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「H1-R0」
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「機械外装の大破、視覚、聴覚ともにブラックアウト、心拍数はゼロ、生体機能も停止しています――。これにて、試作生体兵器、タイプ『H1―R0』、全十機の内最後の一体の、完全な破壊を確認しました」
我が社の新兵器開発部門、そのモニタリングルームで、私は開発部門の所長、ウェッジ氏とともに新兵器のモニタリングをしていた。
「さてと、社長、私どもの部門が開発した試作兵器、『H1―R0』の性能はいかがですか? もちろんご覧の通り、最後は反乱軍の一人に注意を取られていた隙に、至近距離で重火力戦車の大口径レールガンで身体を貫かれこそしましたが、戦闘能力は大したものでしょう?」
ウェッジは私に、自信たっぷりに話す。
「確かにな。多くの兵士をものともせず、鬼神の如き強さだったな。既に破壊された他の試作兵器も、奮闘したと思うよ。ただ、相手が多すぎたな。反乱軍数百人に、試作兵器一体ではな」
「仕方ないでしょう。政府側には戦力は、もう殆ど残っていなかったのですから。やはり、数の力を覆すのは、試作段階では難しいようですな」
そう言って、彼は少し苦笑いを見せた。
この試作兵器は実地試験の為に、政府と反乱軍とが争うエリウーダ星系の内戦下に送られた。
反乱軍に追い詰められ、戦況不利なエリウーダ政府は、どんな戦力でも必要としていた。例え試作兵器でも、喜んで受け取った。
「武器は両腕の新兵器、高速の弾で対象を粉砕する加速マグナムガン、外装の強度も複合合金を使用する事で向上させ、生体組織の反応と運動性も高めました。そして、何より……生体兵器のプログラム、つまり教育に関しては、私は革新的な改革を行いました」
彼は口元に笑みを浮かべて、続ける。
「これまでのプログラムは、ただ『敵を倒せ』。それだけを組み込んで、戦闘に応じて様々な指令を出すだけでした。しかし、それでは何の感情も無しに、機械のようにただ戦うだけ。それでは、生物兵器の意味がありません。そこで、今回はある『刷り込み』を、試験的に行いました。それは……」
「それは?」
「『H1―R0』の知能は人間で言う五歳児と同程度の、幼稚なものです。そこに、こう思わせるのですよ。『自分は悪と戦う正義の味方で、悪を倒すことこそ正しく、正義なんだ』と。ここでの『悪』とは何か、もうお分かりですな」
ここまで聞くと、専門家でない私でも、ある程度の理解が出来た。
「そう、あれらに戦わせる敵を『悪』として認識させれば、純粋な悪への怒りや憎しみ、そして悪を倒そうとする強い正義感と使命感…………人間のそれに近い意思により、試作兵器は本来のスペック以上の性能が引き出せるのです。感情と言うものは……実に利用価値がある」
人の感情は喜怒哀楽と様々だ、そして場合によっては、驚くほどの攻撃性と狂暴性を発揮する。この兵器開発部門の所長が言いたいのは、そう言う事だろう。
とりわけ『悪』に対する、『正義の味方』としての感情とはな。正義が悪に対する無慈悲さと攻撃性は、人類の歴史を見れば明らかだ。
それを兵器として利用するとは…………全く。
ウエッジは愉快そうに笑みを見せ、私にこう言ってみせる。
「しかし、この試作兵器はどうもそれが行き過ぎているようだ、『悪』を倒すこと――今回はエリウーダ政府反乱軍だが、どうやら姿形が同じである人間そのものすら、『悪』と見なしていたからな。いやはや……行き過ぎた正義感は…………人間でも兵器でも厄介だな」
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