セ・パ・タ・!

日並うたたね

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第1章

第5話 二面性の男と道場破り

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ざわざわざわっ……。

自己紹介を終えた翌日。
校門前は、さながらお祭り騒ぎだった。

「バスケットボール部でーす! 初心者も大歓迎でーす!!」

「野球に興味ある人ー! 坊主禁止だからオシャレも楽しめるよー!!」

「1年生のみんな!! 一緒に空手で魂を燃やし尽くそう!!」

在校生たちが、登校してくる新入生たちに向けて、声を張り上げている。
各部活の勧誘合戦が、まさに火蓋を切った瞬間だった。

「お~、すげー盛り上がってんな……」

寺田は人だかりを眺めながら、ふと視線の先で見慣れた女子二人を見つける。

「あれ? あそこにいるのって……坂下さんと、西園寺さんだっけか?」



「坂下 泉さん! わたくし、剣道部に入りますわ! そして……必ず全国へ行ってみせます!」

「全国……すごいね、西園寺さん。志が高いのね」

「当然! わたくしは、いずれ父の会社を継ぐ身! それくらいのこと、造作もないことですわ!」
「つきましては坂下 泉さん! どちらが先に全国へ行けるか……勝負なさい!」

「えーっと……私、部活に入るつもりはなくて」

「なんですって!? じゃあ……まずはわたくしの1勝ね! オーホッホッホ!」

そう言って、西園寺はご機嫌な表情で校舎へと去っていった。



(西園寺さんって、ああいうキャラだったのか……)

「そうだ、キャラって言えばお前、昨日__」

寺田がそう言いかけたとき、ユニフォーム姿の男子生徒が染谷に声をかけてきた。

「君、なかなか背が高いね! なにかスポーツやってた? バレー部に興味はないかな?」

染谷は一瞬、何かを考えるように視線を落とすと____

「すみません。僕、今まで部活に入ったことはないんですが……高校生活ではなにか始めたいなって、色々考えてる途中なんです。もし良ければパンフレットを1枚いただけますか?」

礼儀正しく答えると、男子生徒は満足そうにパンフレットを渡し、笑顔で去っていった。

「おい……」

「ん? どうした?」

「お前、いつから“僕”とか言うようになったんだよ?」

寺田は“じと~”っとした目で染谷を見つめる。

「正直、マジで怖いんだが」

染谷はうつむいたまま、肩を震わせて笑い出す。

「ふっふっふ……二面性だ」

「はあ?」

「二面性だよ。この学校では、俺の“新しい一面”を披露していこうと思ってな」

「……いや、怖っ。ってか! お前の急なキャラ変のせいで俺は昨日__」

と言いかけたところで、寺田はふと気づいた。

(……待てよ。もし、こいつがこのキャラでいくんなら……)

寺田の脳裏に、ある“伝説”がよみがえる。



【伝説その1:道場破り事件】

中学に入学してすぐ、染谷は体育の授業でそのずば抜けた身体能力を見せつけ、瞬く間に話題の的となる。
さまざまな部活からスカウトされ、体験入部を渡り歩いたが、そこで__先輩たちを片っ端から圧倒してしまった。

さらに、すべての入部を断った結果、全スポーツ部の先輩たちからやっかみを買うことに。

極めつけは、サッカー部の部室入口に立てかけてあった木札を、靴のままうっかり踏んで真っ二つにしてしまう。

それ以来、この出来事は「道場破り事件」として語り継がれることとなった。



(あのときは、隣にいた俺もとばっちりで呼び出しくらったし……。でも、今の“僕”キャラでいくなら、平和な学校生活が送れるんじゃないか?)

 「大地……」

「なんだ、テラ?」

「俺は……お前の高校生活を、全力で応援するからな♪」

寺田は満面の笑みで親指を立てた。

その直後。道着姿の男子生徒が、寺田に向かって駆け寄ってきた。

「君! 線は細いが良い筋肉をしている! 空手部で一緒に汗を流さないか!?」

「え? 俺っスか!?」

寺田はちょっと大げさに身を引いて答えた。

「うむ! なにかスポーツ経験が?」

「えっと…美空さ……いや、ちょっと筋トレしてるくらいで。あと俺、美術部に入る予定なんスよ」

「そうか……残念だが仕方がない! その情熱(筋肉)、筆に乗せてキャンバスにぶちまけるといい!!」

男は爽やかに笑って去っていった。

「テラ、お前、美術部に入るのか?」

「まあな! 美空さんが“サラッと描いた絵がうまいと感動するわ”って言ってたからな!」

「……お前の脳内、完全にあのゴリラに侵食されてるな」

「うるせぇな!でも、ちゃんと描いてやんよ。バラの花とかな!」

染谷は"ふっ"と笑ったあと、ふいに真顔になる。

「それより、今日の放課後。ちょっと付き合え」

「ん? なんかあるのか?」

染谷は不敵な笑みを浮かべながら、ただ一言だけ答えた。

「生態調査だ」

(……大地、お前……大人しくするんだよな?)

寺田の胸には、さっき抱いた期待と、ほんの少しの不安が入り混じっていた。
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