ビッチな魔女と天使な王子・その逆転

柿崎まつる

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第一部

10.魔女、国王さまに監禁される①

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「泣くほど、よかったのか」

 過ぎた快楽に頭までマヒして、返事ができない。身体を動かすことも出来ず、ウルリッヒがタオルで自分の頬を拭いてくれるままに身をゆだねていた。茫然と天井を見上げながら、自分は泣いていたのか、とつらつら考えるイルヴァである。
 しかし、ウルリッヒは誤解したのか、明後日の方向をむいた。

「俺は死ぬほど、よかった」

 ストレートすぎる告白に、まじまじと国王の顔を見返してしまった。相手は耳まで真っ赤にして、彼女を腕のなかに収める。イルヴァは、頭の上まで布団に覆われた。

「ちょ……」

 愛用しているコロンなのか、太く筋肉質な腕とともに柑橘系のいい香りに包まれる。

「この二日、ろくに寝てないんだ。朝まで休む」
 
 そう言い切ったかと思えば、すぐに規則的な寝息が聞こえてきた。上下する胸の膨らみが顔に伝わり、彼女の頬が上気する。

 そういえば、どうやってイルヴァの居所を突き止めたのだろう。しかも、駆け付ける前からラウラがイルヴァだと確信し、村で人柱の儀式が起きていることも把握していた。そんなことができるのは、ヒトならざる者だけ。ほかの魔女の介入があったことは間違いない。

――誰が? 

 それを問い詰めようにも、彼はすでに夢のなかだ。月明りしかない部屋で見る寝顔は、昔とあまり変わっていないような気がした。

「……助けてくれて、ありがとう」

 すると、眠っていたはずのウルリッヒが、わずかに目を開ける。慌てて身を引こうとするイルヴァを強く抱きしめてきた。

「間に合うか合わないか、ギリギリのところだった。生きているあなたを抱けて、嬉しい」
 
 飾り気のない言葉で魔女を動揺させて、すぐに眠りの世界に堕ちていく。身動きの取れない彼女は、男の鼓動に耳を澄ませる。

――温かい。

 今だけ。今だけは、ウルリッヒのぬくもりを感じることを自分に許してあげよう。

 二十年前、少年の彼に恋をしたことに気付いて、脱兎のごとく逃げ出した。引き返せないほどウルリッヒにのめり込んだら、イルヴァはバカな決断を下してしまうかもしれないから。だが、結局離れても忘れられなかった。気づけば魔力は枯渇し、今度は非力な女ゆえの恐怖から気軽に男を誘えなくなってしまった。よくも知らない相手と体を近づけて、暴力を振るわれ殺されないとは限らない。『晩餐』は絶対的優位な立場にある魔女だからこそ、なしえるのだ。

 明日の朝、目が覚めたらイルヴァの魔力はきっと回復しているはず。もう人間の振りをする必要はない、新しい土地で魔女の生活を始めよう。今度こそ定期的な『晩餐』にあずかり、ウルリッヒとは会わない。
 出来るか、出来ないかではない。やるしかないのだ。

――でも、今だけは幸せに浸らせて。

 イルヴァは、いい匂いのする裸の胸に頬をすり寄せた。



 目を覚ますと、そこは見覚えのない寝台の上だった。紺色の天蓋一面に、二頭の獅子が絡み合う紋章が刺繍されている。何気なくそれを見上げていたイルヴァだが、突然ガバリと身を起こした。

――ベンノン王家の紋章!?

「目覚めたか」

 寝台に斜めに乗り上げた国王が、ほっと息を吐く。彼は紺青色の軍服を身に着けていた。

「……ウルリッヒ。ここは、王都なの?」
「そうだ。眠り続けるイルヴァを馬車で運んだ。三日も目を覚まさないから、心配したぞ」

 手を取られ、うやうやしく甲にキスをされた。長い指や肉薄の唇が熱く、意識を失うまえの情交をほうふつとさせる。イルヴァの腹の底はぞくりとした快感を拾いあげ、彼女は慌ててその手を払った。

「身体の調子はどうだ?」

 魔女の仕打ちにこたえた様子もないウルリッヒが、たずねる。

「……問題ないわ」

 気力体力ともに充実し、気分もスッキリしている。魔女は子宮に『魔女の核』という精力を魔力に変換させる装置を抱えている。三日間寝たきりだったのは、久方ぶりにその『魔女の核』を使い、身体に負荷がかかったためだろう。今は魔力もみなぎり、二十年前に戻ったようだった。

――逃げられるかも。
 
 ご丁寧に身体を締め付けない夜着を着せられている。今のイルヴァなら苦も無く、かつての住処である王家の狩猟場まで瞬間移動できるはず。ためらう暇はなかった。

「え……?」

 虚空から出現させた杖をふるっても、魔法が発動しない。ウルリッヒを見れば、涼しい笑みをたたえていた。

「逃げる気力があるなら、身体は大丈夫そうだな」

 その余裕のある顔! 
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