砂の塔

ぱんぶどう

文字の大きさ
1 / 5

しおりを挟む
 乾いた風が砂漠に吹き荒れている。
 周りの土地と比べると肥沃な土地と言えどもやはり乾季の砂漠は人にとって厳しい。ここ数年は年を重ねるにつれて特に厳しさを増している。今年はオアシスの水は例年より少なく、それに比例して作物も不作となった。これはこの土地のみの問題ではないようである。
 昨夜、ニムロドが帰って来た。彼の話によると東のシュメールも南のエジプトも続く日照りと乾いた東風によって飢饉が続いていた。
「奴らはじきにここを攻めるつもりだ。」ニムロドが言った。
「ギルガメッシュは聡明な男だ。飢饉が国を襲う前からある程度の備蓄をしていた。しかしここ数年でそれも尽きようとしている。奴らは新たなる食料の確保と、民に溜まった不満を同時に解消することを考えている。そこで俺たちの土地に目をつけた。この砂漠の中で中規模のオアシスを持ち、なおかつ兵力差的に敗北する心配も少ない。奴らは馬とらくだを集めてここいらの土地に詳しい人間を探していた。俺たちは選ばなければならない。逃げるか戦うか。」
「逃げるとて当てはあるのか。」長老の一人が言った。
「無い。それによくも無い。飢饉は砂漠を覆っている。ここから出てここ以上の土地を手にできるかの保証はない。そうなれば今度こそ俺たちは飢え死ぬしかない。」
「戦うしかないのか。」
「さもなくば全員死ぬかだ。」
動きのない水面に水滴を落とした時に起きる波紋のように素早くざわつきが広がった。それぞれがそれぞれの気持ちやら理論やらを出し合っている。
「煮え切らない爺さんどもだな!」状態を破ったのはニムロドだった。
「いいか。あんたらがここでああだこうだ議論して事態が好転したことなどあったか。いつでもだ!あんたらはいつでも座りながらできもしない、起こりもしない机上の空論を言い合ってるだけで何もしようとしない!ギルガメッシュが彼の土地で民になんと言われているか知っているか。神の子ネフィリムだ!奴は議論ではなく実力で王となった!実力で民の信頼を勝ち取った!それに比べてみろ!今のあんたらはなんだ!これじゃ戦う前から決まっているようなものだ!」
「ニムロド!」一人の長老が激昂して立ち上がった。
「今の発言は主への冒涜ともとれるぞ!取り消せ!」
「違う。」ニムロドは落ち着いた口調で言った。
「先祖ノアに誓おう。断じて主への冒涜ではないと。ただあなたたちのやり取りを見ていて少し苛ついただけだ。向こうがいつ攻めてくるかわからず、尻に火がついたような状況なのに一向に進まない議論でいたずらに時間を浪費していることに。昔からそうだった。俺たちの世代がこの地を出て行き異し神あだ がみの地へ行ってしまった時もあんたらは議論ばかりで追いかけることもしなかった。今ならわかる。追いかけて行ってもそれは解決し得なかったであろうしもしかしたら危害を加えられる可能性すらあっただろう。しかしまだ幼かった俺にはあんたらがのろまなだけに見えたんだ。だからつい熱くなってしまった。この土地は他の奴らには渡さない。偉大なる先祖とその主なる神に誓って。」
少しの間静まり返った。水面をつついたのは一番奥に座っていた長老であった。
「戦うしかないのか」その目には悲哀が見てとれる。
「祈ろう」ニムロドが狩って来た鹿を二つに割いた。
「敵の運命を、主が我らの手に渡されることを。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...