テイルウィンド

双子烏丸

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最終章 レースの決着

全身全霊!

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 ――――

 普段はほとんど気に留めない、モニターの通知欄。
 そこに一通の、音声メッセージが届いていたことに、フウマが気付いた。
 ――これは……メッセージ? えっと、届いたのは――
 時間を見ると、届けられたのは十分以上前。……おそらく、フウマ達が人質の解放を知りレースを再開してから、間もなく送られて来ていたようだ。
 ――相手は、あの時ジョセフさんが通信で使った、アドレスからか。――今更、こんな物に気づくなんて。でも――
 

 しかし、今はレースの、デッドヒートの真っ只中。今更通信を見る時間など、無いに等しいのだが……。
 ――でも、一体なんだろう? 少しくらいは――
 フウマはそれが気にかかり、メッセージを再生する。
 すると――


〈えっと、聞いているかな、フウマ〉
 聞こえてきたのは……ミオからのメッセージだった。
 ――ミオが、僕に――
 最も――これは何分も前に届けられたものだ。今更返事を送れもしないし、その余裕もない。
 フウマはレースに全力を注ぎながらも、メッセージに耳を傾ける。
〈レース中に、ごめんね。でももし、時間があるなら……少しだけだから、聞いて欲しいな。
 私、フウマにどうしても伝えたいことがあって、ジョセフさんに頼んでメッセージを送ってもらったんだ〉
 

 モニターに映る彼女は、ほんの少し照れ恥ずかしいように、はにかむ。 
 ――伝えたい事、だって? 一体何だろう――
 フウマは何だか、気になる様子。
 こうして、映像を見ているだろう彼にに、ミオは……。
〈もう知っているとは思うけど、私――フウマの事が大好き。 
 普段から明るくて、おっちょこちょいだけど優しい所、それにフウマは怒るかもしれないけど……ちょっと子供っぽくて可愛い部分も――。
 とにかく、フウマの全部が好きで、好きで、好きで――大好きなの! だから……〉
 彼女は少し息を吸って――想いを伝える。
 


〈だからもちろん、今こうしてレースに一生懸命でいるフウマだって、大好き!
 何だか、とてもキラキラ輝いていている感じ……。きっと、レースに本気なフウマは、そんな風なのは私も分かるよ。
 もちろん、直接見ることは出来ないけど、だって私はフウマの幼馴染――そして、恋人だもん!〉
 これには、思わずフウマの顔も、赤くなる。
「ミオってば……」
〈今度のレースは色々あったかもしれないけど、最後は……バッチリ決め手ほしいな。
  ――他の誰よりもずっと、私はフウマを、応援してるから!〉




 これが、ミオからのメッセージ、その全てだ。
 ――そんな風に、思っていてくれたんだ――
 彼女が自分の事を、好きでいてくれるのは、もちろん分かっている。
 ――レースばかりで、まだまだミオに頼ってばかりだけど、それでもそんな僕を、好きだと思ってくれている。
 でも……こう言葉で直接言われると――
 フウマは、前方を鋭く見据える。
 見えるのは、二位のホワイトムーンと、そして一位のブラッククラッカーの姿。
 今なお追ってはいるものの、それでもその距離は……まだ遠い。



 ゴールまでの距離、そして各機の性能を考えると、このままでは二機を追い抜き、トップに立つのは不可能に近い。
 だが、それでも。
 ――ここで引き下がれるものか。確かに可能性は低いけど、僕とテイルウィンドなら……まだ行ける!――
 決して――負けが決まったわけではない。
 フウマは最後の勝負に出るべく、自身の愛機、テイルウィンドを駆る!



 ――――
 首位争いをする、シロノとジンジャーブレッド。
〈どうですか! この私、『白の貴公子』の腕前は!〉
 通信で届くシロノの、呼びかける声。
 これにジンジャーブレッドもまた、それにこたえる。
「……さすがだなシロノ、君ともこうしてレースが出来て、光栄だ」
 通信でジンジャーブレッドは、そうシロノに語りかける。
 もはや見た目は、シロノよりも幼い少年へと変容し、何よりクローンであるために、本来の年齢すら、ずっと短い。
 ジンジャーブレッドの代わりとして、そしてゲルベルトの新型戦闘機の生体ユニット……そのプロトタイプとして、彼はこの世に生を受けた。
 だが、そんな物など、今になっては関係ない。
 今はただ、レーサーとして、このレースに最後まで全力を尽くす。
 例え、その身がどうなろうと――


 
 二人の機体、ホワイトムーンとブラッククラッカー、白と黒の二機が先を飛行し、迫るゴールへと一直線。
 トップはブラッククラッカーではあるが、そのすぐ後ろにホワイトムーンがいる。その勝負はまさに――大接戦だ。
「……くうっ!」
 身体の痛みは更に増加し、もはやまともに機体を動かせているのも、奇跡に近い。
 しかし……
 ――どの道、これが私の最後のレースだ。それをシロノ、フウマ達が……こんなにも素晴らしいものにしてくれたのだ。
 こんなに――嬉しいことはない――


 シロノだけではない。フウマやこの場にいる彼らも……皆、素晴らしいレーサーだ。
 そんな彼ら、彼女らとレースが出来たこと。生まれはともあれ、今こうしていなければ、こんな事は不可能だったろう。
 ――そう考えれば、私の人生もまんざら、悪くないか。……っつ!――
「はぁ……、ううっ……」
 さらなる痛みが、急にジンジャーブレッドを襲う。
 この呻きは、通信で向こうにも聞こえていたようだ。
〈ジンジャーブレッドさん、大丈夫ですか!?〉
 シロノはジンジャーブレッドを、気に掛ける。
 それでも彼は、すぐにどうにか発作を抑え込む。
「問題、ないとも。……もう残りも僅かだ、そんな事よりも、最後の決着をつけようではないか!」
 シロノはやはり、少し心配してる様子。
 ――であったが、今さらもう止めることは、できない。
 なら――!
〈ええ! 私も貴方に敬意を払い、本気で勝たせて頂きます!〉
「そうだ! まさに、その意気だとも!」
〈……フウマがいないのは、少し残念ですが、一対一での決戦ですね!〉
 シロノはフウマがいない事に、残念がっていた。
 ……しかし!



「いや……そうでは、ないみたいだぞ」
 ジンジャーブレッドは機体のセンサーを通じ、ある事を察した。
〈どう言う事、ですか。…………いや、あれは!〉
 最初シロノには訳が分からなかったが、彼もすぐに、同じ事に気づいた。
 それは――。



〈シロノ! ジンジャーブレッドさん! 二人にばかり、いい恰好はさせないよ!〉
 ブラッククラッカー、そしてホワイトムーンの後方から迫り来る、機体の姿。
 それはフウマの――テイルウィンドだ。
〈……フウマ! ここまで追って来たのですね!〉
〈当然! 海面に良い下降気流が流れてたしねっ! 上手い具合に利用したともさ!〉
 それに――。フウマは続ける。
〈ただいま僕は、もう一人連れて来って感じでさ、これで四人勝負ってことだね!〉
 

 テイルウィンドの横には、もう一機、黄金色の機体の姿があった。
〈ふふっ! 私もまた、ここまで来たんですから!〉
 通信に映るのは、金髪ツインテールの少女――フィナ。
 そう。彼女の乗機、アトリもまた、同じく気流に乗ってトップに迫っていた。
〈ま、追い上げたのは良かったんだけど、途中でフィナに捕まっちゃってさ。
 そっちもまた勝負の、真っ最中だったって訳〉
〈アトリなら、テイルウィンドの動きについて行くことくらい、造作もありません。
 そして……そこから巻き返すことだって〉


 フウマ、フィナの二人は、ここまで来る短い間にも、勝負を繰り広げていた。
 互いに互角で、譲ることのないままここまで来たと……そう言うことだ。
 フィナはフウマだけでなく……。
〈シロノさんにも、そして、ジンジャーブレッドさんにだって……。
 ここまで来たんだから、勝たせてもらいますよ!〉  
 彼女もまた、そう、レースに全力をかける。
 最年少ではあるが……それでも、かける想いは人並み以上。
 ――ふっ、例えどれだけ若かろうと、レーサーはレーサーか。
 いいだろう、まとめて勝負を、受けてやるとも!――
 

 自分がどうなろうと、知ったことではない。
 とにかくこの今に――魂を入れる!

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