テイルウィンド

双子烏丸

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最終章 レースの決着

誰よりも強く……

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 ――――

〈さぁ! もうすぐG3レースのフィナーレだわ! トップに立つのは、フウマのテイルウィンド、シロノのホワイトムーンにそして……ジンジャーブレッドのブラッククラッカーの三機!〉
 最後と言うことで、司会のレイはいつもよりずっと、テンションを上げていた。
 別モニターで映し出されるのは、サファイア上空を飛行しゴールへと迫る、レース機の姿が見える。
 対して実況のリオンドもまた、感嘆の表情である。
〈――互いに譲らず、三機同時に互角の勝負、凄まじいデットヒートだな。だが――ジンジャーブレッドは、もう〉 
 そう。彼の言う通り、ジンジャーブレッドはすでに、失格となっているのだが――
〈それは本人だって、分かっているはずよ。でも、…やっぱりジンジャーブレッド。本当に見事な、レースをしているわね〉
〈ああ。まるでかつての……現役の頃のようだ〉
 二人はジンジャーブレッドのその姿を、まじまじと眺めていた。


 そしてリオンドはこうも、続ける。
〈だがフィナのアトリと、リッキーのワールウィンドもまた、追い上げを見せている。
 あのペースではもしかすると、ゴール寸前にはもしかすると……そして〉
 もう一機、先頭の三機に向かい、超高速で向かい来る、真紅の機体――。
〈あれはマリンの、クリムゾンフレイムね! 親善試合や前半戦で見た、あの加速機構を、最後に使ったって訳ね!〉



 六機と、六人のレーサー、誰が勝ってもおかしくない。
〈とにかく、間もなくG3レース、ついに決着ね。
 ここまで長かったけど、それももう終わり――。どうか最後まで、見守りたい所ね!〉
 レイはそう締めくくり、クライマックスを見届けることにする。


 ――――

 レースの観客は、半透明の円天井が広がる、会場にいた。 
 オーシャンポリスの、見晴らしの良い高層建築物の頂上に位置する、この会場。
 モニターも表示されているが、そのモニターを介することもなく、丸天井を介して空には――飛行して接近する六機のレース機が、直接目に見える距離にあった。
  

 対決しながらも、ゴールに迫る機体の数々。……テイルウィンドもまた、その中にあった。
 ――フウマ――
 会場の観客席で、レースの結末を見守っていた、ミオ。
 あれから彼女は、観客として再びレースを、こうしてここで観戦していたのだ。
 ――今さらかもしれないけど、凄いな。だってあんなに、立派なレーサー達を、相手にしているんだもん――


『白の貴公子』ことシロノ・ルーナと、常勝無敗の伝説を持つレーサー、ジンジャーブレッド。
 最もジンジャーブレッドはオリジナルのクローンであると言うが、そんな事はどうでもいい――重要なことじゃない。 なぜなら彼はもはや、実力そして信念ともに、あの頃のジンジャーブレッドに勝るとも劣らないものであったからだ。
 

 他にも、マリンにフィナ、そしてリッキー……彼女らもまた、素晴らしいレーサーだ。
 そんなレーサー達を相手に、こうして対等に渡り合っているフウマ。今さらながら考えると、彼もかなり凄いのだ。
 ――やっぱりこうしているフウマが、一番格好良いんだ。 ……そして、最後まで誰よりも、応援してる。だって私もフウマの事――宇宙一、大好きなんだから!――
 ゴールは、もう間もなく。ミオはいつものように――いや、いつもよりもずっと、フウマの事を強く想っていた。



 ――――

 ――海上都市、オーシャンポリスの全景が視界いっぱいに見える。
 そして、ゴールとなる黄金のリングは、モニターに大きく迫る。
 
 ――後一歩、ジンジャーブレッドさんより、シロノよりも一歩先に行ければ――
 
 ここに来てまで、テイルウィンドは未だ二人と同列のままだった。
 優勝の座は一つ、誰よりも速いと言う事に証明のために……ここで退くことは出来ない
〈ふっ――ここまでやるとはな、フウマ〉
 通信で、ジンジャーブレッドは語りかける。
「まあね! だって、ゴールする瞬間まで、諦めないしさ!」
〈威勢はいいな。……だが、私とて!〉
 
 
 次の瞬間、ほんの僅かだが、ブラッククラッカーがテイルウィンド、ホワイトムーンよりも先に出た。
「――くっ!」
 フウマはしてやられたと言うような表情、そしてシロノも――。
〈まさか、ここまで来てだなんて……やはり伝説のレーサーと、言うことでしょうか〉
 二人は心から悔しがっているが、ジンジャーブレッドの首位には、もはやG3レースそのものの公式の結果としては、何の意味を持たない。
 だが、この瞬間、そんな事はフウマ達にとってどうでも良かった。
 今彼と、こうしてレースをしている。ただそれが全てだった。

 、
 
 しかしシロノもまた、負けていられないようだ。
〈確かに、ジンジャーブレッドさんには尊敬ですが、私もまだ――〉
 と、まさにそんな時……
〈――来たわよ、シロノっ!〉
 威勢の良い声とともに、後方から高速接近する――クリムゾンフレイム。
〈なっ! マリンまで!〉
〈言ったでしょ? 優勝とシロノ、両方とも手に入れるって!
 ここまで来たんだから、頂くわよ!〉
 マリンだけではない、クリムゾンフレイムのすぐ後ろには、フィナのアトリに、そしてリッキーのワールウィンドまでいた。
〈さて、と、私も最後の最後まで諦めませんから!〉
〈右に同じく! それにフウマ……随分と成長したみたいだが、俺もまだまだ行けるぜ!〉

 
 ――結局みんなまとめての、クライマックスってわけか――
 六人とも、一気に集結しての、大勝負。だが今一番の相手は……
〈フウマ! ここで決めてみせますよ!〉
 ジンジャーブレッドが先頭に立ち、二位はフウマとシロノの二人。
「ふっ、結局良い所は、シロノと争うわけか。さすが、僕のライバル!」
〈ライバル……ですか〉
 シロノはフッと笑い、そして言った。
〈いつのまにか私も、フウマとのこうした関係が……ずいぶん、楽しむようになっていた気がします。
 やはり競い合う相手がいてこその、レースですね。ですが――今回も、私が勝たせていただきますよ〉


 フウマと――シロノ。
 二人は長い間、レーサーとして競い合って来た。
 フウマが一方的にシロノを、ライバル扱い。何度も、何度も二人は勝負を繰り返し、それでもフウマは一度も、シロノに勝てた事がなかった。
 ……だが、今のフウマなら――。


「確かに、これまではシロノに、負けっぱなしだったさ。
 けど――今の僕なら!」
 そしてフウマは、刹那の瞬間で、テイルウィンドをフルスロットル! ついにホワイトムーンよりも、先へと越した。
〈……つっ!〉
 シロノの予想よりも、腕の上がっていたフウマ。まさかの
追い上げは、彼にさえ思いもよらなかった。
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