばかり気を取られているんじゃ、ないぜ! 俺だっているって事、忘れるなよ!〉
 また、リッキーのワールウィンドまで迫る。


 小惑星の間をかいくぐり、ワールウィンドとテイルウィンドは互角に戦う。
 リッキーもまた、一歩譲らない飛行を見せる。
「さすがリッキーだ。……こんな状況じゃなければ、じっくり勝負を楽しみたい所さ」
 フウマの言葉に、ニッと笑みを見せるリッキー。
〈だからこうして、楽しんでいるんじゃないか!〉
「ま、そうだね!」
 でも――。フウマはそう一言呟き、彼を見据えた。
「でも言っただろう? 今回は――二人を相手にしている暇は、ないって!」
 リッキーはフンと、鼻息を鳴らす。
〈俺を小物扱いとは、いい度胸じゃないかよ〉
 更に先を行くマリンも、また……。
〈あらあら、可愛いわね! でも、口で言うよりは……レースで示してみなさいな!〉
 と、そう言うやいなや、彼女は更に速度を上げる。
 ――はぁ!? まだ速度を上げるのかよ! 小惑星の中であんなに出すなんて……いくら何でも――
 フウマもさすがに戸惑うも、このままではいられない。
 再び、レースに集中し、勝負をつけようとフウマは試みる。



 ――――

 ほとんど速度を緩めず、超高速のまま小惑星を飛ぶクリムゾンフレイム。
 高速で障害物を避けながらの操縦は、困難を極めるものの、マリンは……。
 ――無理、無茶、無謀は承知の上……ってね! やろうと思えば、この私はなんだって出来るわ!――
 強い迫力で、操縦をこなす彼女。
 ――ふっ! こっちだってレースに賭けてるのよ! いくらフウマが吠えたって――
 だが、正直かなりの無茶をしていた。
 いつもはそれなりに考え、堅実なレースプレイも行うものの……熱くなりすぎていたのだ。


 だがそれが、ついに災いした。


 クリムゾンフレイムに迫る、一つの小惑星。それに差し掛かり、避けようとした時だった。
「……っ!」
 機体の速度が、あまりにも速くなりすぎていた。
 完全に避けることが出来ず、ついに――。
 
 
「きゃあああっ!」
 機体の一部に小惑星が接触し、態勢が崩れたクリムゾンフレイムは激しく揺れた。
 上手く制御する事が出来なくなるが、このままだとすぐに、他の小惑星に衝突するかもしれない。
 ――くっ! 私としたことが、勝負を急ぎすぎちゃったわ。ここは――
 マリンはとっさにスラスター操作で姿勢を整え、速度に急ブレーキをかけて避けようと試みる。
 そんな中、正面から小惑星が迫る……まさに、絶対絶命。
 急いで操作を行い、マリンは――
 ――これで、大丈夫なはず!――
 間一髪で制御が戻り、スラスターを噴かして小惑星を回避した。
 ――ふぅ、前半戦のサファイア以来の大ピンチね。おかげで――


 ワールウィンドとテイルウィンドは、その隙に先を越していた。
 前方には遠ざかる二つの光点。クリムゾンフレイムは先程の行動で、お得意の速度も大幅に落ちていた。
 ――してやられたわね。私もまだまだ、甘いってこと――
 と、そう考えていた時、更にもう一機の機体が、彼女を追い越して行った。
 それはフィナのアトリであった。
 ――あの娘まで、先を行くなんて……。さすがに悔しいわね――
 しかしこれも、ある意味自業自得――。悔やむよりも、まだするべき事がある。
 ――けど、いい気にならないでよね。すぐに――私の力を思い知らされてあげる!――
 前半戦のフウマとの敗北では、落ち込んでいた。
 だが今は……その逆の思いを、マリンは抱いていた。


 
 ――――

 先ほどの、クリムゾンフレイムのアクシデント。
 小惑星にかすり、速度が急低下した機体を、テイルウィンドとワールウィンドは一気に追い越した。
 ――マリン・フローライト、やっぱり無茶し過ぎさ――
 これでまた一歩、ジンジャーブレッドへと近づいたフウマ。
 しかし……。
〈まだ俺が残っているぜ、フウマ。これで一対一って所だな!〉
 リッキーはいまだ、フウマに立ちふさがる。
 小惑星帯に入り、勝負を繰り広げる二機。
 
 
 辺りは小さな小惑星が、とりわけひしめく中……。
 地の利を得ているのは、フウマのテイルウィンド。
 対するリッキーのワールウィンドは出力こそ高いが、機動性はテイルウィンドより低い。
 だが、ここまで来てもまだ、ワールウィンドは食らいつく。
「……くっ! 絶対に厳しいはずなのに、ここまでなんて」
 リッキーは豪勢に大笑いしてみせた。
〈ははは! なめてもらっては困るな! こっちだって、プロレーサーなんだぜ?〉
「言うじゃないか。――だけど!」
 


 すると、テイルウィンドは徐々に、ワールウィンドを引き離して行った。
〈何っ!〉
「悪いけど、ここは僕に有利なんだぜ。マリンもいない今、無茶をすれば、このくらい!」
 リッキーを引き離して行く、フウマ。
 焦りを感じ、リッキーは呻く。
〈やるじゃないか。……だが、おれもまだまだ〉
 そう言い、ワールウィンドをさらに加速。……させようとするも。
 

 速度を上げた途端に、小惑星の回避が確実に困難になる。
〈……しまった!〉
 回避が困難になったワールウィンドは、一つの小惑星をそのままで回避不可能と悟り、速度に急ブレーキをかける。
 テイルウィンドはそれに乗じた。
「ここで、もらったよ!」
 ついにリッキーと、ワールウインドも追い抜いたフウマ。
〈ちいっ! やるじゃないかよ、フウマ!〉
「へへん! 悪いけどこの勝負、もらって行くよ!」
 得意げに言うフウマだったが、もう一言……。
「ほんとうにごめん。だけど、今回は本当に、相手にしている暇がなかったんだ。
 ……だから、また今度」
 最後にそう伝え、テイルウィンドはワールウィンドの――さらに先へと飛んで行く。



 ――――
 リッキーを制した、フウマ。
 ――後は、シロノ……そして、ジンジャーブレッドさんだね――
 まもなく小惑星帯を抜け、惑星ルビーの姿が真正面に見える。
 ――後半戦も、もうすぐ折り返し、か。何だか前半戦の時よりも、あっという間な気がするな――
 ここに来るまでに、再び三位にまで上り詰めたフウマ。
 銀河中からプロレーサーが集まる中、ここまで来ることが出来たのは、パイロットの実力と、機体の性能なのか。
 ……いや。確かにフウマとテイルウィンドは普通よりも高い実力と性能があるとは言え、それでもここまで来るには正直少し、実力不足ではあった。
 恐らくそれだけなら、このレースに参加する十把一絡げのプロレーサーと比べても、大した差もなかったはずだ。



 ――しかしそれでも、ここまで来れたのは、いくらかの運と、そしてフウマ自身の強い意志と覚悟が、今まで以上の実力と頑張りを引き出し、その分を埋めたからだ。
 言わば、火事場の馬鹿力……と言うべきか。
 それもあり、今この場にまで来ることが出来た。
 そして……

 
 惑星ルビーを背景にし、一機の機体の後ろ姿が見える。
 ――あれはシロノの、ホワイトムーンか――
  三位のフウマ、二位のシロノ。
 二人の勝負が再び行われる。



 

 

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