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第二十七話 あなたとは違う※
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真っ暗な家の中には暖炉の消し炭の匂いが、漂っている。意外なことに煙草の匂いは一切残っておらず、ラウリはあの時の自分のイライラまでなかったことにされてしまったのかと腹を立てた。再び暖炉に火を入れると、部屋の入り口で固まっているアンニーナのコートを無言で脱がせる。首下のボタンを外すとき、彼女はビクッと身をすくませた。
今、妻の心を支配しているのは罪悪感だろうか? それとも恐怖? いずれにしろ、気の弱いアンニーナの心中は大荒れに違いない。
「湯が沸くまで、ここに座っていろ」
ヤカンを火にかけ、自分もコートを脱ぐと暖炉の前に椅子を寄せた。薪の燃える匂いに混ざって、微かに漂う自分ではない雄の臭い。ラウリは懐からタバコを出すと、暖炉から種火をとりだした。肺にニコチンを吸い込み、天井に向かって白い煙を吐く。煙草が苦手なアンニーナは一瞬喉を詰まらせたが、じっと固まっていた。
汗で濡れた髪が外気に晒され、凍りそうなほど冷たい小さな頭。茶色い髪が前に垂れて露わとなったうなじに、ポツンポツンと赤い小花が咲く。情欲の名残が生々しく、着けた者の強い独占欲を感じた。
――他人のモノでもお構いなしだな。
ラウリは時間が経過したことで、少しずつこの事実を受け入れていた。シュッシュとヤカンが吹く音を聞きながら、他の男に抱かれた妻を洗う準備をしている。この異常な状態に知らず苦笑いすると、アンニーナが声を震わせた。
「わたし……あ……謝りませんから……っ、あなただって、ずっと浮気してたじゃないですか。わたしの気持ちも考えずに……っ」
怖くて仕方ないのか、ぎゅっと拳を握り締めている。
――どうしてやろうか。
気が済むまで怒りをぶつけたいが、そんなことをしたらこのか弱い女は死んでしまう。アンニーナの言うことはもっともで、不倫し放題の自分が妻の一度の火遊びを許さないというのもおかしな話だ。だから、まさか自分がここまで腹を立てるとは思わなかった。
「黙ってろ。いい訳ならあとで聞く」
ヤカンが沸いたのを確認して、早速バスタブに水と調和しながらお湯を流し込む。ラウリはアンニーナの腕を掴んで立たせた。
「いや……っ、離してくださいっ」
「大人しくしてろ」
狭い脱衣場に妻を荷物のように運び込むと向かい合い、当たり前のように上着の前ボタンをはずし始める。それに面食らったのは、アンニーナだった。
「や、やめてください。あなたの手をわずらわせなくても、一人で入れます」
「おまえは俺の妻だ。合意の上かそうでなかったのか、この目で確かめる必要がある」
アンニーナは涙交じりの目でキッと夫を睨みつける。
「合意の上に決まっています! あなたは不倫を許されて、わたしは許されないと言うんですか?」
「誰がおまえの不貞を咎めた? 俺がとやかく言うことじゃない」
「エサイアス様は素晴らしい方です。誠意があって紳士で、わたしを大切に扱ってくれます」
あなたとは違う。言外にそう言われラウリは鼻で笑った。彼にとって、エサイアスが素晴らしかろうがなかろうか興味はない。ただ、彼はこの状況が面白くて仕方ないのだ。王都から離れてしばらく自分の本性を忘れていたが、女を寝取るときはいつもワクワクしたものだ。妻に裏切られた怒りを、寝取り好きの本性が凌駕した瞬間だった。
「どう、大切にされたんだ?」
「どうだっていいじゃないですか、もう離してください……っ、いや……っ!」
暴れる妻の手首を束ねて、空いた手でスカートのホックをはずす。布がストンと落ちて白いシュミーズが現れた。ラウリは心弾ませながら、片手でシャツのボタンを外していく。白いシャツがスカートに重なって落ちて、彼には踏みつぶされた花のようにそれを感じた。
「やだっ、やめてください……っ」
まるで未知の女を暴いているようだった。細い両手首を持ち上げ、シュミーズをめくりあげて脱がせる。
「いや……っ、離して……っ!」
肉の薄い白い脚は頼りなくて、どんな男の手でも簡単に割り開いてしまえそうだ。仔猫のような抵抗もなんのその、ストッキングの紐をひきはがす勢いで解く。白いレースの下穿きを膝まで下げて残りは足で引き落とした。
「きゃああああ……っ!」
アンニーナは涙をこぼしながら、必死に身をよじる。そんな妻の肢体を、ラウリはまじまじと鑑賞した。乳輪の先は吸われて赤く色づき、透き通るような白い乳房全体にピンクの小花が咲いている。臍の下や脇腹、太腿や背中にも散る、男の独占欲の証。他の男に抱かれた妻の肢体は以前と違う芳香を纏っていた。
高揚した気持ちを抑えようと一旦妻の腕を離すと、アンニーナが慌てて後ろを向く。薄い背中にも散るキスマークがラウリをこれでもかと挑発していた。
「で、……出てってもらえませんか?」
「おまえが動揺して、風呂場で転ぶかもしれないだろ? しっかり監視しておかないと」
「たとえ転んでも、あなたに助けを求めたりしません」
ふーん、とラウリはニヤニヤする。アンニーナはやがて諦め、背中を丸め入浴場へと入っていった。バスタブにザブンと身を沈める音のあとに、慌ただしく髪と身体を洗い流す音が聞こえてくる。終わった頃を見計らい、ラウリは戸を開けた。
「は……入ってこないでくださいっ」
アンニーナは慌てて泡ぶくのバスタブに沈み込む。狭い浴室は湯気で多少温かくなってきていた。ラウリはタイル壁にもたれて悠々と腕を組む。
「それで、あいつは良かったか?」
「あ、あいつだなんて、エサイアス様は貴族なのに。……あの人を愛しています。彼は誠実なの」
断定的な言い方のわりに決してこちらを見ようとしない妻の様子に、ますます愉快になってきた。アンニーナはバスタブから出たがっていたが、ラウリがいるから出るに出られない。
今、妻の心を支配しているのは罪悪感だろうか? それとも恐怖? いずれにしろ、気の弱いアンニーナの心中は大荒れに違いない。
「湯が沸くまで、ここに座っていろ」
ヤカンを火にかけ、自分もコートを脱ぐと暖炉の前に椅子を寄せた。薪の燃える匂いに混ざって、微かに漂う自分ではない雄の臭い。ラウリは懐からタバコを出すと、暖炉から種火をとりだした。肺にニコチンを吸い込み、天井に向かって白い煙を吐く。煙草が苦手なアンニーナは一瞬喉を詰まらせたが、じっと固まっていた。
汗で濡れた髪が外気に晒され、凍りそうなほど冷たい小さな頭。茶色い髪が前に垂れて露わとなったうなじに、ポツンポツンと赤い小花が咲く。情欲の名残が生々しく、着けた者の強い独占欲を感じた。
――他人のモノでもお構いなしだな。
ラウリは時間が経過したことで、少しずつこの事実を受け入れていた。シュッシュとヤカンが吹く音を聞きながら、他の男に抱かれた妻を洗う準備をしている。この異常な状態に知らず苦笑いすると、アンニーナが声を震わせた。
「わたし……あ……謝りませんから……っ、あなただって、ずっと浮気してたじゃないですか。わたしの気持ちも考えずに……っ」
怖くて仕方ないのか、ぎゅっと拳を握り締めている。
――どうしてやろうか。
気が済むまで怒りをぶつけたいが、そんなことをしたらこのか弱い女は死んでしまう。アンニーナの言うことはもっともで、不倫し放題の自分が妻の一度の火遊びを許さないというのもおかしな話だ。だから、まさか自分がここまで腹を立てるとは思わなかった。
「黙ってろ。いい訳ならあとで聞く」
ヤカンが沸いたのを確認して、早速バスタブに水と調和しながらお湯を流し込む。ラウリはアンニーナの腕を掴んで立たせた。
「いや……っ、離してくださいっ」
「大人しくしてろ」
狭い脱衣場に妻を荷物のように運び込むと向かい合い、当たり前のように上着の前ボタンをはずし始める。それに面食らったのは、アンニーナだった。
「や、やめてください。あなたの手をわずらわせなくても、一人で入れます」
「おまえは俺の妻だ。合意の上かそうでなかったのか、この目で確かめる必要がある」
アンニーナは涙交じりの目でキッと夫を睨みつける。
「合意の上に決まっています! あなたは不倫を許されて、わたしは許されないと言うんですか?」
「誰がおまえの不貞を咎めた? 俺がとやかく言うことじゃない」
「エサイアス様は素晴らしい方です。誠意があって紳士で、わたしを大切に扱ってくれます」
あなたとは違う。言外にそう言われラウリは鼻で笑った。彼にとって、エサイアスが素晴らしかろうがなかろうか興味はない。ただ、彼はこの状況が面白くて仕方ないのだ。王都から離れてしばらく自分の本性を忘れていたが、女を寝取るときはいつもワクワクしたものだ。妻に裏切られた怒りを、寝取り好きの本性が凌駕した瞬間だった。
「どう、大切にされたんだ?」
「どうだっていいじゃないですか、もう離してください……っ、いや……っ!」
暴れる妻の手首を束ねて、空いた手でスカートのホックをはずす。布がストンと落ちて白いシュミーズが現れた。ラウリは心弾ませながら、片手でシャツのボタンを外していく。白いシャツがスカートに重なって落ちて、彼には踏みつぶされた花のようにそれを感じた。
「やだっ、やめてください……っ」
まるで未知の女を暴いているようだった。細い両手首を持ち上げ、シュミーズをめくりあげて脱がせる。
「いや……っ、離して……っ!」
肉の薄い白い脚は頼りなくて、どんな男の手でも簡単に割り開いてしまえそうだ。仔猫のような抵抗もなんのその、ストッキングの紐をひきはがす勢いで解く。白いレースの下穿きを膝まで下げて残りは足で引き落とした。
「きゃああああ……っ!」
アンニーナは涙をこぼしながら、必死に身をよじる。そんな妻の肢体を、ラウリはまじまじと鑑賞した。乳輪の先は吸われて赤く色づき、透き通るような白い乳房全体にピンクの小花が咲いている。臍の下や脇腹、太腿や背中にも散る、男の独占欲の証。他の男に抱かれた妻の肢体は以前と違う芳香を纏っていた。
高揚した気持ちを抑えようと一旦妻の腕を離すと、アンニーナが慌てて後ろを向く。薄い背中にも散るキスマークがラウリをこれでもかと挑発していた。
「で、……出てってもらえませんか?」
「おまえが動揺して、風呂場で転ぶかもしれないだろ? しっかり監視しておかないと」
「たとえ転んでも、あなたに助けを求めたりしません」
ふーん、とラウリはニヤニヤする。アンニーナはやがて諦め、背中を丸め入浴場へと入っていった。バスタブにザブンと身を沈める音のあとに、慌ただしく髪と身体を洗い流す音が聞こえてくる。終わった頃を見計らい、ラウリは戸を開けた。
「は……入ってこないでくださいっ」
アンニーナは慌てて泡ぶくのバスタブに沈み込む。狭い浴室は湯気で多少温かくなってきていた。ラウリはタイル壁にもたれて悠々と腕を組む。
「それで、あいつは良かったか?」
「あ、あいつだなんて、エサイアス様は貴族なのに。……あの人を愛しています。彼は誠実なの」
断定的な言い方のわりに決してこちらを見ようとしない妻の様子に、ますます愉快になってきた。アンニーナはバスタブから出たがっていたが、ラウリがいるから出るに出られない。
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