10 / 29
第一部
10.魔女、国王さまに監禁される①
しおりを挟む
「泣くほど、よかったのか」
過ぎた快楽に頭までマヒして、返事ができない。身体を動かすことも出来ず、ウルリッヒがタオルで自分の頬を拭いてくれるままに身をゆだねていた。茫然と天井を見上げながら、自分は泣いていたのか、とつらつら考えるイルヴァである。
しかし、ウルリッヒは誤解したのか、明後日の方向をむいた。
「俺は死ぬほど、よかった」
ストレートすぎる告白に、まじまじと国王の顔を見返してしまった。相手は耳まで真っ赤にして、彼女を腕のなかに収める。イルヴァは、頭の上まで布団に覆われた。
「ちょ……」
愛用しているコロンなのか、太く筋肉質な腕とともに柑橘系のいい香りに包まれる。
「この二日、ろくに寝てないんだ。朝まで休む」
そう言い切ったかと思えば、すぐに規則的な寝息が聞こえてきた。上下する胸の膨らみが顔に伝わり、彼女の頬が上気する。
そういえば、どうやってイルヴァの居所を突き止めたのだろう。しかも、駆け付ける前からラウラがイルヴァだと確信し、村で人柱の儀式が起きていることも把握していた。そんなことができるのは、ヒトならざる者だけ。ほかの魔女の介入があったことは間違いない。
――誰が?
それを問い詰めようにも、彼はすでに夢のなかだ。月明りしかない部屋で見る寝顔は、昔とあまり変わっていないような気がした。
「……助けてくれて、ありがとう」
すると、眠っていたはずのウルリッヒが、わずかに目を開ける。慌てて身を引こうとするイルヴァを強く抱きしめてきた。
「間に合うか合わないか、ギリギリのところだった。生きているあなたを抱けて、嬉しい」
飾り気のない言葉で魔女を動揺させて、すぐに眠りの世界に堕ちていく。身動きの取れない彼女は、男の鼓動に耳を澄ませる。
――温かい。
今だけ。今だけは、ウルリッヒのぬくもりを感じることを自分に許してあげよう。
二十年前、少年の彼に恋をしたことに気付いて、脱兎のごとく逃げ出した。引き返せないほどウルリッヒにのめり込んだら、イルヴァはバカな決断を下してしまうかもしれないから。だが、結局離れても忘れられなかった。気づけば魔力は枯渇し、今度は非力な女ゆえの恐怖から気軽に男を誘えなくなってしまった。よくも知らない相手と体を近づけて、暴力を振るわれ殺されないとは限らない。『晩餐』は絶対的優位な立場にある魔女だからこそ、なしえるのだ。
明日の朝、目が覚めたらイルヴァの魔力はきっと回復しているはず。もう人間の振りをする必要はない、新しい土地で魔女の生活を始めよう。今度こそ定期的な『晩餐』にあずかり、ウルリッヒとは会わない。
出来るか、出来ないかではない。やるしかないのだ。
――でも、今だけは幸せに浸らせて。
イルヴァは、いい匂いのする裸の胸に頬をすり寄せた。
*
目を覚ますと、そこは見覚えのない寝台の上だった。紺色の天蓋一面に、二頭の獅子が絡み合う紋章が刺繍されている。何気なくそれを見上げていたイルヴァだが、突然ガバリと身を起こした。
――ベンノン王家の紋章!?
「目覚めたか」
寝台に斜めに乗り上げた国王が、ほっと息を吐く。彼は紺青色の軍服を身に着けていた。
「……ウルリッヒ。ここは、王都なの?」
「そうだ。眠り続けるイルヴァを馬車で運んだ。三日も目を覚まさないから、心配したぞ」
手を取られ、うやうやしく甲にキスをされた。長い指や肉薄の唇が熱く、意識を失うまえの情交をほうふつとさせる。イルヴァの腹の底はぞくりとした快感を拾いあげ、彼女は慌ててその手を払った。
「身体の調子はどうだ?」
魔女の仕打ちにこたえた様子もないウルリッヒが、たずねる。
「……問題ないわ」
気力体力ともに充実し、気分もスッキリしている。魔女は子宮に『魔女の核』という精力を魔力に変換させる装置を抱えている。三日間寝たきりだったのは、久方ぶりにその『魔女の核』を使い、身体に負荷がかかったためだろう。今は魔力もみなぎり、二十年前に戻ったようだった。
――逃げられるかも。
ご丁寧に身体を締め付けない夜着を着せられている。今のイルヴァなら苦も無く、かつての住処である王家の狩猟場まで瞬間移動できるはず。ためらう暇はなかった。
「え……?」
虚空から出現させた杖をふるっても、魔法が発動しない。ウルリッヒを見れば、涼しい笑みをたたえていた。
「逃げる気力があるなら、身体は大丈夫そうだな」
その余裕のある顔!
過ぎた快楽に頭までマヒして、返事ができない。身体を動かすことも出来ず、ウルリッヒがタオルで自分の頬を拭いてくれるままに身をゆだねていた。茫然と天井を見上げながら、自分は泣いていたのか、とつらつら考えるイルヴァである。
しかし、ウルリッヒは誤解したのか、明後日の方向をむいた。
「俺は死ぬほど、よかった」
ストレートすぎる告白に、まじまじと国王の顔を見返してしまった。相手は耳まで真っ赤にして、彼女を腕のなかに収める。イルヴァは、頭の上まで布団に覆われた。
「ちょ……」
愛用しているコロンなのか、太く筋肉質な腕とともに柑橘系のいい香りに包まれる。
「この二日、ろくに寝てないんだ。朝まで休む」
そう言い切ったかと思えば、すぐに規則的な寝息が聞こえてきた。上下する胸の膨らみが顔に伝わり、彼女の頬が上気する。
そういえば、どうやってイルヴァの居所を突き止めたのだろう。しかも、駆け付ける前からラウラがイルヴァだと確信し、村で人柱の儀式が起きていることも把握していた。そんなことができるのは、ヒトならざる者だけ。ほかの魔女の介入があったことは間違いない。
――誰が?
それを問い詰めようにも、彼はすでに夢のなかだ。月明りしかない部屋で見る寝顔は、昔とあまり変わっていないような気がした。
「……助けてくれて、ありがとう」
すると、眠っていたはずのウルリッヒが、わずかに目を開ける。慌てて身を引こうとするイルヴァを強く抱きしめてきた。
「間に合うか合わないか、ギリギリのところだった。生きているあなたを抱けて、嬉しい」
飾り気のない言葉で魔女を動揺させて、すぐに眠りの世界に堕ちていく。身動きの取れない彼女は、男の鼓動に耳を澄ませる。
――温かい。
今だけ。今だけは、ウルリッヒのぬくもりを感じることを自分に許してあげよう。
二十年前、少年の彼に恋をしたことに気付いて、脱兎のごとく逃げ出した。引き返せないほどウルリッヒにのめり込んだら、イルヴァはバカな決断を下してしまうかもしれないから。だが、結局離れても忘れられなかった。気づけば魔力は枯渇し、今度は非力な女ゆえの恐怖から気軽に男を誘えなくなってしまった。よくも知らない相手と体を近づけて、暴力を振るわれ殺されないとは限らない。『晩餐』は絶対的優位な立場にある魔女だからこそ、なしえるのだ。
明日の朝、目が覚めたらイルヴァの魔力はきっと回復しているはず。もう人間の振りをする必要はない、新しい土地で魔女の生活を始めよう。今度こそ定期的な『晩餐』にあずかり、ウルリッヒとは会わない。
出来るか、出来ないかではない。やるしかないのだ。
――でも、今だけは幸せに浸らせて。
イルヴァは、いい匂いのする裸の胸に頬をすり寄せた。
*
目を覚ますと、そこは見覚えのない寝台の上だった。紺色の天蓋一面に、二頭の獅子が絡み合う紋章が刺繍されている。何気なくそれを見上げていたイルヴァだが、突然ガバリと身を起こした。
――ベンノン王家の紋章!?
「目覚めたか」
寝台に斜めに乗り上げた国王が、ほっと息を吐く。彼は紺青色の軍服を身に着けていた。
「……ウルリッヒ。ここは、王都なの?」
「そうだ。眠り続けるイルヴァを馬車で運んだ。三日も目を覚まさないから、心配したぞ」
手を取られ、うやうやしく甲にキスをされた。長い指や肉薄の唇が熱く、意識を失うまえの情交をほうふつとさせる。イルヴァの腹の底はぞくりとした快感を拾いあげ、彼女は慌ててその手を払った。
「身体の調子はどうだ?」
魔女の仕打ちにこたえた様子もないウルリッヒが、たずねる。
「……問題ないわ」
気力体力ともに充実し、気分もスッキリしている。魔女は子宮に『魔女の核』という精力を魔力に変換させる装置を抱えている。三日間寝たきりだったのは、久方ぶりにその『魔女の核』を使い、身体に負荷がかかったためだろう。今は魔力もみなぎり、二十年前に戻ったようだった。
――逃げられるかも。
ご丁寧に身体を締め付けない夜着を着せられている。今のイルヴァなら苦も無く、かつての住処である王家の狩猟場まで瞬間移動できるはず。ためらう暇はなかった。
「え……?」
虚空から出現させた杖をふるっても、魔法が発動しない。ウルリッヒを見れば、涼しい笑みをたたえていた。
「逃げる気力があるなら、身体は大丈夫そうだな」
その余裕のある顔!
0
あなたにおすすめの小説
わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件
こいなだ陽日
恋愛
病んだ男を引き寄せる凶相を持って生まれてしまったメーシャ。ある日、暴漢に襲われた彼女はアルと名乗る祭司の青年に助けられる。この事件と彼の言葉をきっかけにメーシャは祭司を目指した。そうして二年後、試験に合格した彼女は実家を離れ研修生活をはじめる。しかし、そこでも彼女はやはり病んだ麗しい青年たちに淫らに愛され、二人の恋人を持つことに……。しかも、そんな中でかつての恩人アルとも予想だにせぬ再会を果たして――!?
淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる
柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった!
※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。
女公爵になるはずが、なぜこうなった?
薄荷ニキ
恋愛
「ご挨拶申し上げます。わたくしフェルマー公爵の長女、アメリアと申します」
男性優位が常識のラッセル王国で、女でありながら次期当主になる為に日々頑張るアメリア。
最近は可愛い妹カトレアを思い、彼女と王太子の仲を取り持とうと奮闘するが……
あれ? 夢に見た恋愛ゲームと何か違う?
ーーーーーーーーーーーーーー
※主人公は転生者ではありません。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。
にじくす まさしよ
恋愛
R18。合わないと思われた方はバックお願いします
結婚して3年。「子供はまだいいよね」と、夫と仲睦まじく暮らしていた。
ふたり以上の夫を持つこの国で、「愛する夫だけがいい」と、ふたり目以降の夫を持たなかった主人公。そんなある日、夫から外聞が悪いから新たな夫を迎えるよう説得され、父たちの命もあり、渋々二度目の結婚をすることに。
その3ヶ月後、一番目の夫からいきなり離婚を突きつけられ、着の身着のまま家を出された。
これは、愛する夫から裏切られ、幾ばくかの慰謝料もなく持参金も返してもらえなかった無一文ポジティブ主人公の、自由で気ままな物語。
俯瞰視点あり。
仕返しあり。シリアスはありますがヒロインが切り替えが早く前向きなので、あまり落ち込まないかと。ハッピーエンド。
ハイスペミュージシャンは女神(ミューズ)を手放さない!
汐瀬うに
恋愛
雫は失恋し、単身オーストリア旅行へ。そこで素性を隠した男:隆介と出会う。意気投合したふたりは数日を共にしたが、最終日、隆介は雫を残してひと足先にった。スマホのない雫に番号を書いたメモを残したが、それを別れの言葉だと思った雫は連絡せずに日本へ帰国。日本で再会したふたりの恋はすぐに再燃するが、そこには様々な障害が…
互いに惹かれ合う大人の溺愛×運命のラブストーリーです。
※ムーンライトノベルス・アルファポリス・Nola・Berry'scafeで同時掲載しています
聖女を解雇された私のハーレム奮闘記
小村辰馬
恋愛
聖女として召喚されて3年が経過したある日、国の邪気は根絶されたので、城から出ていくように告げられた。
ついでに新たな命として、隣国の王子の妃候補として、住み込みで入城するよう言い渡される。
元の世界へ帰ることもできず、かと言って働きたくもない。というか、王宮で散々自堕落を繰り返していたので今更働くのとか無理!
だったら入ってやろうじゃないのハーレムへ!
働くことが嫌いな怠惰な主人公が、お付きの騎士と一緒に他国の女の園で頑張ったり頑張らなかったりするお話。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる