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第1章
第1話 金の卵、割れちゃいました
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編集部は今、異様な盛り上がりを見せていた。
現在ネット上で開催している小説大賞の全部門で、
同じ名前が並ぶことになったからである。
「天才現る…だな」
編集部長である権田はそうしみじみと呟いた。
「これはかなり話題になりますよ!界隈も久々に盛り上がるんじゃあないですかね!?」
栗原も興奮気味に続ける。
「でも、逆に世間から反感買うことにならないですかね?話題作りとかいって」
入社二年目のAが心配そうに呟いた。
「馬鹿野郎!それを理由に他の作品を選んじまう方がよっぽど問題だ!このご時世どこでどう漏れるかわかんね~んだぞ?それに全部門で満場一致だ!文句ね~だろうが」
「しかもまだ中3だろ!?こりゃあとんでもない金を生むぞ!」
権田はイスにもたれかかりながらご機嫌な表情を浮かべている。
「じゃあ俺、連絡してきますね!」
そう言うと、栗原はデスクを離れて廊下へと向かった。
「おう!丁重に扱うんだぞ~?100年に1度の金の卵なんだからな~!だ~はっはっはぁ!!」
突如、小説界に彗星の如く現れた天才少年。彼の書く作品は人々の心の琴線に触れ、全世界に感動の雨を降らせる。「七色の文字」を操り、後世に名を遺す偉大な小説家の物語がいま、はじま__
***
「辞退します」
「ん?あ…のぉ...えっと、すみません。今、なんと」
「辞退します。どうぞ、他の方に譲ってください。それでは、失礼します」
プツン・・・
「あ~...」
・・・
「100年に1度の金の卵……か」
「うん、よし。取り合えず今から猫カフェでみ~ちゃんに話聞いてもらお!あはははぁ~♪」
栗原の目からは……一筋の涙が流れていた。
***
「で……わざわざ応募して、わざわざ大賞とって、わざわざ辞退したと?」
「は~っはっはっは!!そうなんだよ!いやあ…実に気分がいい!!」
「聞いてる方はその限界突破した馬鹿さ加減にあてられて…吐きそうになってきたけどな」
「まあまあ、そう妬むな!ほらほら、ドリンクのお替りでも持ってくるがいい」
「ったく…全部門大賞って時点で相当珍しいことじゃね~かよ。それを、なんでまたお前は...」
「い~や!それくらいなら今後現れる可能性だってあるだろう?」
「だが、全部辞退するやつなど…おそらく現れない!」
「はぁ…賞金が1つ10万とかだろ?もったいね~な~」
「馬鹿め!だからいいんだろう?金には目もくれずに栄光を突き返す...
こんなに希少でカッコいいことはない!」
染谷 大地(そめや だいち)
こいつは俗に言う天才(バカ)というやつだった。父も母も姉もまともだが、彼は生まれる前に頭のネジを5、6本どこかに捨ててきたらしい。
あまりにも性格がかけ離れているため
「あの子に関しては生んだ覚えすらないのよね~」
なんて笑えない冗談を母親は口にしていた。
そのあまりの特異性を心配した姉がお目付け役として選んだのが、この俺、幼馴染の寺田 翔一(てらだ しょういち)。通称テラである。
姉に惚れた弱みから、俺は小、中、そしてこれから進む高校でもこの男と一緒にいなければならなかった。
「大地よ…頼むから高校では大人しくしててくれよな」
「無理だな!俺はどこへ行っても結局目立ってしまう!」
染谷の大きな笑い声は店内に響き渡っていた。
前略:染谷 美空(そめや みそら)様
私はあなたの為に、刑期を延長して更に3年間、あなたの弟と青い春を過ごそうとしています。せめて1度...1度でいいので私とデートをしていただけないでしょうか。
P.S 「男は短髪でしょ!」と仰っていたので、思い切って髪を切ってみました。お気に召していただけたら、これ以上の喜びはありません。
すると、少し離れた席から女子中学生2人組が近づいてきた。
「あの、すいません!東中の染谷君ですよね?」
声をかけてきた時点でこれまでの人生で1度も染谷と接点がなかったんだろうなと寺田は確信していた。
1度でも話したことがあるのなら、基本2度と話しかけてくることはないからである。
「えっと...学校に行く途中でよく染谷君のこと見かけてて。その…...」
「…良かったら!ちょっとお話しませんか!?」
染谷が話そうとするのを見て、寺田は右手の掌を染谷の前で広げた。
そして、代わりに口を開く。
「ごめんね。こいつ今ちょっと調子悪くてさ(頭の)。また今度にしてもらえるかな(にっこり)」
「え? でも…さっき大きな声で笑って__」
「ま・た・今・度・に・してもらえるかな?(にっこり)」
すると、彼女たちは気まずそうにもとの席へと戻っていった。
「…なんで追い返したんだ?」
「いや、世の中には知らない方がいいこともあるって話だよ」
寺田はストローを持ってグラスの中の氷をかき混ぜながら言った。
「後ろで待っていた子は、テラのことをチラチラ見ていたようだったが…
いいのか?はじめての彼女を作るチャンスを棒に振って」
「…美空さん以外の女なんてみんなゴキブリみたいなもんだろ」
寺田がそう吐き捨てると、染谷はソファ席にもたれかかりながら大笑いした。
「あんなゴリラを好きになるとは、お前も相当希少なやつだな!」
「唇引きちぎるぞ!…はぁ。ほら、もうそろそろ帰るぞ」
「そうだな!もうすぐ『それゆけ!じゃん・けん・ぽん!!』が始まる時間だ!」
急いで会計を済ませ、2人は店を後にした。
「あ~因みにあの番組な、3話にしてもう打ち切りらしいぞ」
「なんだと!?あれの良さが理解できないとは…まあいい!俺だけが知っていればそれで!」
そう言うと、染谷は空にむかってチョキを出した。
こうしてまだ空が茜色に染まり始めた頃、二人は帰路につくのであった。
現在ネット上で開催している小説大賞の全部門で、
同じ名前が並ぶことになったからである。
「天才現る…だな」
編集部長である権田はそうしみじみと呟いた。
「これはかなり話題になりますよ!界隈も久々に盛り上がるんじゃあないですかね!?」
栗原も興奮気味に続ける。
「でも、逆に世間から反感買うことにならないですかね?話題作りとかいって」
入社二年目のAが心配そうに呟いた。
「馬鹿野郎!それを理由に他の作品を選んじまう方がよっぽど問題だ!このご時世どこでどう漏れるかわかんね~んだぞ?それに全部門で満場一致だ!文句ね~だろうが」
「しかもまだ中3だろ!?こりゃあとんでもない金を生むぞ!」
権田はイスにもたれかかりながらご機嫌な表情を浮かべている。
「じゃあ俺、連絡してきますね!」
そう言うと、栗原はデスクを離れて廊下へと向かった。
「おう!丁重に扱うんだぞ~?100年に1度の金の卵なんだからな~!だ~はっはっはぁ!!」
突如、小説界に彗星の如く現れた天才少年。彼の書く作品は人々の心の琴線に触れ、全世界に感動の雨を降らせる。「七色の文字」を操り、後世に名を遺す偉大な小説家の物語がいま、はじま__
***
「辞退します」
「ん?あ…のぉ...えっと、すみません。今、なんと」
「辞退します。どうぞ、他の方に譲ってください。それでは、失礼します」
プツン・・・
「あ~...」
・・・
「100年に1度の金の卵……か」
「うん、よし。取り合えず今から猫カフェでみ~ちゃんに話聞いてもらお!あはははぁ~♪」
栗原の目からは……一筋の涙が流れていた。
***
「で……わざわざ応募して、わざわざ大賞とって、わざわざ辞退したと?」
「は~っはっはっは!!そうなんだよ!いやあ…実に気分がいい!!」
「聞いてる方はその限界突破した馬鹿さ加減にあてられて…吐きそうになってきたけどな」
「まあまあ、そう妬むな!ほらほら、ドリンクのお替りでも持ってくるがいい」
「ったく…全部門大賞って時点で相当珍しいことじゃね~かよ。それを、なんでまたお前は...」
「い~や!それくらいなら今後現れる可能性だってあるだろう?」
「だが、全部辞退するやつなど…おそらく現れない!」
「はぁ…賞金が1つ10万とかだろ?もったいね~な~」
「馬鹿め!だからいいんだろう?金には目もくれずに栄光を突き返す...
こんなに希少でカッコいいことはない!」
染谷 大地(そめや だいち)
こいつは俗に言う天才(バカ)というやつだった。父も母も姉もまともだが、彼は生まれる前に頭のネジを5、6本どこかに捨ててきたらしい。
あまりにも性格がかけ離れているため
「あの子に関しては生んだ覚えすらないのよね~」
なんて笑えない冗談を母親は口にしていた。
そのあまりの特異性を心配した姉がお目付け役として選んだのが、この俺、幼馴染の寺田 翔一(てらだ しょういち)。通称テラである。
姉に惚れた弱みから、俺は小、中、そしてこれから進む高校でもこの男と一緒にいなければならなかった。
「大地よ…頼むから高校では大人しくしててくれよな」
「無理だな!俺はどこへ行っても結局目立ってしまう!」
染谷の大きな笑い声は店内に響き渡っていた。
前略:染谷 美空(そめや みそら)様
私はあなたの為に、刑期を延長して更に3年間、あなたの弟と青い春を過ごそうとしています。せめて1度...1度でいいので私とデートをしていただけないでしょうか。
P.S 「男は短髪でしょ!」と仰っていたので、思い切って髪を切ってみました。お気に召していただけたら、これ以上の喜びはありません。
すると、少し離れた席から女子中学生2人組が近づいてきた。
「あの、すいません!東中の染谷君ですよね?」
声をかけてきた時点でこれまでの人生で1度も染谷と接点がなかったんだろうなと寺田は確信していた。
1度でも話したことがあるのなら、基本2度と話しかけてくることはないからである。
「えっと...学校に行く途中でよく染谷君のこと見かけてて。その…...」
「…良かったら!ちょっとお話しませんか!?」
染谷が話そうとするのを見て、寺田は右手の掌を染谷の前で広げた。
そして、代わりに口を開く。
「ごめんね。こいつ今ちょっと調子悪くてさ(頭の)。また今度にしてもらえるかな(にっこり)」
「え? でも…さっき大きな声で笑って__」
「ま・た・今・度・に・してもらえるかな?(にっこり)」
すると、彼女たちは気まずそうにもとの席へと戻っていった。
「…なんで追い返したんだ?」
「いや、世の中には知らない方がいいこともあるって話だよ」
寺田はストローを持ってグラスの中の氷をかき混ぜながら言った。
「後ろで待っていた子は、テラのことをチラチラ見ていたようだったが…
いいのか?はじめての彼女を作るチャンスを棒に振って」
「…美空さん以外の女なんてみんなゴキブリみたいなもんだろ」
寺田がそう吐き捨てると、染谷はソファ席にもたれかかりながら大笑いした。
「あんなゴリラを好きになるとは、お前も相当希少なやつだな!」
「唇引きちぎるぞ!…はぁ。ほら、もうそろそろ帰るぞ」
「そうだな!もうすぐ『それゆけ!じゃん・けん・ぽん!!』が始まる時間だ!」
急いで会計を済ませ、2人は店を後にした。
「あ~因みにあの番組な、3話にしてもう打ち切りらしいぞ」
「なんだと!?あれの良さが理解できないとは…まあいい!俺だけが知っていればそれで!」
そう言うと、染谷は空にむかってチョキを出した。
こうしてまだ空が茜色に染まり始めた頃、二人は帰路につくのであった。
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