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二章 討伐戦
第25話 一騎当千
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「魔女の僕が騎士にって……どういう事ですか?」
「うん? そのまま、だけど」
「つまり魔法を放出出来ないから魔女は無理だという事ですか?」
僕はなるべく平静を保ちながらそう口にした。
そうしないと自分に失望してしまいそうだったから。
「何を、言ってる? エリュシオン様がなんて呼ばれていたか、知らない?」
「えっとそれは……魔法騎士、です」
エリュシオン様の話は、どちらかといえば女の子向けのお伽話の中にある話だけど、そう呼ばれていたくらいはさすがに僕だって知っている。
「そう。私が言ったのは、それ。魔女は騎士に守られないと魔法一つ打てないっていう騎士の驕りを壊せる、存在……」
そんな酷いことをいう騎士が本当にいるのかな?
騎士は魔女がモンスターを倒してくれると信じているからこそ、傷ついても守り抜けるものだってブロスさんは言ってたけど。
あ、感情の読めない先生の顔がちょっぴり怒っているような……もしかしたら誰かに言われたことがあるのかもしれないな。
「ちなみにエリュシオン様以外に魔法騎士っていません、よね?」
若干先生の喋り方が伝染ってしまった僕の問いかけに、先生は首を縦に振る事で肯定を伝えてくれた。
「でも、一騎当千という意味では近い魔女も、いる。隣の国——ランダストルの【鋼鉄兵団】は一人の魔女が魔法で全ての兵士を作ってモンスターの大群すら殲滅、する。それにうちの国にも【赫き弾痕】が、いる」
赫き弾痕の話は僕も聞いたことがあった。
あまりにも高い温度の火魔法はモンスターを軽々と貫通して、その体に赫い弾痕を残すことからそう呼ばれてるみたい。
さらにそんな魔法を連発するらしいからそりゃ二つ名もつくよね。
僕なんかがそんな人達みたいになれるだろうか?
そんな弱気を口にしようとして、ふと女の子になると決めた日のことを思い出した。
確かあの日はちょっと涙目で、ブロスさんに誘導されるような形で宣言したんだっけ。
あれ?もしかして、男の僕が女の子になるよりは現実的なんじゃないか。
そう思えた僕は先生に宣言する。
「僕は……魔法騎士を目指してみます」
「あれ? なんでイニスさんが槍を?」
「今日は武器を使った訓練もするのかしら?」
「イニスちゃんになら突かれてもいいわっ」
用具室を出た僕と先生は何故か注目されていた。
何故かっていえば短いけど存在感のあるこの槍のせいなんだろうけど。
あと変な声も聞こえたけど気にしないようにしないと。
「さっきの感覚、分かる?」
さっきの感覚というのは先生に背中を叩かれて一気にドロドロが吹き出した時のあの感覚だろう。
「出来ないならまた背中を押す、けど」
「いや、大丈夫です」
大丈夫か分からないけど、流石にまた怪我をさせるわけにはいかないもんね。
だから僕は集中してさっきの感覚を思い出す。
体の中に溜まっている魔力を一気に放出するんだ!
なかなか流れ出てくれない魔力をどうにか外に出そうともがいていると——それはきた。
まるで決壊するように溢れ出る魔力……。
「さっきと同じ感覚だ」
ちょっぴり感動した僕は、思わずそう呟いてしまった。
「ん。じゃあそれで的、叩いて?」
「やってみます」
そう答えると、僕は的は向かって飛ぶように走る。
的までの距離は五十メートルほど。だけど、そんな距離は一瞬にしてなくなった。
これを使うと身体能力も強化されるのかもしれないね。
的までたどり着いた僕はそのままの勢いで的の中心を貫いた。
その槍は一条の光のように走り、的のど真ん中に綺麗な穴を開けたのだった。
「で、できた……」
妙な達成感で満たされた僕はその場で立ち尽くしていた。
そんな僕に気付かず放ったのであろう誰かの魔法——土塊が目標の的を外れて飛んできた。
「イニスさん、危ないっ!」
咄嗟のことで回避もできなかった僕はそのまま直撃を受けてしまった。
「イニスさん!」
「イニスちゃぁぁん」
そんな、叫び声を聞きながら僕は自分の体を確認するけど……。
「あれ……痛くない」
みんなのところへ戻ると、みんな僕の周りに集まって口々に大丈夫かと尋ねてくる。
ちょっと距離が近いよ。ククルちゃんは胸が当たってるし……。
「う、うん。全然大丈夫だったよ」
僕がそういうとみんな安心してくれたようだった。でもなぜかみんなが僕の周りから離れようとしてくれない。
「ねーえーイニスさん、それよりさっきのはなんですの? 槍を使ってまるで騎士みたいでしたわっ!」
マルグリッドさんがククルちゃんから僕を引き離すように腕を引っ張るからまたその……胸に当たっているよ。
ま、まぁ女の子同士だから問題ない、ね?
「う、うん。僕はみんなみたいに魔法をうまく飛ばせないから……魔法騎士になろうと思って」
僕はさっき先生に宣言したことをみんなに再度宣言した。
よし、これで後戻りはできないぞ。
「……す、素敵ですー。私の騎士になってくださーい」
ククルちゃんはマルグリッドさんに引っ張られて空いてしまった僕との距離をまた強引に引き戻した。
そんなククルちゃんにずるーいという声がクラス中から響いて、なぜか僕の取り合いになってしまった。
そんな状況を見ていた先生は何故か頬を染めて僕に親指を立てた。
いや、全然よくやった、素晴らしいって状況じゃないよー!
「うん? そのまま、だけど」
「つまり魔法を放出出来ないから魔女は無理だという事ですか?」
僕はなるべく平静を保ちながらそう口にした。
そうしないと自分に失望してしまいそうだったから。
「何を、言ってる? エリュシオン様がなんて呼ばれていたか、知らない?」
「えっとそれは……魔法騎士、です」
エリュシオン様の話は、どちらかといえば女の子向けのお伽話の中にある話だけど、そう呼ばれていたくらいはさすがに僕だって知っている。
「そう。私が言ったのは、それ。魔女は騎士に守られないと魔法一つ打てないっていう騎士の驕りを壊せる、存在……」
そんな酷いことをいう騎士が本当にいるのかな?
騎士は魔女がモンスターを倒してくれると信じているからこそ、傷ついても守り抜けるものだってブロスさんは言ってたけど。
あ、感情の読めない先生の顔がちょっぴり怒っているような……もしかしたら誰かに言われたことがあるのかもしれないな。
「ちなみにエリュシオン様以外に魔法騎士っていません、よね?」
若干先生の喋り方が伝染ってしまった僕の問いかけに、先生は首を縦に振る事で肯定を伝えてくれた。
「でも、一騎当千という意味では近い魔女も、いる。隣の国——ランダストルの【鋼鉄兵団】は一人の魔女が魔法で全ての兵士を作ってモンスターの大群すら殲滅、する。それにうちの国にも【赫き弾痕】が、いる」
赫き弾痕の話は僕も聞いたことがあった。
あまりにも高い温度の火魔法はモンスターを軽々と貫通して、その体に赫い弾痕を残すことからそう呼ばれてるみたい。
さらにそんな魔法を連発するらしいからそりゃ二つ名もつくよね。
僕なんかがそんな人達みたいになれるだろうか?
そんな弱気を口にしようとして、ふと女の子になると決めた日のことを思い出した。
確かあの日はちょっと涙目で、ブロスさんに誘導されるような形で宣言したんだっけ。
あれ?もしかして、男の僕が女の子になるよりは現実的なんじゃないか。
そう思えた僕は先生に宣言する。
「僕は……魔法騎士を目指してみます」
「あれ? なんでイニスさんが槍を?」
「今日は武器を使った訓練もするのかしら?」
「イニスちゃんになら突かれてもいいわっ」
用具室を出た僕と先生は何故か注目されていた。
何故かっていえば短いけど存在感のあるこの槍のせいなんだろうけど。
あと変な声も聞こえたけど気にしないようにしないと。
「さっきの感覚、分かる?」
さっきの感覚というのは先生に背中を叩かれて一気にドロドロが吹き出した時のあの感覚だろう。
「出来ないならまた背中を押す、けど」
「いや、大丈夫です」
大丈夫か分からないけど、流石にまた怪我をさせるわけにはいかないもんね。
だから僕は集中してさっきの感覚を思い出す。
体の中に溜まっている魔力を一気に放出するんだ!
なかなか流れ出てくれない魔力をどうにか外に出そうともがいていると——それはきた。
まるで決壊するように溢れ出る魔力……。
「さっきと同じ感覚だ」
ちょっぴり感動した僕は、思わずそう呟いてしまった。
「ん。じゃあそれで的、叩いて?」
「やってみます」
そう答えると、僕は的は向かって飛ぶように走る。
的までの距離は五十メートルほど。だけど、そんな距離は一瞬にしてなくなった。
これを使うと身体能力も強化されるのかもしれないね。
的までたどり着いた僕はそのままの勢いで的の中心を貫いた。
その槍は一条の光のように走り、的のど真ん中に綺麗な穴を開けたのだった。
「で、できた……」
妙な達成感で満たされた僕はその場で立ち尽くしていた。
そんな僕に気付かず放ったのであろう誰かの魔法——土塊が目標の的を外れて飛んできた。
「イニスさん、危ないっ!」
咄嗟のことで回避もできなかった僕はそのまま直撃を受けてしまった。
「イニスさん!」
「イニスちゃぁぁん」
そんな、叫び声を聞きながら僕は自分の体を確認するけど……。
「あれ……痛くない」
みんなのところへ戻ると、みんな僕の周りに集まって口々に大丈夫かと尋ねてくる。
ちょっと距離が近いよ。ククルちゃんは胸が当たってるし……。
「う、うん。全然大丈夫だったよ」
僕がそういうとみんな安心してくれたようだった。でもなぜかみんなが僕の周りから離れようとしてくれない。
「ねーえーイニスさん、それよりさっきのはなんですの? 槍を使ってまるで騎士みたいでしたわっ!」
マルグリッドさんがククルちゃんから僕を引き離すように腕を引っ張るからまたその……胸に当たっているよ。
ま、まぁ女の子同士だから問題ない、ね?
「う、うん。僕はみんなみたいに魔法をうまく飛ばせないから……魔法騎士になろうと思って」
僕はさっき先生に宣言したことをみんなに再度宣言した。
よし、これで後戻りはできないぞ。
「……す、素敵ですー。私の騎士になってくださーい」
ククルちゃんはマルグリッドさんに引っ張られて空いてしまった僕との距離をまた強引に引き戻した。
そんなククルちゃんにずるーいという声がクラス中から響いて、なぜか僕の取り合いになってしまった。
そんな状況を見ていた先生は何故か頬を染めて僕に親指を立てた。
いや、全然よくやった、素晴らしいって状況じゃないよー!
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