arcadia

深町珠

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あの日、あの時

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電車は夜遅いので、空いている。
ながいベンチのようなシートに、ふたり、腰掛ける。

「そうそう。杏ちゃん、小学生の頃だっけ。お友達の男子がふたり、来て。
洋服箪笥に隠れちゃった事、あったよね」と、碧。


杏は、覚えているのだけど恥かしいから「そんなこと、あったっけ?」と
知らないふり。
車窓を眺めて。でも、ちょっと微笑みがこぼれている。
長い髪はその頃と同じだけど、髪留めで止めてはおらず
自然に流している。
随分大人っぽくなったな、と碧は思う。


「ふたりの男の子はさ、ひとりは、モテそうな感じで、でも
もうひとりの地味な、優しそうな感じの子を気にしてる杏ちゃんが
とってもいいな、ってあたし、思ったんだ」と、碧。


「ふーん、そーだっけぇ」と、杏はまだ、知らん振り(^^)。




「あの時もさ、お店が忙しい時に。クラスのお友達だけで
自由研究があって。
杏ちゃんは、どうしてもそれがいえなくって。
行かれなかったんだよね。」と、碧は思い出すように。


ーーーーふと、碧は気づく。


ーーーその時の年齢。


杏ーー10歳。
珠子ー16歳。

日向子が20歳の時に珠子を産んだとすると、その6年後、26歳で杏を産む。
すぐに失踪すれば、杏の記憶には残らない。

4年後なら。


杏ーー4歳。
珠子ー10歳。
日向子ー30歳。

珠子が11歳の時には、もう、碧は珠子の友達だったから
その頃の記憶はある。

それ以前のことだ。


「きっちり10年ってわけでもなさそうね」と、碧はひとりごと。



「なに?碧ちゃん。」と、杏は、碧の言葉を気にして。


碧は「ああ、あのさ。お母さんが居なくなってから、何年経つ?」


杏は「・・・何年だろう?よく覚えていない。わたしは小さかったから。
ただ、お姉ちゃんが小学生くらいだったから。15年くらい経つんじゃないかな。
ヘンだよね、何の記憶もないの。」


碧は、その後にアーケードに来たから知らないのだけれども
ふつう、お母さんが死んだりすれば、とても強く覚えているだろうと思う。




電車に揺られながら、碧はそんな風にも考えた。
もともと、あんまり推理は好きではない。




電車が隣町に着く。



「杏ちゃん、ここだっけ」


「うん、そう。じゃね、碧ちゃん、また」
と、軽快に杏は歩いて行く。




後姿を見送りながら、碧は
「あたし、何しに来たんだろ(^^)。」と、笑った。
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