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114・感電
しおりを挟む「ーー行くよっ!」
駆け出すクリミアが靄に飛び込むと同時にギュスタンが爆破魔法を放つ!
「ーー爆破連撃ッ!!」
一拍置いてクリミアの背中に風魔法を撃ち込む予定だったジョルクは靄の異変に気が付いた。
咄嗟に魔法の着弾点をクリミアの背中から爆発の中心へと変える!
「ーーッ!? 何かヤバいッ、クリミアさん! 風撃!!」
ーードンッ! ドォーンッ!!
「きゃぁぁッ!」
途端、爆風に弾かれるよう飛ばされたクリミアが転がったーージョルクの風魔法の影響を受けたギュスタンの爆破が想定以上の爆風を発生させたのだ。
「お、おいッ大丈夫か!?」
「……いったぁ……」
軽鎧のあちこちが酷い状態になり、色んな部分が露出しているが……クリミアは何とか無事の様だ。
「ジョルクっ! 何故わざと外したッ!」
ギュスタンがジョルクの胸元に掴み掛かる! 一歩間違えればクリミアは死ぬ所だった。自らの魔法で仲間を殺すところだったギュスタンとしては怒るのは無理も無い。
「……あれ、見ろよーー」
「ふんっ! 何だと言うのだ? 何に気を取られて失敗したと?」
ーーバリバリッ! バリバリバリッ!!
振り返るギュスタンが見たのは、靄と雷球が接触する正にその瞬間であった。
ーー白い閃光と鳴り響く轟音、地面は揺れ、靄には閃光がバチバチと駆け巡る。
「あの時、ナルの雷と団長の魔法が重なったんだーーヤバいと思って咄嗟に……悪い」
「…………こ、これは」
「ーーうわ~、あのまま突っ込んでたら確実に死んでたかも……」
唖然と見守る三人の前で解放された雷龍が一頻り暴れた後、靄の中の雷光は徐々に消えてゆくーーと、同時に靄も共に薄くなっていった。
「…………相殺、されているのか?」
「う~ん? 団長の魔法があの娘と同等とは思え無いけど……」
「……じゃあ、きっと兄貴がーー」
「ふん、お前はアイツを過大評価し過ぎだ! 一体アイツを何だと思ってるんだーー」
◇
ネルビス率いる第六工兵部隊の面々は必死にビエルの魔法を食い止めていた。
経験豊富な傭兵ゾレイに防御不可能と言わしめた魔法、それを未だ防いでいるところを見るに第六工兵部隊とはかなり優秀なのであろう。
「ーーいけるぞっ! このペースを維持せよ、血を吐いても詠唱は止めるんじゃないぞ!」
しかし、何とか均衡を保っている様に見えるが新たに生成する土壁の位置がジリジリと後退しているのは工兵達が一番良くわかっている。
(ーーくっ、この人数で押し負けるとは……なんて魔力量だ!)
後、どれ程の時間持ち堪えたならこの窮地を脱する事が出来るだろう……不安と焦り、恐怖が工兵達を蝕んでゆく。
(……まだか! 我が同胞よ、急いでくれ!)
ネルビス達は本隊の到着をひたすら耐え願うしかなかった。
◇
「…………はぁはぁ、何か……靄が薄くなってきてないか?」
ほぼ無言で続く作業の中、ポツリと一人の工兵が呟いた。
「あぁ? 靄が薄く? 是非そうであってほしいもんだ……」
「いや、確かに薄まってるぞ!?」
「本当だ! これ絶対薄くなってるわ!」
まるで幽鬼の様に詠唱を唱えていた工兵達の顔がパッと明るくなる。
確かに最初の靄よりは幾分か薄まった様に見えなくも無いーーそれは目の錯覚程の小さな変化。
しかし、その些細な変化は絶望の中の工兵達にとって小さな希望となった。
「おい! 喋る余裕があるならもっと詠唱にーー」
年長の工兵が騒つく者達を嗜め様と声を上げるが、ネルビスはそれを手で制し止める。
「……いや、良いーー今が正念場だ、有りったけの魔法回復薬を準備して皆に飲ませろ」
高価な魔力回復薬は1分隊に数本しか支給されない、それでも少量ずつ回し飲めば、皆の魔力も気持ち程度には回復出来るだろう。
(今必要なのは気力、そして希望だーー)
靄が薄まったお陰で先程より数十秒程度だが余裕が出来たーーその隙を見計らい回復薬は全員に行き渡った。
「ーー魔法は直に終わる!! 諸君、此処を乗り越えれば、我々はあの『壊滅』の攻撃すらをも防ぐ工兵部隊だと讃えられるであろう! 後少しだっ!」
「「おぉっ!!」」
この戦いが終わり、無事に国へ帰れば英雄扱いだーー何せあの『壊滅』の魔法を防いだのだから。
「ーーはぁはぁ、先輩……これ防ぎ切ったらさ、俺達が生成する土壁って《鉄壁》以上になっちまうね?」
「そうだな! じゃあこれからは……ん? 鉄壁より強い壁って何だ?」
「えぇっと…………完璧?」
「へぇ? お前、学があんのなーー」
「ぜってぇ違うわ……」
心持ちでこれ程までに人は変わるのだろうかーーと言う程に、先程と打って変わって工兵達の士気は上がるーーくだらない会話が出来る程に。
しかし、そんな彼らの希望は一瞬で消える事となる。
ーーバリバリッ! バリバリバリッ!!
「はうッ!!」
「ギギギィィ!?」
「あ…ががぁ……」
ーー突如、空気を引き裂く音と共に靄に閃光が走った。
瞬間、土壁に近い前列の三人がいきなり硬直したかの様に動きを止めバタバタとその場に崩れ落ちたのだ。
「おいおい、こんな時にふざけてんじゃねぇって」
床に転がる仲間を慌てて起こそうと慌てて駆け寄った工兵達も皆、次々とその場に倒れ込んだ。
「な、何だーー一体どうしたのだ?」
一人残されたネルビスの前で、倒れ震える工兵達の身体から白い煙が立ち上がるーーそしてそれはボッという音と共に火柱へと変わった。
「…………感……電?」
阻む物が無くなった靄は燃える工兵達を飲み込み塵へと変えてゆく。指揮すべき部下が一息に消えてしまったネルビスはガックリと膝をつき天を仰ぐ。
「ーー我等はこれまでか……後は、頼んだぞ同胞ッ!」
ネルビスは永久に来る事の無い味方へと全てを託し、侵食する靄へと呑み込まれていった。
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