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深町珠

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遠い世界に

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詩織は、気づく。
「お嫁さんに来るから、外から来たのね。」


珠乃家

|<-曽祖母

|<-祖母

|<-母

と言う事だから、別世界から来ても判らない。

まあ、別世界から来れば・・・・。

「今、調べてるように、放射線被曝量等で判るのね。」


「男の子が生まれると、家系を継ぐのね。宮家みたいに。」


面白い風習だ、と思う。


「あ、だから珠子も家をいつかは出る・・・筈だったんだ。」



「家族って面白いね。」


ここは生物社会学の研究室で、それが専門である。



*人類の定義


家族の成立。


とある。


*家族の定義


男女一対と、子が存在する。



詩織は感心する。

「そうなのね。それだと、珠子の住むアーケードの人たちは
新しい人類、なんだ。」


血縁とは関係なく、仲良く生きているから
全体が家族のような、温かさに満ちている。


「一種、独特よね。」

詩織は回想する。

高校生の頃、最初に珠子に逢った時も
なんとなく愛想の好い珠子は、無愛想な詩織を
友達にしてくれた。

あのアーケードに行くと、珠子の友達だと言うだけで
お花を貰えたり。みんなが声を掛けてくれて。

朗らかでいい人たち。


「・・・なんだけど、家族がみんな欠けてるのよね。
珠乃家のほかは。」

ちょっと、それが不思議な感じもする。








生態学研究室に戻ると、詩織にメッセージが届いていた。
差出人は、あの医学部の朗らかな准教授さん。


「この細胞は、普通に老化するでしょう。放射線被曝量が小さいので
若く見えている。
ふつう、それらが原因で外観が老化する訳。」

と、簡単な結果。

しかし。

「遺伝子の複製が正確なのもそのせいです。細胞が
放射線の影響を受け難い。
人類としては面白い体質ですね。」




・・・・ちょっと違うところがあるのね。


「まあ、でも病気ではなかったの。」と
一応は安堵した詩織は、それを珠子にすぐ知らせてあげようと

電話を掛ける為に、研究室を出た。






静かな廊下を歩き、階段を昇って。
屋上へ。

風の渡る場所は、清々しいから好きだと
詩織は思う。


「詩織です。珠子?あ、あのね。検査の結果。
普通だったって。・・・。」と。

放射線に耐性がある、と言う事は言わなかった。


それは言わなくてもいいと思ったからだった。









神流は、徹夜明けで朦朧としながらも
研究に勤しんでいた。


人間は面白い生態である。

脳の中で作られた欲望が、人体や脳をも痛める事もある。

神流は、好きだから
睡眠を取らずに研究する。

名前は偶然、花言葉の「研究」と同じだ (笑)。




そんな神流にも、詩織から連絡が
メールで届く。

それを読み、「・・・そうですか。でも、居なくなる可能性は
変わらないですね。」と、ひとりごと。



珠乃家

|<-曽祖母

|<-祖母

|<-母


どこかから来て、出て行くとすれば・・・・。
その人が、時空間を越えている存在であるかもしれないと
神流は想像した。




珠乃家   別時空間

|      <-曽祖母
       ->   
|      <-祖母
                   ->
|      <-母
                   ->



「この世界には、並列した時空間がありそうですからね。論理的には。」

重力場では空間が歪むので、もし球状になるのであれば
複数の空間が作られる事も有り得る。


例えば、物理で習う原子モデルも
あのような球状ではなく、実際には
境界は曖昧で、雲のような構造なのだ。
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