異世界に招かれしおっさん、令嬢と世界を回る

いち詩緒

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第一章 王国編

第1話 異世界への扉

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 酔って歩いている、身も心も疲れ切ったサラリーマンがいた。彼は一生懸命に働いても他の社員からの嫌がらせで成果を横取りされたり、不当に評価を落されたりしていた。

 休日に友人に会っても皆、結婚していた。四十歳を前にして結婚も出来ず、恋人も居ないという彼は虚しさばかりが募った。毎日が地獄のようであった。

 そんな日々を過ごしていたからか、体を壊し会社を辞めるしかなくなった。彼は退職して体を回復させるため、のんびりと過ごしていたのだが、ある夜、友人に酒を飲みに行こうと誘われた。

 彼と友人は、居酒屋でたらふく酒を飲み、いい気分で家路についた。その時、住宅街の小道を歩いていると不思議なドアが目の前に現れた。

「不思議な事もあるもんだ。どうせなら異世界にでも通じてくれているといいんだが?」

 そう言って彼はドアを開けた。

 するとその先にあったのは薄暗い怪しげな部屋だった。

 扉の先には、火がぼうぼうと燃えるレンガ造りの炉の上に据え置かれた大釜が見える。中には薄い緑色の液体が入っており、それを柄の長い棒を使い、少女がかき混ぜている。

 少女の容姿は、栗色の髪で長さはセミロングくらい、背丈は一五五センチ程に見える。服装は、黒い魔女が着るローブのようなものを着ている。美少女の幻覚が見れて嬉しいと思って眺めていると少女と目が合った。

 少女は言った。

「ついに異界の扉が開かれし時が来たね! ポーションを作っていただけなのに!」
「これは素晴らしい。君が俺を召喚してくれたのか? 俺は今、酒に酔っていてね。幻覚でも見ている気分だよ」

「ううん。幻覚じゃないし、召喚したのは私じゃないよ。この部屋の扉はたまに空間がねじれて異世界に繋がる事もあるんだ。酔い覚ましにこのポーションでも飲む?」

 彼はそれを酒だと思ったのか喜んで受け取り、それを飲み干すと眠ってしまった。

 寝てしまった彼を運ぶため、使用人を呼んだ彼女は彼を使用人と共に客間へと運び、ベッドへ寝かせる事にした。

- その夜 -

 夢を見た。

 爽やかなそよ風の吹く小高い丘の上を歩いていた。

 丘をしばらく登っていくとこの世のものとは思えない美しい花畑に石造りのガゼボ(西洋風あずまや)があり、そこに女神のような美しい姿の女性が座っていた。

 修道女のような白い服に金色と黄色の中間のような色の線が入った服を着ており、ブロンドヘアを三つ編みにしている。まるで女神のような姿だ。

「こちらへどうぞ。お待ちしていました」

 女性に言われるまま、石造りの椅子へと腰かけた。
 席に着くと彼は、この女性に神秘的な雰囲気を感じたのでかしこまって尋ねる事にした。

「まるで女神の様なお姿ですが、どちら様でしょうか?」

「私はあなたをサポートするために遣わされた者です。女神でなくて残念でしたね」

「残念などという事はありえません。それに、私のような者が女神様のような方にお会いするなど恐れ多い事です。ところで、どうしてお姿を見せてくれたのでしょうか?」

「あなたは今までいた世界からこの世界へと転移した事は理解されていますか?」

「酒に酔って夢でも見ているのではないかと思っていたのですが、やはり異世界に転移したんですね。夢も希望も無い日々を過ごしていたので本当にありがたいです」

「あなたが酷い毎日を送っていた事は私も把握しています。何を一生懸命にやっても認められず、将来にいつも絶望しているのを見ていました。仕事にプライベートに家業の手伝い。全て一生懸命にやっても報われない。
 いつか心が壊れてしまうのも無理は無い。そんな状況でしたね。しかし、今であれば、あなたが希望すれば以前の世界にも帰る事ができますがどうしますか?」

「いえ。出来る事ならこの世界で生きていきたいと思うのですが、どのような世界か教えていただけませんか?」

「はい。この世界はあなたのいた世界では中世から近世くらいの雰囲気なのですが魔法や錬金術があり、あなたの世界で言う一般的な家電や乗り物に近いものが多く存在します。政治についてはあなたの転移した国では王族、貴族が権力を持っていますが国民の生活を優先した政治をしていますので国民はこれといった不満は持っておらず、おだやかに暮らしています。
 また、あなたの転移した町は王都の郊外にあり、主な産業は農業と製薬です。あなたが扉を開けた先は領主の館の一室で、そこにいた少女は領主の娘です。領民のために何か役立つものは作れないかと薬を煎じていたわけです。と言っても彼女は薬師になるつもりもなく、領主には他に子がいないので彼女は将来、領地の経営が主な仕事になります」

「という事は、かなり過ごしやすそうな世界ですね。私も異世界でのんびりと生活できればどんなに幸せだろうかと毎日、思っていたのでまさに理想郷です」

「さて、あなたには転移ボーナスとしてこれまでの知識と、新たに想像したものを具現化する能力を与えます。この具現化能力はイメージしたものを形にしやすくするものです。
 ただし、ものは使いようという言葉もあるようにある意味では扱いが難しい能力でもあります。上手く使ってくださいね」

「ありがとうございます。素晴らしい能力です。ところで前の世界では恋愛がほとんど出来なかったので、今度の世界では恋愛もしたいのですがそれは叶えていただけませんか?」

「勘違いされているようですがあなたはモテないから恋愛が出来なかったと思っているのでしょうけど、実際は本来あるはずの出会いが無かったから恋愛が出来なかった人です。モテなかったわけではありませんよ」

「それは向こうの世界でも何人かの人に聞かされました。ですが恋愛が出来ない日々を送っていたのも絶望的でしたね。これからは色々な出会いがあると思うと楽しみです」

「ええ。出会いはたくさんありますよ。これからは幸せな日々を送ってくださいね」
「そういえば、今後あなたは夢には出てきてくれるのでしょうか?」

「もちろんです。前の世界の夢でも何度も出ていましたがこの世界と比べるとエネルギーが少なくて記憶にほとんど残っていなかったというのが実際のところです。
 この世界ではそういうエネルギーは潤沢にありますから記憶に残す事も前の世界よりは楽にできますし、具現化能力や魔法、錬金術、魔術を使った薬作りにも使用されます」

「なるほど。ところで、この世界で私がする仕事は何が良いのでしょうか? 前の世界では会社に入っても適性の無い部署に回されて嫌がされをされていました。
 しかもたらい回しのように向いていない部署に何か所も行かされるという酷い会社でした。今度は自分が幸せを感じられる仕事がしたいです」

「それはご自分で選んでください。農業をしてもいいし、錬金術をしてもいいし、領主の娘と一緒に領地経営をしてもいいし、商売で一儲けして優雅にのんびりと過ごすのもいいし、そこは自由です。
 と言っても、あなたは一生懸命に働くでしょう。生きがいも幸せも見つけられますからね」

「それは楽しみですね。色々と試しながら何をするかを考えていきたいと思います」

「さあ、そろそろ目覚める頃です。起きたらあなたのベッドにあの子がいるので驚くかもしれませんがそれもまた一興でしょう」
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