196 / 204
最終章 レースの決着
接戦と、アクシデント!
しおりを挟む先頭を飛行するのは、やはりテイルウィンドとホワイトムーン。
ここまでずっと、一対一の接戦を繰り広げていたわけだ。
「やっぱり、一番のライバルは……シロノってわけかよ!
フウマは今までにないくらいに集中し、真剣な様子でレースに挑んでいた。
〈そう言う事、ですね。やはりこうしてライバルがいるのは、良いものです!〉
対してシロノは、いつもの余裕の表情。
……かに見えたが、彼もまた、手加減は一切なしの全身全霊でフウマに挑んでいた。
どちらも出せる限りの力を以て、勝負を繰り広げているさ中だった。
そして、何かを思い出すかのように、少しように懐かしい様子でシロノは続ける。
〈そう言えば、フウマとの付き合いも長いものですね。あれから……どれくらい経ったでしょうか〉
フウマもまた、思い出すかのような様子で、返事を返す。
「うん。――たしかに、もう何十回も、レースで勝負をして来たからね。
あれから僕も、ずいぶん成長したのかな」
〈――ふふっ、初めの頃はまだまだ、未熟ではありましたね。
丁度その時も、こうした感じの、海の多い星でのレースでした。……確かに腕の良い感じではありましたが、それでもトップの私には遠く及んでも、いませんでしたしね〉
それに、フウマはかつての自分を思い出す。
「はっきり言うじゃないかよ。けど、その時から僕は、シロノをライバルにしようと決めた。
圧倒的に差をつけて、それでも余裕な感じでゴールしてさ、悔しいけど……格好いいとも思ったんだ。
思えば、あれからずっと、何だかんだシロノの背中を追いかけてた気がするよ」
――そう。フウマとシロノとの関係は、思えば長かった。
何度も二人は、ともにレースで競い、勝負を繰り広げた。
元よりそれなりの腕と才能はあるが、まだまだ未熟なフウマと、彼よりも高い実力を持ち既に完成された天才レーサー、シロノ。
二人のレースでは常に、勝利していたのはシロノの方。
フウマは口惜しい思いを重ねて来た。……が、何度も敗れながらそれても確実に、その度に自分の腕を磨き、レーサーとして成長していた。
この長い積み重ねがあって、今のフウマはここにいる。
シロノがいなければ、決して、ここまで来れなかった。
プロレーサーとしてのフウマがいるのは、彼と言う――ライバルがいたからこそ。
〈……レーサー冥利に尽きますね。そう言われると、私も嬉しいものです〉
薄く微笑み、シロノも良い表情を見せる。
「たしかに、最初の頃は僕もまだまだだったさ。でも……昔よりはちゃんと、成長しているんだ。
それを――見せてみせるよ!」
フウマはそう言うと、操縦桿を瞬時に動かす。
それに呼応するかのように、テイルウィンドは俊敏な動きで、ホワイトムーンの右上へと高速移動し、そして――。
〈くっ!〉
ホワイトムーンを追い抜いた、テイルウィンド。
――これで僕が、トップだね。後はこのまま――
だが、フウマがそう考えていた、その瞬間に……同時に一機の黒い影が、更にテイルウィンドを越して行った。
「あれは――!」
その姿は――そう、ジンジャーブレッドのブラッククラッカーだ。
―――
驚いたのは、シロノもまた同じであった。
――まさか、ジンジャーブレッドがここまで――
ジンジャーブレッドは、すでにボロボロであった。その事はシロノも、よく分かっていた。
……なのに、それでも彼は、再びG3レースのトップに上り詰めた。
――あなたも、そこまでして、レースを――
彼の熱意はシロノにも、十分伝わっていた。
――分かりました。では私も……最後のスパートをより一層――
が――そんなシロノの、ホワイトムーンの真横に真紅色の機体が並ぶ。
〈ふっ! ジンジャーブレッドばかりに、気を取られているからっ!〉
通信では、マリンの勝ち誇った様子がうかがえた。
「まさか、マリンまでも、こうして!」
〈そりゃもちろん! だって、私だって――勝ちたいもんね!〉
更に次の瞬間には、クリムゾンフレイムも続けて、ホワイトムーンを越して行った。
「マリンっ!」
気持ちよさげに、カラカラと笑う。
〈フウマくんもだけど、私だって成長してるって訳! このまま彼も追い抜いてみせるわ〉
先を行くクリムゾンフレイムは、今度はそのままテイルウィンドへと向かう。
――私も、負けてられませんね!――
シロノはホワイトムーンを駆り、先を行く二機と、そしてトップのブラッククラッカーへと迫る。
――――
迫りくる、クリムゾンフレイムとホワイトムーン。
二機はそれぞれ、テイルウィンドの左右について、並ぶ。
〈やりますね! フウマ! しかしまだ終わりませんよ!〉
〈私もね! あと少しだけど、諦めないんだからっ!〉
これには、フウマも舌を巻く。
「二人とも、やっぱりやるね。――たしかに、もう残りは僅かだしね」
見ると、前方に見えるオーシャンポリスの姿は、大きくなっていた。
それにトップを飛行する、ジンジャーブレッドにも、三機は次第に迫る。
G3レースも、もう後僅か……。
――二人もだけど、ジンジャーブレッドの決着だって。
……ふっ! 今の僕とテイルウィンドなら、これくらい――
そう、フウマにはまだ十分な勝算があると、考えていた。
――だが。
「……なぁっ!」
突如、目の前の大海原から、丸々として巨大な、一匹のバルーンホエールが水飛沫を飛ばし――ザブンと宙に舞う。
恐らく、群れから離れ、一匹のみで回遊していたのだろう……それが運悪く、レースのコース上へと現れたのだ。
しかも――もう残り僅かの、最後の最後で。
テイルウィンド、ホワイトムーン、クリムゾンフレイムの三機を塞ぐ、大きな影。
――く……うっ!――
これには当然、フウマも回避を取る。……しかし。
この突然な出来事に、唯一対応出来たのは、シロノのホワイトムーンのみ。彼はは上手くバルーンホエールをかいくぐり、引き続きジンジャーブレッドを追う事が出来たが……。
対してクリムゾンフレイムはそのままでは間に合わず、、バーニアを逆方向に噴かせ、急ブレーキを行いどうにか避けようとするも、それさえ間に合わない。
避けようとしたクリムゾンフレイムであったが、その機体の真横に、バルーンホエールの身体の一部がぶつかり、態勢を大きく崩した。
それによりクリムゾンフレイムは、更に大幅に失速――。後続のワールウィンド、アトリにも先を越される。
そしてフウマの、テイルウィンドもまた、クリムゾンフレイム程ではないが、回避の際に態勢が崩れ、速度もまた低下した。
……先を行くブラッククラッカー、ホワイトムーンには距離が離れ、最後になって差がつけられた。
――まさか、こんなことになるなんて――
これで同列二位から、三位に下がる。
すぐ後ろにはリッキーとフィナの機体と、更に後方にはマリンのクリムゾンフレイムが確認出来る。
しかも先頭のブラッククラッカーとホワイトムーンが接戦中であるのに対し、フウマを含めた三位以降の四機の間には、大きい隔たりが生まれていた。
――こうなったら優勝は、結構厳しくなったかも。……残りの距離で、巻き返せるか!? ――
もうゴールまで、あと少し。
二機のさらに先に存在する、迫り来るゴールを前に、焦りを見せるフウマ。
ここまで来て、こんなしくじりを犯すなど……。彼が強く焦燥感を感じ、モニターに目を移した、そんな時――。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる