村で慰み者にされていた私を出世した幼馴染(年下)が強奪に来る

柿崎まつる

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7.トーマス視点・下

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 濃厚な営みの余韻に満ちた寝台で、青年が口を開いた。

「ディー、痛くなかった? ごめんね。僕初めてだから、我慢できなかったんだ。君を喜ばせたかったのに」

 毛布で胸を隠すディートリンデが、イーヴォの頬に手を伸ばす。その顔には悲しみ、申し訳なさ、といったいくつもの感情が広がっていた。

「トーマスのことを気にしているの?」
「……気にならないと言えば嘘になるよ。でも」

 トーマスは聞きたくなくて、目を閉じた。くしゃくしゃと髪をかき混ぜる音がする。おそらくディートリンデがイーヴォの頭を触ったのだろう。
 
「彼は子どもよ。独りよがりで他人への労りもなくて、自分を大きく見せようと必死だったわ」
「ディー、無理に言わなくていいよ」
「ううん。最後まで言わせて。トーマスにされるのは痛くて気持ち悪くて、ずっと吐き気を我慢していたの。わたし、イーヴォに抱かれなかったらこの悦びを一生知らないままだった。ありがとう、イーヴォ。愛しているわ」

 トーマスの前で、ディートリンデがイーヴォの首に両手を絡める。白い背中から尻へと向かう稜線はなだらかで、彼女のこれからの人生を暗示しているかのようだった。
 一方、恋人を支えたまま視線をこちらに向けるイーヴォの顔には、勝ち誇った笑みが貼りつかせている。そういえば、昔はよくああいう顔で笑っていた。こちらは説明しがたい不快感に襲われて、それからまもなくイーヴォを虐めるようになったのだ。

「村長は、年貢の一部を着服していたんだ。余罪もある。だから、きっとトーマスが村長になる日は来ないよ」
「そう、良かったわ。これから、良い村になるわね」
 
 恋人たちは、またキスを交わす。
 イーヴォはトーマスに完全なる引導を渡すため、わざとディートリンデをトーマスの話題に導いたのだ。彼女の前では人畜無害に振る舞っているが、実際は人の皮を被った獣だ。トーマスは抗議の声を上げようとしたが、うめき声が漏れるだけだった。

* 

 ディートリンデが完全に寝入ってから、イーヴォはトーマスのいる小部屋を開けに来た。猿轡は涎と涙に塗れ、ズボンは小便と精液でドロドロに汚れている。

「汚いね、そのうえ臭くてたまらない。君にお似合いだよ」
「うっせぇな……っ! この露出狂が!」

 冷笑するイーヴォは、大柄なトーマスの襟を掴んで階段を降り、いとも簡単に外へ引きずり出す。冷たい夜の空気がトーマスのズボンの染みを意識させられた。

「い……いてぇよ、離せ……っ!」
「体力精力あり余っているんだ。小さな村でか弱き者を虐める暇があるなら、腰の代わりにつるはしを振るうがいいよ」
「おまえ、いい気になってんじゃねぇぞ! いつか痛い目に遭わせてやるからな!」
 
 すると、イーヴォの背後に控えていた巌のような軍人が声を上げる。
 
「貴様! 一介の村民が、アルムスター少佐になんという口の効きようだ! 不敬だぞ!」
「アルムスターしょうさ……?」

 戦争の英雄の名を挙げられて、トーマスはぽかんと口を開けた。アルムスター少佐は今でこそ実力を認められて貴族の養子となったが、もともとはトーマスたちと同じ下級階級の出身だとか。彼は生まれに関わらず実力で道を拓いた、庶民の星だった。悪魔のような戦術で敵を追い込み、味方の損失を最小限に抑える。戦術の素晴らしさは多く聞くが、人柄や外見については聞いたことがなかった。

 ――イーヴォが、アルムスター少佐?

 彼が頭の良さから出世したとしても、尉官レベルだと思っていた。それでも、その年齢にしては昇進しすぎなくらいだ。予想もつかない展開にトーマスはしばし言葉を失う。だが、イーヴォ自身は煩わしそうに瞳を細めた。

「そんなことはどうでもいいさ。全部、ディーのお父さんに認められたくてやってきたことだし」
 
 イーヴォの声は、この夜を凍り付かせるほどの冷気を纏っていた。トーマスはここに来て初めて、自分がどんな人間に喧嘩を売ったのかを知って冷や汗が垂れる。決して関わるべきではなかった。
 恐怖の最中蹄鉄音に頭を上げれば、窓に格子のハマった二頭立て馬車が視界に入る。トーマスは目にするのは初めてだが聞いたことがある。罪人を鉱山まで運ぶ馬車だ。作業員は毎日のように命を落として常に欠員、刑務所代わりに鉱山が使われている。
 トーマスの命は、風前の灯火だった。考える間もなく、イーヴォのまえで額づく。

「頼むから鉱山に送らないでくれっ! おまえの女に手を付けたことは謝る! 父親を殺したことも謝る! 一生かけて償う! だから命は助けてくれ……っ!」
「奪われたのが、むしろ君で良かったよ。おかげで簡単にディーを取り戻せた」

 おまえはディートリンデを奪っただけで、手に入れたわけじゃない。そう言われた気がする。恐る恐る顔を上げれば、満月を背後にイーヴォが笑っていた。その顔は見惚れるほど秀麗でありながら、今すぐにも逃げ出したい気持ちにさせられる。

「だから、ここでは命を奪わないであげるよ。死ぬよりひどい扱いを受けて、自分の行いを悔いるといい」

 ――ああ、悪魔の顔だ。
 
 トーマスがそう思った瞬間、視界が真っ暗になる。間髪入れず横蹴りにされ、地面へと叩きつけられた。
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