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二章 討伐戦

第21話 Fクラス

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 パリっとしたシャツに袖を通して、履き慣れていないスカートをはく。
 白い靴下は膝の上まであって、それがかえってスカートと靴下の間を目立たせる。
 そんな事を気にしながらピカピカの上着のボタンを留めたら——完成っと。

「コレット、変じゃないかな?」
「うん、とっても可愛いらしいよ。あ、ちょっと待って」

 そういうとコレットは僕が家から持ってきたリボンを髪に結んでくれた。

「はい、これで本当に完成っ」

 そう言われた僕は懐鏡を取り出して自分を確認する。
 うん。化粧のノリはいいし、髪もコレットに結ってもらったから完璧だ。

「それじゃ行こっか。入学式に遅れたら大変だもんね」

 僕らは今日、遂に魔女学園の入学式を迎える。
 遠方から来る生徒もいる関係で、長めに取られていた入学生受け入れの期間がようやく終わったのだ。


「……であるからして、くれぐれも魔法女学園生徒としての自覚を持って——」

 新入生の前で話す学園長先生の話を聞いていた僕はついついウトウトしてしまった。
 昨日は早めに寝たんだけどなぁ。
 もしかしたら眠りの魔法みたいなのを使っているのかもしれないね。
 だって、隣のコレットもこくりこくりと船を漕いでいたんだから。

 そしてようやく長い話が終わると次は生徒会長の話になった。
 呼ばれて前に出ていったのは——リオナ先輩だった。
 コレットに聞くと生徒会長っていうのは学生の自治的な組織で、学園祭やら討伐戦なんかのイベントを運営したりもするんだって。
 よくわからないけど学生で一番偉いと思っておけばいいのかな。
 壇上に上がった先輩は、なぜか一瞬僕に視線を送ってきたけど気のせいだよね?
 そんな事を気にしていたから肝心の内容はよく聞いてなかった。
 コレットに聞いたらまぁ頑張ってっていうような内容だったみたい。

 そんな感じで入学式が終わると、そのまま魔力測定が始まった。
 このテストの結果によってクラスが決まるらしい。
 僕は魔法を自分で使えないんだけど大丈夫かな?って思ってたらコレットが「みんなそうだから大丈夫だよ」って教えてくれて安心する事ができた。

 みんなが順番に測定器に手を置いている。
 どうやらあれも魔導具で、手を置くだけで魔力とか属性、魔法傾向っていうのが分かるらしい。
 遠くからみるとリッカが測定器に手を置いているところだった。

「おぉ、これはっ!」

 測定している先生がそんな声をあげていて……どうやらリッカは一番上のクラスに行くことになったみたいだ。
 僕も頑張ってリッカのクラスメイトになろう!
 そう思っていた時もありました。

 さぁ僕の番だ、と測定器に手を置いてみると一瞬光って、そしてすぐに消えてしまった。

「壊れているんじゃない?」
「うん、そうだといいんだけど……」

 僕とコレットがそんなやりとりをしていると新しい測定器が運ばれてきた。
 さっきのはなにかの間違いだ、と手を置いてみるとやっぱり同じ結果だった。

「おぉ、これはっ!」

 っていうリッカの時と同じような反応をしていたけど結果は真逆だったみたいだね。


「魔力量は最低……属性は不明、魔力傾向は放出不可のFクラスかぁ」
「イニス、そんなに落ち込まないで」
「だって最低に不明に不可だよ!? そういうコレットは?」

 僕はちょっと涙目になってコレットに詰め寄る。

「私は多め、土、創造系のAクラスだって」
「じゃあクラスは別れちゃったね、天と地ほど」
「ちょ、イニスそれは大袈裟だって。王城と民家くらいの差だよ」
「え、それってあんまり変わらないっていうか比較できる分、もっと離れてるように感じるんだけど……」

 ちなみに後で聞くとリッカはSクラス。Aの上にある最上クラスらしい。
 そのクラスからはお城で働くような魔女も出てくる事があるんだって。
 もしリッカがそうなったらもう僕らでは手が届かなくなっちゃうね。

「まぁクラスは毎年更新されるらしいし、また頑張って来年は同じクラスになろうよ!」

 コレットは僕をそう励ましてくれて、自分のクラスに向かっていった。
 僕も気が乗らないけど自分のクラスに行ってみるしかないか。

 少しだけ重い足をひきずって向かったFクラスは一年の校舎の端っこにあった。
 なぜかFクラスだけちょっと他のクラスと離れていた。
 それはまるで隔離されているようでもあったから、あんまり気分が良くないね。

 ガラガラと引き戸を開けるとそこには既に数名の生徒が席についていた。
 みんな自分の結果にショックを受けたのか言葉少なだ。

「あーまた落ちこぼれちゃんの到着かぁ」

 僕が教室に入ると突然そんな声を上げたのは真っ赤に燃えるような髪をした気の強そうな女の子だった。

「え、落ちこぼれって僕のこと?」
「おいおい、よりにもよって僕っ子なの? そりゃキャラが立ってることで」

 僕は馬鹿にされているのだと気付くと顔が赤くなっていくのを感じた。
 クラスの子達も顔を伏せている所を見るとこの子にガツンとやられたのかもしれないな。
 よーし、みんなの敵討ちのために僕が逆にガツンと言い返してやろう。

「で、でも君も同じクラスなんだからやっぱり落ちこぼれなんじゃないの?」

 僕がそういうとその赤髪の子は突然笑い出した。

「あはは、まさか! あたしはSクラスだっての。どんな奴がFなんかに来るのかなぁって観察しに来ただけだから」

 な、なんて底意地の悪い……。
 僕はそんな純粋な悪意に思わず声を失ってしまった。

「ま、そういう事だしあたしはそろそろSクラスに戻ろっかなー。それじゃ一年間頑張れよーF子ちゃんたちっ」

 最後にバチっとウインクして去っていくその後姿を見ていると、無性に腹が立った。
 けど何も言い返せない自分がいて……情けなくてそんな自分にも腹が立った。

 結局、僕らはなんとなく声の出しづらい暗い雰囲気の中で、担当の先生が来るまで待つことになったのだった。
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