砂の塔

ぱんぶどう

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 青草の原に山羊の群れがいる。母山羊は草を食み、子山羊らは寝転び、遊んでいる。山羊飼いらはそれを眺め見守っている。飢饉は去り戦争は終わった。
 シュメールの民たちににとって砂漠での戦闘は困難を極めた。兵力差は向こうに分があったものの地の利は揺るがなかった。彼らの馬や、火や、弓矢も私たちの元に届くことはなかった。一度の撃退で彼らは二度と攻めてこなかった。
「口減らしの意味もあったんだろう。」ニムロドは言った。シュメールとの戦争が終わり少し経つと飢饉も終わった。
 ニムロドは英雄となった。彼の勇猛な戦い振りと冷静な判断力は彼本来の姿である狩人と呼ぶにふさわしかった。彼の姿を見たシュメールの兵は逃げ出し、さらに同胞の中でギルガメッシュの土地や、ファラオの土地に移住していたものたちもその噂を聞きつけてこの地に帰ってくるものすらいた。若者を中心として彼は指導者となり、民もそれを望んだ。
 「塔を建てよう」彼が言った。彼が先導して集落は他の土地からの帰還者らの繋がりにより多くの異邦人が訪れる街となり始めていた。
「この前のようなことがいつ起きるかわからない。この土地は二つの大国に挟まれている。他国からも見えるような高い塔を建てて我らの力を誇示しよう。さらに旅人や商人の同胞や異邦人が訪れる時の目印にもなるだろう。」反対するものはほとんどいなかった。
「どうやってそんなに高い塔を建てられるのか。」
「この前のシュメールの置き土産で我々はれんがとアスファルトを得た。帰還者の中にはこれを扱い方を知っているものもいた。これを利用すれば今までの我々のものより大きく、堅固な塔を建てることが出来るだろう。」
「うまくいくはずだ。」「これで生活がもっと良くなるはずだ。」民衆は口々に言い始めた。何よりそれを求めていた。
「すべてお前に任せるとしよう。ニムロド。」こうしてこの塔の建造は始まった。塔の建築は想像以上の重労働となった。れんがの焼き方一つとして我々は方法を知らなかったのである。そのような技術が必要とされる作業は他の土地からの帰還者を中心に進んだ。
 
 塔の建造は高くなれば高くなるほど加速的に進んだ。労働者たちが作業に慣れ始めて来たのである。ニムロドは塔を当初予定していたものよりも高くすることを決めた。この決定に長老達は懐疑的であった。というのも異し神あだ がみの土地からの帰還者と元々のこの土地のもの達との間で大小様々ないざこざがあらゆる面で増えていたからである。彼らは他の土地で異し神あだ がみを礼拝し、祀ることで受け入れられたもの達でありこの土地にもその習慣を持ち込んでいた。そのため彼らと我々は多くの部分で対立した。彼らは私たちが信じる主なる神を他の土地の神々のうちの一つと同一視しようとしていたのだ。ニムロドはその問題に対し沈黙をしていた。
「塔とはそんなに大切かニムロド。」ある長老らが彼の元を訪れて言った。
「確かに塔によってこの土地は栄えた。多くの者達が他の土地から帰還し、訪れる異邦人も多くなった。それに伴い多くの新しい技術も入って来た。おそらくますます増えるのであろう。生活は確かに豊かになった。しかし私たちは混乱の中に落とされてしまった気分だ。私たちがそれまで大切にしてきたもの、主の民であること。つまりアダムの息子でありエバの娘であること、そしてノアの子孫であること。ところが今やそれすら揺らいでしまっている。そして民がひとつとなれずにいる。私は心配でならない。このまま我々は離れ離れの散り散りになってしまうのではないのかと。」
「時代がそれを望むならそれも仕方がないのかもしれん。」ニムロドはどこか遠くを眺め振り向かないで言った。
「思い上がるな!」長老の一人が言った。
「新しくこの土地に入って来たもの達がお前のことをなんと言っているのか知っているのか!私は知っているぞ!英雄、指導者、偉大な王、神の子ネフィリム!そうネフィリムだ!他の王達と同様に!お前のことを!確かにお前は特別に優れている。指導者として、狩人として!しかしお前は人の子だ!人間だ!そうだろう?いくら優れていようが人が神になることが出来るか!」ニムロドは何も言わなかった。ただただ遠くを見つめているようだった。
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