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深町珠

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古都と伝承

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碧は、おじいちゃんに電話を掛けた。

おじいちゃんは、珠子の住むアーケードで
ちょっとしたパフォーマー。

けん玉が上手で、子供に人気の
楽しい方。

「おじいちゃん、あたし。」

電話の掛け方は一緒である。  (笑)


「ん、なんだ碧」と、おじいちゃんは微笑んで。
アーケードのお店で。


「ねえ、ヘンなこと聞いていい?」と、碧。

「なんだ?お小遣いでもほしいのか」と、おじいちゃんは
白髪頭にベレー。

笑顔がこぼれる。


「あのね、珠子のお母さんの事、覚えてる?」と、碧が言うと


おじいちゃんの笑顔は消える。「ああ。随分前の事だな。」


「うん、珠子がね。ちょっと気にしてるの。
お母さんがどうして居なくなったのかって。
覚えてないみたいなの。神隠しじゃないかって。」と、碧はそのままに伝えた。


おじいちゃんは、少し考えて
「・・・・もう忘れたほうがいいんじゃないかな。
思い出は、思い出のままの方がいい。」と。
趣のある言葉。



確かに。

優しくて、若かったお母さんが
もし、神隠しから生還したとしても
もう、その頃のお母さんではないかもしれない。


それはそうだが、珠子の心配はもうひとつあった。


「それとね、おじいちゃん。珠子のお祖母ちゃんも
若い頃に神隠しにあったんじゃない?」と。碧。


おじいちゃんは押し黙る。「・・・その頃の事は、知らないな。」

と。言っては見たが、厳しい表情になった。


その声の変化を碧は聞き取る。


・・・おじいちゃん、何か知ってる。


「ごめんね、ヘンなこと聞いて。気にしないで。
あ、それからこのこと、珠子に言わないで。」と碧は明るく言うので

おじいちゃんは笑顔に戻って「ああ。分かった。じゃな。」と電話を切る。


アーケードの天井にある、鯖のモニュメントを見上げて、ため息。


「気にしなければいいのにな。」と、ひとり言。


その様子を、俯瞰するように
喫茶店主は、ニット帽を被り直して
二階のラウンジから見ていた。「・・・・。」









詩織は、生物社会学資料室に戻って
他の資料を見ていたり。

「・・・・失踪と、伝承ね。面白い視点ね。」

元々、ユニークな視点を持つのがこの大学の特徴で

霊長類の観察から、ヒトの在り方を考察すると言う
この生物社会学の興りからもそれと分かる。

心理学と、精神分析学の双方に明るい教授が
文化庁の長官に抜擢されたり。

伝承のような文科系の資料を参考にするのも、いかにも
この研究室らしい。



「・・・不老不死伝説、ね。」詩織の、ミズクラゲ研究に
似たものだ。


まあ、あくまで伝承だから根拠はないが
1000年近く生きた人が居た、と言うお話。
北の日本海から、この古都まで旅をして
この地で果てた。

そのルートが鯖街道になった、との伝承。


「・・・・それも、タイムトラベラーか、時空間を超越したのかもしれないわ。」

と、ちょっと理論物理っぽい所まで考えるような
ユニークな感覚は、およそ大学らしくないが。

それが、ここである。


「昔もあったのね。」と、詩織は心でつぶやき

「!そこって、珠子の住んでいる辺りじゃないかしら。」と。



・・・・もしかすると。



払拭し難い予感。


しかし、詩織は研究者だから、客観的な基準を求める。


「憶測ではいけない。細胞の検査結果を待ちましょう。それまでは
考えない。」




1000年の昔から繰り返されていた、とすると。
辻褄は合う。







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