科学は、如何にしてヒトを幸せにするか~ななの例~

深町珠

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耳学問

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会議を退席しようとした加藤に
若いエンジニア、太田が質問する。


「待って下さい。ドライバー要求トルクを
モデルでないと計算出来ないと思うのですが
どうして出来るのか、解りません。教えて下さい」



太田の傍らには[自動車の制御]と言う本が
置かれている。
真新しいそれを買って読んだのだろう。


元々はソーラーセルの物質研究員だった太田なので


自動車の制御は素人なのだ。



それで、本で勉強しようと言うのはいかにも
秀才型の発想。


でも、物理現象は本には表せない。

実際に起きる事、なのだから


人が本に書いた物を読んで勉強する、という
学校の勉強では絶対に研究者にはなれないーーー。





「感じ取って、イメージすればいいんだね。
アクセルを踏むのは、運転手さんが進めたいから、でしょ?
自転車だったらペダル踏む力は、足に感じる
重さとの釣り合い、それとスピード。

電気自動車だって同じだよ。アクセル踏んだら
前に進もうとする、その感じで
運転手さんがアクセル加減するのさ。

コンピュータなんかいれるとかえって乗りにくくなる。
コンピュータの計算が、ドライバの要求と
異なるからさ。

ほら、お母さんがご飯食べる時とかに
それじゃこぼすわよ、とか
もっと前に出てたべなさい、とか
見当違いの事を言うでしょ?(笑)あれと
同じだよ。

アクセルと電力はリニアな関係でいいのさ。
過大な加速にならない電力なら」


加藤は思う。


がり勉して大学に入っても、母親の影響から
抜け出せずに
自分で新しい事を考えられない。


ハイブリットカーの制御を本で見て

電気自動車がそれと同じだ、と考える。



ハイブリットカーが、ドライバ要求トルクを
計算するのは
エンジンとモータの協調制御の為なのだ。


それぞれの動力と、変速機、発電機を
制御する為に必要なので


ただの電気自動車なら、抵抗ひとつでも
済んでしまうのは


ラジコンの玩具で遊んだ経験が
幼い頃にあれば
解る事、だが(笑)。




そういう経験をしたことがなくて
親に強要されて勉強させられた
かわいそうな若者は


大学に残れず、民間研究所に来て
劣等感に苛まされて嫌々仕事をしている。



誰が悪いのか?



とも言えないが



親に服従させられるのも悪いだろうし
勉強で人を見下す快感に酔っていた自分が
悪いのだろう。






そういう人ばかりになって
費用が嵩むので

この研究所は、外部の研究者を
正規雇用する事にしたのだった。





加藤は、そのまま退席した。


会議室から廊下を通り、エレベーターに向かう。


この研究所にもいろいろな思い出があるな、と
加藤は懐かしく回想した。


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