テイルウィンド

双子烏丸

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最終章 レースの決着

それぞれの、葛藤

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――――

 あれから再び、部屋で過ごしていたミオたち。
 確かに部屋は、居心地の良いものではあるが、状況が状況……気分は良くなれない。
 それぞれ、様子を伺いながら、今後を考えていた四人。すると――
〈やぁ。皆さん、調子はどうかな?〉
 再び、ジョセフからの通信が届いた。
「……何だ、またジョセフかよ。こうして人質とお喋りするのも、依頼の一つって訳か?」
〈くくっ、つれない事を言うなよ、ティナ。せっかく君たちに、いい情報を持ってきたと言うのにさ〉


  ティナの嫌味に、ジョセフは含み笑いをして、こんな事を伝えた。
〈レーサー達は、こちらの条件を呑んでくれた。
 であれば……こちらも事をこれ以上大きくするのは、望んでいない。条件通りG3レースに負けてさえくれれば、君たちはちゃんと、無事に帰れるとも。
 ……ま、そのまま帰すのは不都合だから、ここでの記憶は全部消させてもらうことにはなるけどな〉
 これには、周囲に動揺が走る。
 ――そんな。フウマが……私のせいで――
 自分が人質になったせいで、フウマがレースを諦めることになった。ミオはそれに、ショックを受ける。
「……ごめんなさい、兄さん」
「まさか、こうなるとは。リッキー、すまないな」
 アインも、そしてリオンドもその気持ちはミオと同様だった。
 また。ティナも言葉は発しないものの、悔しげな様子で、拳を握っている。
〈おやおやおや、せっかく無事に帰れると言うのに、あんまり嬉しそうではないじゃないか。
 ……まぁ、レースよりも君たちが、無事でいることが彼らの喜びさ。気に病むことはない〉
 確かに、ジョセフの言うとおり。
 レースの勝利よりも、大切な人の安全――。レーサー達もそれを望むからこそ、この選択をしたわけだ。
 それでも……やはり。
「……こんな終わり方、あんまりだよ」
 ミオは辛そうに、一人呟いた。



 ――――

 レースは淡々とすすみ、ついにジンジャーブレッドをトップに、最終目的地である惑星サファイアの大気圏を、降下する。
 ――ついにここまで、来たか。だけど――
 フウマは、寂しげに、目の前に広がる大海原を眺める。
 ――もう僕たちには、関係ない……か――
 もはや、レースをしているわけではない。
 こんなのは、ただの、猿芝居にすぎない。
 過ぎないのだが……。


 ――それでも、ちゃんと負けないと……ね。ミオの無事が、かかっているんだからさ――
 大切な人の、運命がかかっている。せいぜい約束は、果さなければ。
〈……フウマ〉
 すると通信で、心配そうに封魔に、通信を送るシロノ。
「シロノ、か。まぁどうにか……元気だとも」
 フウマはシロノに、無理に笑ってみせた。
 それに対して――
〈フウマってば、無理をして。やはりそんな様子を見るのは、辛いですね。……私も人のことは、いえませんけど〉

 
「無理をしているのは、お互い様……だろ」
 こう言っているシロノであるが、彼もまた、無理をしていた。
〈そんなことありません。……と、言いたいところですが、弟を人質にとられたら、こうもなりますよ〉
 彼も彼で、弟が人質に取られていた。やはり心配なのだ。
「まさか、こんな事になるなんて、さ。
 僕やシロノだけじゃない。リッキーにマリンさん、フィナだって同じように、大切な人をとられているんだ。
 ジンジャーブレッドさんだって――」
 正面に映るのは、単調な飛行を続ける、ブラッククラッカー。
「彼も、大丈夫……なのかな」



 そう気に掛けるフウマに対し、シロノは……。
〈……フウマはどうして、ジンジャーブレッドの事まで。
 ゲルベルトのもとでレーサーとして出場し、彼もまた、これに少なからず関与しているはず。
 なのに――〉
 シロノはジンジャーブレッドを、責めていた。
 そしてフウマがそこまで、彼の肩を持つのか、分からなくもあった。
「それは……僕には、言えない」
 だが、フウマはそれに、答えることは出来ない。
〈一体、どうして?〉
「ジンジャーブレッドさんと、約束したんだ。……誰にも
、このことは言わないでくれって」
 どうやら、理由は言えないようだ。
 シロノはそれに、仕方がないと言うように、諦めを見せる。
「でしたら……仕方がないですね。まぁ、今はそれどころでないことも、事実ですしね。
 ……この事は、忘れることにしましょう」
 彼にはこの事に追及する、余裕もなかった。


 そしてまた、フウマも……
 ――本当に、僕に出来ることなんて、ないな。……情けないよ――
 出来ることと言えば、レースに負けることくらい。それでも……仕方がない、やれることはそれしかないのだから。




 ――――

 レースの実況を行う、レイ。
〈さて、G3レースはいよいよクライマックス!
 トップを飛行するワールウィンドにアトリ、クリムゾンフレイムとホワイトムーン、そして二位のテイルウィンドと一位のブラッククラッカーの六機は、ついに惑星サファイアへと戻って来たわ! ついに、決着が間近に迫った感じね〉
 横のモニターには、サファイア上空を飛行する、六機のレース機の姿が見える。
 トップのブラッククラッカーが先を行き、残り五機が後ろに固まった感じ、である。
「小惑星帯での勝負は白熱していたけど、ここに来てからは順位に変動は……ない感じね。少し変な感じもするけど、これもレースだから、仕方ないのかもね」
 

 やはりレイも、このレースには違和感を持っていた。
 やや不自然なまでの、勝負感のなさ……。気になってはいるものの――。
 ――でも、司会である私が、変なことは言えないしね。
 ここは……どうにか、場を持たせないと――
 気にはなるが……自分の立場上、どうしようもない。
「……優勝に近いのは、ジンジャーブレッドね! でも、レースは最後まで何が起こるかわからないもの! どうか最後まで、楽しんで行ってね!」
 とにかく今は、自分なりに出来ることを、しておきたいレイである。



 ――――
 
 部屋にはモニターも置かれており、ミオ達もまた、レースの様子を見ていた。
 人質をとられた、レーサーたち。このままではジンジャーブレッドの、優勝になるだろう。
「このままだと、フウマが負けちゃう。どうにかして、脱出してこの事を知らせないとだけど……」
 ミオは部屋のあちこちに、視線を移す。
 ――あれから、部屋の天井床や、通気口、壁や床など、どこかに抜け道がないか全員で探した。……だが無駄だった。
 ジョセフの言うとおり、ここは特別室、逃げられないよう部屋は厳重に、固められていた。


 誰も彼も、もう半分諦めかけている、そんな様子だった。
「はぁ、せめて外部と連絡を取れれば良いんだが、通信機器も没収されてしまっている。これでは、な」
 リオンドの言う通り、元々持っていた通信端末など、外と連絡を取る手段はすべて取り上げられていた。
 一方ティナは苛立って、蒲団を被る。
「けっ! 本当にムカつくぜ! どうすりゃいいってのさ」
「僕も、タブレットを取られてしまったんだ。せめてもう一つ、万が一のために別の通信機でも、用意しておけば……」



 と、そこまで話していたら、ふと突然何かを思い出したような表情を、アインは見せた。
「そうだ! 確か僕は……」
 彼は何か言いかけようとするも、慌てて口を閉ざす。
「どうしたのさアイン、そんな様子をして、気になるぜ」
 ティナはその様子に、気にする様子を見せる。
 するとアインは、盗聴を警戒し、小声である事を伝えた。


「外との通信だけど、僕なら何とか取れそう……なんだ」
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