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勉強は出来ても

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勉強はなぜか、苦労した覚えがない加藤だったが
そのせいで、勉強ができない人々、例えば
実の兄からも敵視されたが
そもそも、それは

回りの大人が、勉強の成績を
差別の道具にしたからである。



加藤自身は、全然こだわりが無かったから

勉強のできないゆり、を
卑下したりもしなかった。



ゆりは、地図が読めない(笑)



でも、加藤は丁寧に


「地図はね、空から見たところ。

ほら、テレビでやってるでしょ?
空から日本を見てみようって」


ゆりは楽しそうに「うん、見たことあるよっ」



加藤も楽しい。


「そう。あれをね、絵にしただけなの。
向こう側を北、って決めてね。


知ってる建物とか、駅とかを見つけて
その場所に行った事あれば、その映像を
思い出すんだね」と言うと


ゆりは楽しそう。
「先生になれば良かったのに。よくわかるもの」と。



加藤も楽しい。




それと同時に思うのは
学校も、子供をイジメる機構になってしまっている。


成績で子供を差別すれば、それは
イジメの方法を教えているようなものだ。


如何なる理由があろうとも、法律で定める場合を除き
個人に力を及ぼしてはならない、と
民法にもあるではないかと加藤は
思い出す。


しかし、加藤の知る小学校にも

そういう差別があった事は記憶にある。





そんな回想に加藤が耽るのは



今、大人のはずの研究職に就いている人達が
ひどく幼く、自らが優れている事を主張
し続け


なんどかして、外部の研究員である加藤の
業績を否定しようと躍起になっている
愚かしさを目の当たりにしたから、だった。



「わたしは科学分野の担当ですので、工学の分野はお任せします。それでは」と、加藤は
下らない会議室から退室した。

仕事が嫌なら辞めればいい。

どの道、自然エネルギーが満たされれば
働く必要もないのだから。



名誉欲、なるものも
加藤には無縁のものだった。



欲が加藤にあるとすれば、それは
音楽を聴く時間を得る事、くらいだった。



音楽。


それは、ゆりと加藤の間にも流れている
共通の波長だったりもした。



ふたり、早朝のコンビニは人も少なく

BGMに、たまに流れる曲のうち
Mr.Childrenの曲を、ゆりは
楽しそうに聞いた。

それが、とても自然だったので
加藤も、彼らの曲のいくつかは
知っていたから

少し、口ずさんでみる。




「歌、上手だね」と、ゆりが言う。




ありがと、と加藤も微笑む。



ミュージシャン活動をしていた頃の
ガールフレンドのひとり、アイドルっぽい
売られかたをした女の子が、Mr.Childrenのメンバーのひとりと恋愛したりして。

それなので、加藤も少し
関わりもあったのかな、なんて
思い出したりして懐かしかった。

結局、彼女の恋は成就しなくて
加藤も心を痛めた、んだけど。


それだけに、ゆりのような女の子を見かけると
みんな幸せになってほしいと願う加藤だった。





曲が、つじあやの/パレード
に変わって


ゆりも、楽しそうに歌いだし

加藤も、この曲なら、と
ゆりのパートのハーモニーを歌った。


もちろん、加藤が親しんでいたのは
シュガーベイブの方、なんだけど。
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