エロ漫画家(受け)

なエタそ

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エロ漫画家(受け)

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 同人活動をしていた時は、壁サークルになるほど人気があったのに、商業作家になった途端、ファンが離れた。
 それまで送られてきていた「好きです」「応援しています」の明るいメッセージが、今では「抜けない」「つまらない」の酷評ばかり。
 成人男性向けの有名雑誌に掲載されるプロのエロ漫画家になったというのに、読者アンケート最下位の常連に転身とは、世の中ままならないものだ。

 だが、それでもオレはエロ漫画を描くのをやめなかった。描くのが好きだし、これしか生き方を知らない。

「でも、辛い時は辛いなぁーー……っ」
 
 感情の乗った特大のため息が出る。
 もう筆を置いてしまおうかと何度も思ったが、やはり今回も手がペンを離さなかった。
 オレは液タブに表示された吹き出しに「なぁ、オレの何がダメなん?」と手書きした。
 やるせなさを抱えている所為で、つい、弱音が出てしまったのだ。
 ヒロインの女の子が、好きな男の部屋で勇気を振り絞って「ねぇ、セックスしよ?」と誘うシーンに、場違いな汚い字。
 いつも、セリフは一番最後に入れるから、全ページ完成している下書き原稿も、他のセリフは真っさら………のはずだったのに。

『好みじゃない女、性癖じゃないエロシーンばっか描いてるからだろ』

 続きのコマ、ヒロインに迫られている男の「え、でも……」が入る予定の吹き出しに、流暢な文字が浮かんだ。

「えっ? え??」

 え、お前、そんなヤンキー1歩手前みたいなイケメンチャラ男のくせに、意外と字が上手いんだ……?

 ……じゃなくて!
 なんだこれ、返事?
 勿論、オレの使っているソフトにそんなAIは搭載されていない。

 ……じゃなくてっ、もしかしなくても今、オレ貶された!?
 オレ、自分が描いたキャラに詰られましたよね?!
 口撃戦レスバで負けるわけにはいかないと、慌てて返事を書き殴る。

『心外だな! オレは好きで描いてる!』
『セーラー服より、ブレザーの萌え袖が好きなのに? ハッ、今の格好、鏡で見てみ?』

 ぐ、ぐぬぅ……っ。
 背景にザックリ描いている全身鏡。そこに今のヒロインの姿が反射するとしたら、このコマでは……と思考を巡らせて、描き足してみる。
 紺色のセーラー服の襟。このヒロインは清楚系ビッチだからスカート丈は長くて、膝裏も隠れる。でも、今はスカートをたくし上げて誘っているから、足の露出は少し増えてハイソックスの境目が見えるはず。
 くぅっ……スカートの丈を短くしたい!

『スカートは短い方が可愛よなぁ?』
「オレの心読むのやめてもらえます?!」

 だが、スカートは短い方が圧倒的に可愛い。それは間違いない真理。
 だって、エロ漫画だし。
 正味、清楚系ビッチは「清楚」じゃなくて「ビッチ」にカテゴライズされると思っている。
 そうなるともう、ビッチならセーラー服じゃなくて、ブレザーの方が似合うだろ!
 く……っ、言われた通りに描くのは癪だから、カーディガンにしよう。

 ササッと描き直すと、次の吹き出しに新しい文字が表示された。

『おー、可愛い可愛い。やればできるじゃん。あとは、気持ち悪いくらいにお前の性癖を詰め込めよ』

 褒められた。
 久しぶりに褒められた、嬉しい。
 ……じゃない!

『もう詰め込んでる。エロは全部好き。エッチなの、良いと思います』

 そう返事を書き込んだら、ヒロインの可愛さに頬を赤くする男のコマが、呆れた表情をする男のコマに変わった。
 やめろよ。ヒロインにもオレにも、可哀想な目を向けるな。

『……なら、実体験だな。実体験は強いぞ、説得力がある』
『実体験なんてあるわけねーだろ。店でしか経験ねーわ』

 素人童貞でごめんなさーい。
 エロ漫画家のくせに、性体験が乏しくてすみませーん。
 そんなオレの投げやりな心が原稿に反映されたのか、ヒロインも不貞腐れて頬を膨らませる姿に変わった。
 けれど、男はニヤリと口角を上げると、次のコマでは予定通りのセリフを言った。

『じゃあ、セックスしようか』
「……は?」

 突然、液タブから人の手が伸び出てきて、オレの手を掴んだ。
 強烈な光とともに液タブの中へと吸い込まれてしまったオレは、気付いた時には見覚えのあるの中に立っていた。
 つい先ほどまで液タブに表示されていた原稿、イケメンチャラ男の自室だ。

 訳がわからず混乱した。
 半身が妙にスースーするのが気になって視線を落とす。
 すると、そこにはオレが「癪だから」と描き変えたばかりの白色カーディガンと、太ももを大胆に晒した短い紺無地のスカートがあった。
 
「な……っ、なんだこれ!?」
 
 慌てて自分の体を触る。胸は平坦だし、喉仏もある。顔だっていつものアラサー男のままだ。
 なのに、これは明らかに「ヒロイン」の立ち位置。
 げに恐ろしきかな。本物のイケメンを前にしたエロ漫画ヒロインのオレは、この異常事態の最中、勃起して短いスカートを押し上げていた。
 
「ハハッ、やる気満々でいいね。やっぱ今の方が可愛いよ。すごく唆る」
 
 目の前のイケメン……俺が産み出したはずのキャラクターは、意地悪く目を細めて、オレの股間を指先で弾いた。
 
「あっ……!?」
「似合ってるじゃん、短いスカート。こんなにビンビンにして……。本当はこういうこと、されたかったんだろ?」
「ちが、これは……っ!」
「よかったな。俺と最高の『初めて』を経験できるぞ」
 
 そこからは、まさに「説得力のある実体験」だった。
 オレが今までエロいと思っていた描写など、本物の快楽と比べたら児戯に等しい。
 悔しいけれど、オレの漫画は所詮、素人童貞の妄想だったのだ。
 指が、舌が、オレの身体を容赦なく暴いていく。彼はオレが描こうとした以上にエロく、AV監督も顔負けの魅せ方を理解していた。
 こんな展開じゃなかった。こんなストーリー、オレは知らない。

「自分の感じてる姿、しっかり覚えて?」
「ぅ゛、……ぁ……ッ、アッ……!」

 スカートを捲り上げられ、性器をいいようにされる。後孔をぐずぐずに解されて、初めての余韻も程々に、深い抽挿をじっくりと繰り返された。
 セックスが上手いイケメンって、もうチートだろ。「オレって後ろの才能あったんだ」と錯覚してしまうくらい、オレは与えられる快感に酔った。
 そんなあられもない自分の姿を、鏡の前に立たされて見せつけられるのだから、もう頭も体もオーバーヒート寸前。
 けれど、そこには痴態をさらすオレに興奮している彼の様子も鮮明に写っていて、それがオレを余計におかしくさせるのだ。
 まるで、愛されているかのような。

「俺のことも覚えてくれる?」
「ンッ、ぅん゛っ、覚えた、忘れないからっ……」
 
 いや、こんな経験をさせられて、忘れる方が無理だろう。
 今すぐエロ漫画に描き起こしたいし、なんなら原稿に射精したい。今なら世界で一番エロいヤツを描ける自信がある。
 断片的にそう伝えると、男はニヤリと笑い、動きを変えた。

「ひあっ、……あああああぁぁっ!!」
 
 イかされるって、こういうことか。
 脳内が真っ白に塗り潰されるような、凄絶な絶頂。
 オレの意識は、そこでプツンと途絶えた。



 ……次に目を覚ました時、オレは自室のパソコンの前にいた。

「夢……、か……?」
 
 だが、不思議なことに原稿は完成していた。
 それはどこからどう見ても素晴らしいクオリティの男性向けエロ漫画……ではなかった。

 ヒロインが明らかに男だ。
 ふたなりや男の娘と言い張るにはデフォルメの効いた絵柄でもないし、等身も高いので男性ウケしそうもない。
 見覚えのありすぎる短いスカートと白色のカーディガンは完璧な描画をしているから、これを完成原稿として入稿できないのが、本当に惜しい。

 オレは意を決して、その漫画をBL雑誌の編集部に持ち込んだ。
 驚くべき事に、編集者は大絶賛。
 なんと即座に連載が決まり、オレの漫画はアンケート1位の常連になった。

 数ヶ月後。
 店頭に並んだ自分の本を、オレは複雑な心境で眺めていた。
 表紙の攻め男は、オレに初めての経験を刻み込んだイケメンだ。

 ふと、目が合う。
 男はオレを見ると、ニヤリと口角を上げた。
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