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9.生きがい
ベレンガーが言わんとするところはわかる。オリヴァも知りたい。何故、嫌がる彼を縛り付け強引に犯したのか。何故、触手にオリヴァの尻の穴を開発させ、人目にさらして恥辱を与えたのか。何故、くそ真面目で野暮ったい中年の自分をわざわざ玩具に選んだのか。
「あんたはこの城に来る前から、アクセリア様にとって特別な存在なんだ。……なんというか、あの方に気に入られてしまって気の毒としか言えないんだが」
全くその通りだ。オリヴァも無言で肯定した。ベレンガーは少しも酔っていない顔で、食卓の木目に視線を落とす。
「俺も人並みに人生経験を積んでここに戻ってきたら、ガキの頃には見えなかったことが一目でわかるようになっていた。アクセリア様にとって、従者たちはただの餌でしかないってな。だから、ありもしない寵を争って、醜い小競り合いをする若い連中を見てると哀れになる」
「そうか」
その後もベレンガーはちょくちょく部屋に来て、オリヴァの話し相手になった。アクセリアがなかなか戻ってこなかったせいもある。
ベレンガーはこの城の従者を卒業してから、大公の軍隊に入り連隊長まで上り詰めたそうだ。しかし、戦争で右目を失くしたことにより職を辞して故郷に戻り、アクセリアからこの城の管理を任されることになった。そのかたわら、ふもとの町で美しい娘と恋に落ちて所帯を持ち、二男一女の父親になる。子どもは成長し、妻は今この城の厨房を取り仕切っているそうだ。
オリヴァには、まぶしすぎる人生だ。
彼はくそ真面目だが、他の修道士たちと比べて格別信仰心が厚かったわけではなかった。ただ戒律を破ることで、自分の言葉に説得力を失うのが嫌だった。規範にならない人間には部下はついてこない。修道会という組織の中で手腕を振るうことが、オリヴァにとっての生きがいだったからだ。
時間ができると、ここを出た後のことを考えるようになった。
――新しい生きがいが欲しい。
アクセリアもいずれ無邪気な子どものように、玩具に飽きる日が来るだろう。いや、既にもう飽きている可能性もある。オリヴァは修道士を辞めた以上、世俗で生きていかねばならない。叶うなら、ベレンガーのように家族を作って、第二の人生を始めたい。抑え込んでいただけで、もともとの肉欲はある。女性全体へのわだかまりも巨根のコンプレックスも、魔女の荒行のせいで見事に霧散してしまった。
しかし、いざ女を抱ける段階になっても、自分が見知らぬ誰かの夫や父親になることが全く想像できない。頭にまだ見ぬ妻を思い描くと、アクセリアが邪魔をした。オリヴァを拘束し犯したときの恍惚とした顔が忘れられないのだ。破廉恥な淫魔でしかないのに、オリヴァを包み込む膣はまるで彼がイメージしている母親の腕のなかみたいに温かく心地よかった。
――しっかりしろ、オリヴァ。あの女は千年を生きる魔女で人間じゃないんだ。
自分が老いて死んでも、年を取らずに生き続ける相手だ。
オリヴァは、そっと窓の外をうかがう。庭に木枯らしが吹いて、茶色い葉っぱを巻き上げていた。いずれにしろ、魔女のいない城は静かだった。
*
そんなある日。
ぼんやり夕暮れの庭を眺めていたら、ベレンガーと若い従者の一人が話をしているのが見えた。気になって、少しだけ窓を開ける。
「なんだって? アクセリア様がまだ『晩餐』を召し上がらないだと?」
「そうなんです! あの修道士との『晩餐』以来、僕たちをお呼びになっていないんです。ベレンガーさんから、アクセリア様に言ってもらえないでしょうか。僕たちは、アクセリア様の身体をとても心配しています」
ベレンガーが顎に手をついて、考え込む。
「オリヴァが来て一カ月か。散々触手も操って、魔女集会にも行かれてたなぁ。うーん、だがなぁ。アクセリア様が召し上がらないと言って、俺が言ったところで聞くわけもないしな」
――なんだ、あの女。帰ってきているのか?
オリヴァは無意識に窓にかじりついて、必死に聞き耳を立てていた。
「あの修道士が来てから、アクセリア様は変わってしまったんですよ。前は僕たちにも平等に声をかけてくださったのに、今はあの修道士のことばかり。悔しいったらありゃしない。あんなマグロみたいなオッサンより、お肌すべすべで閨の技もばっちりな僕たちのほうが全然イケてるのに!」
ベレンガーの大きなため息が聞こえてくる。
「悪いことは言わない。アクセリア様の寵愛は、きれいさっぱり諦めた方がいいぞ。当面の生活は保障してやるから、他の目標を見つけろよ。お前たちなら、近隣諸国の金持ち奥様方から国家機密をせしめるぐらいの間諜にもなれるだろう。世界がおまえたちを待ってるぞ。英雄になりたくないのか。経験者から言わせてもらうが、ここで燻っているよりも絶対いいぞ」
「なんですか、それ! アクセリア様には僕たちが必要ないっていうんですか! あんな坊さんに負けるなんて! きぃー!」
ヒステリーを起こした従者をはい、はいと宥めながら、ベレンガーはその場を離れていった。
オリヴァは窓枠に手をついて、その場にうずくまる。胸の内がぐるぐるとして、不快感がぬぐえなかった。
――あいつらはわかっていない。自分は何一つ、アクセリアに気を使われてない。
あの魔女はとっくに城に戻っているのに、オリヴァを放置しているのだ。自分の貞潔も修道士としての立場も全て奪って、人生をめちゃくちゃにしたのに。
――人をこんな身体にしたくせに、飽きたから捨てるなんて外道にしかできない。最後まで面倒を見ろ!
いや、違う。オリヴァはなぜこんなに自分がイライラするのか、とっくに気づいていた。最近、触手に犯されることもなくなり、アクセリアもオリヴァに触れない。オリヴァは体の疼きが止まらないのだ。自涜で欲を排出しても全然収まらない。アクセリアが彼に触らなければ、鍛錬で身体を酷使するしかない。
オリヴァはその後、ベレンガーにダメもとで自分の槍を返してくれるよう頼んだ。一カ月、寝台に縛り付けられていたせいで、体力筋力ともに落ちている。心身ともに、早急の鍛錬が必要だった。隻眼の執事は、快く了承してくれた。聞けば、魔女から事前に許可が下りているらしい。
――なんだと。だったら、俺に直接槍を返しに来い。あの、淫乱魔女め。
それから、オリヴァは暇さえあれば、槍をふるって汗をかくようになった。
「あんたはこの城に来る前から、アクセリア様にとって特別な存在なんだ。……なんというか、あの方に気に入られてしまって気の毒としか言えないんだが」
全くその通りだ。オリヴァも無言で肯定した。ベレンガーは少しも酔っていない顔で、食卓の木目に視線を落とす。
「俺も人並みに人生経験を積んでここに戻ってきたら、ガキの頃には見えなかったことが一目でわかるようになっていた。アクセリア様にとって、従者たちはただの餌でしかないってな。だから、ありもしない寵を争って、醜い小競り合いをする若い連中を見てると哀れになる」
「そうか」
その後もベレンガーはちょくちょく部屋に来て、オリヴァの話し相手になった。アクセリアがなかなか戻ってこなかったせいもある。
ベレンガーはこの城の従者を卒業してから、大公の軍隊に入り連隊長まで上り詰めたそうだ。しかし、戦争で右目を失くしたことにより職を辞して故郷に戻り、アクセリアからこの城の管理を任されることになった。そのかたわら、ふもとの町で美しい娘と恋に落ちて所帯を持ち、二男一女の父親になる。子どもは成長し、妻は今この城の厨房を取り仕切っているそうだ。
オリヴァには、まぶしすぎる人生だ。
彼はくそ真面目だが、他の修道士たちと比べて格別信仰心が厚かったわけではなかった。ただ戒律を破ることで、自分の言葉に説得力を失うのが嫌だった。規範にならない人間には部下はついてこない。修道会という組織の中で手腕を振るうことが、オリヴァにとっての生きがいだったからだ。
時間ができると、ここを出た後のことを考えるようになった。
――新しい生きがいが欲しい。
アクセリアもいずれ無邪気な子どものように、玩具に飽きる日が来るだろう。いや、既にもう飽きている可能性もある。オリヴァは修道士を辞めた以上、世俗で生きていかねばならない。叶うなら、ベレンガーのように家族を作って、第二の人生を始めたい。抑え込んでいただけで、もともとの肉欲はある。女性全体へのわだかまりも巨根のコンプレックスも、魔女の荒行のせいで見事に霧散してしまった。
しかし、いざ女を抱ける段階になっても、自分が見知らぬ誰かの夫や父親になることが全く想像できない。頭にまだ見ぬ妻を思い描くと、アクセリアが邪魔をした。オリヴァを拘束し犯したときの恍惚とした顔が忘れられないのだ。破廉恥な淫魔でしかないのに、オリヴァを包み込む膣はまるで彼がイメージしている母親の腕のなかみたいに温かく心地よかった。
――しっかりしろ、オリヴァ。あの女は千年を生きる魔女で人間じゃないんだ。
自分が老いて死んでも、年を取らずに生き続ける相手だ。
オリヴァは、そっと窓の外をうかがう。庭に木枯らしが吹いて、茶色い葉っぱを巻き上げていた。いずれにしろ、魔女のいない城は静かだった。
*
そんなある日。
ぼんやり夕暮れの庭を眺めていたら、ベレンガーと若い従者の一人が話をしているのが見えた。気になって、少しだけ窓を開ける。
「なんだって? アクセリア様がまだ『晩餐』を召し上がらないだと?」
「そうなんです! あの修道士との『晩餐』以来、僕たちをお呼びになっていないんです。ベレンガーさんから、アクセリア様に言ってもらえないでしょうか。僕たちは、アクセリア様の身体をとても心配しています」
ベレンガーが顎に手をついて、考え込む。
「オリヴァが来て一カ月か。散々触手も操って、魔女集会にも行かれてたなぁ。うーん、だがなぁ。アクセリア様が召し上がらないと言って、俺が言ったところで聞くわけもないしな」
――なんだ、あの女。帰ってきているのか?
オリヴァは無意識に窓にかじりついて、必死に聞き耳を立てていた。
「あの修道士が来てから、アクセリア様は変わってしまったんですよ。前は僕たちにも平等に声をかけてくださったのに、今はあの修道士のことばかり。悔しいったらありゃしない。あんなマグロみたいなオッサンより、お肌すべすべで閨の技もばっちりな僕たちのほうが全然イケてるのに!」
ベレンガーの大きなため息が聞こえてくる。
「悪いことは言わない。アクセリア様の寵愛は、きれいさっぱり諦めた方がいいぞ。当面の生活は保障してやるから、他の目標を見つけろよ。お前たちなら、近隣諸国の金持ち奥様方から国家機密をせしめるぐらいの間諜にもなれるだろう。世界がおまえたちを待ってるぞ。英雄になりたくないのか。経験者から言わせてもらうが、ここで燻っているよりも絶対いいぞ」
「なんですか、それ! アクセリア様には僕たちが必要ないっていうんですか! あんな坊さんに負けるなんて! きぃー!」
ヒステリーを起こした従者をはい、はいと宥めながら、ベレンガーはその場を離れていった。
オリヴァは窓枠に手をついて、その場にうずくまる。胸の内がぐるぐるとして、不快感がぬぐえなかった。
――あいつらはわかっていない。自分は何一つ、アクセリアに気を使われてない。
あの魔女はとっくに城に戻っているのに、オリヴァを放置しているのだ。自分の貞潔も修道士としての立場も全て奪って、人生をめちゃくちゃにしたのに。
――人をこんな身体にしたくせに、飽きたから捨てるなんて外道にしかできない。最後まで面倒を見ろ!
いや、違う。オリヴァはなぜこんなに自分がイライラするのか、とっくに気づいていた。最近、触手に犯されることもなくなり、アクセリアもオリヴァに触れない。オリヴァは体の疼きが止まらないのだ。自涜で欲を排出しても全然収まらない。アクセリアが彼に触らなければ、鍛錬で身体を酷使するしかない。
オリヴァはその後、ベレンガーにダメもとで自分の槍を返してくれるよう頼んだ。一カ月、寝台に縛り付けられていたせいで、体力筋力ともに落ちている。心身ともに、早急の鍛錬が必要だった。隻眼の執事は、快く了承してくれた。聞けば、魔女から事前に許可が下りているらしい。
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