異世界に招かれしおっさん、令嬢と世界を回る

いち詩緒

文字の大きさ
15 / 59
第一章 王国編

第15話 後をつける人、つけられる人

しおりを挟む
 屋敷に着くとソフィアをベッドに寝かせてライリーは自分も眠る事にした。添い寝を楽しみにしていたので横に寝かせたが酒臭さで目が覚めない事を祈るばかりだ。
 この天使のような寝顔が歪むと困るなと思いながら頭を撫でているとそのまま寝てしまった。

- 夢の中 -

 いつものように小高い丘を登り、花が咲き誇る美しい渓谷が見えるガゼボへ向かうとそこには柔らかな笑顔の女性がいつものように座っていた。彼女は紅茶を差し出して言った。

「こんばんは。今日は随分と深酒をしたようですね」

「ええ。こんなに夜が明けそうになるまで飲んだのは久々です。でも、向こうの世界の頃のように徐々に気持ち悪くなる感じとかが無く、心から楽しく飲めました。こんな事は初めてですね」

「それはあなたが今いる国が良いところである事と体調が良くなっている事が理由ですね。国中の悪いエネルギーというものが少ないのでいつも気分良くいられますし、体調が良いので深酒をしてもあまり影響が無いというのも理由です」

「確かに場所の雰囲気が悪いと気分も滅入るものですからね。魔族領についての話もある程度、聞きましたがあそこに行くと前の世界みたいに体が重い感覚があるのでしょうか?」

「あなたの場合ならあるでしょうね。前の世界でも悪いエネルギーはしょっちゅう感じているようでしたから。と言っても、前の世界のあなたは元々の運命とでもいいましょうか、それが随分と重く苦しい条件だったので余計に苦しい感覚があった事と思います。
 ですが、この世界に来た時にそういったものはリセットされていますし、生きていく目的が幸せになって何かを成し遂げる事ですから魔族領に行っても雰囲気にのまれる事はほとんど無いでしょう。慣れればほとんど気にならなくなります」

「まあ、あまり魔族領には行こうとは思いませんが、なんとなく行く事もあるような気もします」

「前の世界でも予期せぬ運命に翻弄され続けていましたが、こればかりは宿命というものです。なのでこの世界でもあなたは思いがけない事があって魔族領に行く事になります」

「もう前の世界で陰鬱な雰囲気とかは十分に経験したのでもうこりごりなのですが、やはり行かなければなりませんか?」

「ええ。この世界に来た理由がそこにあります。ここは異世界であって天国ではありません。あなたはまだ生きているのです。と言っても、前の世界と比べたらかなりマシなので案外と楽しいかもしれませんよ?」

「でしたら、楽しい事として後にとっておきましょうか」

「そういう心持でいいと思います。それに魔族領に向かうのはまだ先の話なので当分の間はこの国にいる事になります。その期間が魔族領に向かう準備期間となり、準備不足で向かうという事にはなりませんのでご安心ください」

「わかりました。そうそう、ずっと魔族領に居ないといけないような事にはなりませんよね?」

「はい。それはありません。あなたは行ったり来たりをする事になります。それこそあの兵士のカセムのように夜の街を楽しまれるのもいいかもしれませんね?」

「そういうのもありますか。でも私はソフィアを愛しています。が、年齢的なものを考えると手を出すのも気が引けるので困ったものです」

「そう言うと思ったので言ったのですが?」
「そういえばこの世界の婚姻可能年齢と、義務教育の修了する年齢を聞いていませんでした。何歳なのでしょうか?」

「はい。まず、婚姻可能年齢というものはありません。何歳で結婚してもかまいません。それにあなたが前にいた世界のように書類上の結婚という概念もありません。
 義務教育の修了する年齢は一五歳前後で個人の能力によって異なります。ほとんどがその後、就職をするか何かやりたい事を見つけてそれに取り組みます」

「なるほど。だから領主は私に結婚を勧めたんですね。領地の経営にも関わりやすくなるというのも狙いでしょうか?」

「そういう事です。さて、そろそろ目が覚めます。今日はまた新たな出会いがあるかもしれません」

- 翌朝 -

 今日も良い日差しの差し込む爽やかな朝を迎える。と、思っていたが流石に飲みすぎたのか少し体が重い。
 横で寝ているソフィアも目を覚ましたが、夜遅くまで起きていたからかまだ眠そうな顔をしている。

「おはよう。ソフィア。まだ眠そうだな」
「おはよう。ライリー。昨日の夜は夜更かししたからまだ眠いよ」

 かくいう俺もまだ眠いのでぼんやりしていたがメイドがもう朝食が出来ているというので着替えて行く事にした。ソフィアはメイドに着替えさせてもらっていた。今思えばぼんやりしていたとはいえ、着替えを全て見た訳だが、ソフィアは恥ずかしがりもしていなかった。

 ソフィアは俺の見立て通り最高の女になる事は違いないだろうとか思うが今日は何かある気がしてならないので歩くときは注意しようと思う。

 今日も町の視察をする訳だが、今日は学校の様子を視察するのだという。進んだ世界の学校という事で想像も出来ないなと思っていたが、見てみるとあまり元いた世界との違いは分からなかった。

 明らかな違いは悪い事というのが無いというところだ。みんな和気あいあいとしており、おだやかな雰囲気である。俺もこんな学校に行けていたら、楽しい恋愛もして最高の青春を過ごせていただろうという事だ。

 まあ、確実にとは言えないが。そう思いながら歩いていると見知った顔の男が近づいて来た。ルークだった。

「よう。ライリーとソフィアじゃないか。今日も学校は良い感じだぞ」

「そうみたいだな。俺が前に居た世界でこんなに良い雰囲気の学校なんて見た事がなかったな」

「まあ、魔族領に行けば荒れているところも多いみたいだけどな。……うお! 誰だ?」

 廊下の向こうから走ってきたと思ったら、ルークに飛びついた少女が居た。無邪気な感じの少女で、ルークを見つけたからとりあえず飛びついたらしい。

「お前な、見つける度に飛びつくなよ。腰とか痛かったらどうするんだ?」

「え? 大丈夫だよ。……じっと見てるから……」

「ええ……。俺じゃなくて教科書をちゃんと見ろよ。それに気になる彼とかいないのかよ。青春はあっという間だぞ」

「青春はあっという間? 青春が終わったら結婚だね。先生はどんな結婚生活をしたいとかある?」

「そうだなあ。俺よりも精神的に自立した女性が良いな。良妻賢母といった感じの賢くて、お互いに成長しあえるような相手がいい。それこそ、そこにいるライリーとソフィアみたいな感じだな」

「へえ……そうなんだ。じゃあ、私も卒業したら結婚はすぐに決まったようなものだね」

「さてと、俺は用事があるので行くが気を付けて帰るんだぞ」
「うん。わかったよ。じゃあね、先生」

 不気味な雰囲気を感じる会話を続けている二人を見ていると時間を知らせる鐘が鳴った。もう帰るのかと思ったが、ソフィアは校長に用があるというので先に仕入れを担当する事になった店に向かうようにと言われたので一人で向かう事にした。

 校門を出ると路地に入り、そこから店に向かうわけだが今朝の予感があたったのかどうやらつけられているようだ。ここは路地が入り組んだ区域なので撒いたフリをした後に後ろに回り込むと事情が分かるかもしれないと思ったので回り込む事にした。

 すると、黒髪のショートカットのボーイッシュな感じの少女で年齢は一四歳くらいに見える子がキョロキョロと辺りを見回している。わざと足音を大きくして近づくと振り向き、驚いたように目を合わせたので何か用でもあるのかと尋ねた。

「後をつけていたようだが、何かご用かな?」
「ご、ごめんなさい! ソフィアさんといつも一緒にいるのを見て気になっていたんです」

「そういや、ソフィアと歩いている時に何かのアイドルが好きだとか喚いている声が聞こえる事があったな」

「あ! いや! えっと、それは関係ないと思います」

「そうか? ところで何が気になるって?」
「これからお店に向かうんですよね? そこでどんな事をしているのかって気になっていたんです」

「へえ。じゃあ、一緒に行こうか」
「やった! 行きましょう!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

貞操逆転世界に転生してイチャイチャする話

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が自分の欲望のままに生きる話。

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...