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脱出
しおりを挟む微かに漏れる光、話声...。
「.....。」
「.....。」
「やつら」の声だ。
彼は、会話の内容を聞き取ろう、としたが、無理だった。
コンクリート造りの建物に反響してしまっていて、発音源を辿ることも困難だ。
そっと、廊下をすり抜けて、階下に下る。
「...早いとこ、こんなとこから逃げだそう。奴等が気づかないうちに。」
1階に降りると、そこはだだっぴろい待ち合い所になっていた。
正面の玄関は気づかれやすいだろう。
...病院ならば、急患受付がある筈だ..。
回廊のような構造のこの建物の、裏側に回ると、
スロープのコンクリートが見える..。
..地下だ...!」
彼は、更に階下へと歩んだ。
不気味な静寂の病院の地下。
霊安室やら、機械室やら。
人の気配がないので、なおさら薄気味悪い。
ゴム底靴を滑らかに運び、彼は更に奥へとすすむ...と。
エレベータ・ホールの真ん前に、
開け放ちになった急患入り口のエントランス。
向かい側には....。2t積みのキャリア・カーに、S12!。
「おお、無事だったか...。」
静かに、しかし、はやる気持ちを抑えつつ。
彼はマシンの側に。
外見はなんでもない。放置してあったのだろう。
...このまま、かっぱらっちまおう....。
鍵のかかっていない、トラックのドアを開ける。
ラッチの外れる音がいきなりコンクリートの玄関に響き
彼はすこしどきりとした。
...しかし。
誰もやってこない。
「...なんだよ。逃げてくれって言わんばかりじゃないか。」
すばやく運転席に昇り、彼はプレ・ヒート・ノブを引いた。
イグニッション・キーはついたままだ。
大径の速度計に、グロー・インジケータがぼんやりと光る。
「...一発で、かかれよ....。」
...もし、始動に失敗すれば。
...とっつかっまって、元の木阿弥だ。
彼は、大きなクロム・メッキのキーを捻る。
リダクション・セルの音が響く!
「...南無参...。」
1秒、2秒...。スロットル・ペダルを軽く踏む。
轟音!
白煙とパティキュレイトを撒き散らし、ディーゼル・ユニットは起動した。
「それ、行け!」
クラッチをすばやく踏み込み、2速へ。
あっけなく、固い感触のクラッチは接続し、
猛然とコンクリート・スロープを駆け上がるキャリア・カー。
「..もう、いい加減、気づいた頃だろな。」
.....?
追っ手は、来ない。
「..どうなってんだ?」
3rd、4thと、めまぐるしくシフトし、増速。
森林の中に、抜け出すキャリア・カー。
「ここまでくりゃ、もう大丈夫だろう。それにしても...。」
...変な連中だな。
・
・
・
階上の小部屋。
さっきの連中が、窓から。
「行っちまいますね...。」
「いいんだ。奴はシロだ。さっき、アミタールで解ったろう。
あいつは何も知らない。
残るは、もうひとりの、『奴』だ.....。」
麻酔面接を行った、偽?警官。「特高」と名乗って。
その、鉄面皮のような表情を僅かに歪ませ、そう呟いた。
ディーゼル・ユニットは、激しい振動とノイズを撒き散らしながら驀進する。
S12は、持ち前の適応力ですぐさまこのキャリア・カーのハンドリングを
“ものにした”。
深い、森林に囲まれたワインディングを、右。左....。
大きなステアリングをすばやく切り、カウンターを呉れながらフル・スロットル。
「ここは...どのあたりだろうか....。」
ルーム・ミラーに映る、自分のマシンを気にかけながら、彼はあたりをつけた。
闇雲に走っていても、そこは長い経験を持つ走り屋だ。
回遊するようなことはない。
不思議なことだが、彼等のような連中は滅多な事では道に迷ったりはしない。
嗅覚が働くかのように、目指す方角を探り当てる。
「カン、だよな...。」
彼等はいつもこんな風に言う。
彼らには、渡り鳥のような方位コンパスが備わっているに違いない....。
・
・
・
しばらく走ると、標高が下がり、どこか見覚えのある街路に出会う。
「ここは......。」
旧道R246.神奈川ー静岡県境のあたりのようだ。
彼は丹沢山渓のあたりに拉致されていたようだ。
「よし!」
彼は、思い切りアクセルを踏んだ。
ここまでくれば、もう大丈夫だ。
...どうするかな、このキャリア・カー。
....どっかに捨てちまおう....。
彼は、携帯電話で仲間に連絡した。
「とりあえず....御殿場の熊でも呼ぶか....。」
彼の工業高校時代の級友。
今は電気工事屋をしている。商売柄、付き合いも多い。
多分、今なら家にいるだろう....。
ポケットから携帯を取り出し、手探りで短縮ダイアルをコマンド。
「....おお、クマ。俺だよ。ちょっと頼まれてくれよ...。」
・
・
・
・
街道筋から入り込んだ作りかけのバイパス道路。
よく、小僧どもがゼロヨンをする場所だが、今日はweek-day。
静まり返っている。
「なんだよ、そりゃ、話んなんないだろ。」
クマは、自分の乗ってきたピックアップ・トラックのバンパーに腰掛け。
クロム・鍍金のごついグリル。
盛り上がったフェンダー。
力強い造形は、いかにもアメリカだ。
微かに漏れる光、話声...。
「.....。」
「.....。」
「やつら」の声だ。
彼は、会話の内容を聞き取ろう、としたが、無理だった。
コンクリート造りの建物に反響してしまっていて、発音源を辿ることも困難だ。
そっと、廊下をすり抜けて、階下に下る。
「...早いとこ、こんなとこから逃げだそう。奴等が気づかないうちに。」
1階に降りると、そこはだだっぴろい待ち合い所になっていた。
正面の玄関は気づかれやすいだろう。
...病院ならば、急患受付がある筈だ..。
回廊のような構造のこの建物の、裏側に回ると、
スロープのコンクリートが見える..。
..地下だ...!」
彼は、更に階下へと歩んだ。
不気味な静寂の病院の地下。
霊安室やら、機械室やら。
人の気配がないので、なおさら薄気味悪い。
ゴム底靴を滑らかに運び、彼は更に奥へとすすむ...と。
エレベータ・ホールの真ん前に、
開け放ちになった急患入り口のエントランス。
向かい側には....。2t積みのキャリア・カーに、S12!。
「おお、無事だったか...。」
静かに、しかし、はやる気持ちを抑えつつ。
彼はマシンの側に。
外見はなんでもない。放置してあったのだろう。
...このまま、かっぱらっちまおう....。
鍵のかかっていない、トラックのドアを開ける。
ラッチの外れる音がいきなりコンクリートの玄関に響き
彼はすこしどきりとした。
...しかし。
誰もやってこない。
「...なんだよ。逃げてくれって言わんばかりじゃないか。」
すばやく運転席に昇り、彼はプレ・ヒート・ノブを引いた。
イグニッション・キーはついたままだ。
大径の速度計に、グロー・インジケータがぼんやりと光る。
「...一発で、かかれよ....。」
...もし、始動に失敗すれば。
...とっつかっまって、元の木阿弥だ。
彼は、大きなクロム・メッキのキーを捻る。
リダクション・セルの音が響く!
「...南無参...。」
1秒、2秒...。スロットル・ペダルを軽く踏む。
轟音!
白煙とパティキュレイトを撒き散らし、ディーゼル・ユニットは起動した。
「それ、行け!」
クラッチをすばやく踏み込み、2速へ。
あっけなく、固い感触のクラッチは接続し、
猛然とコンクリート・スロープを駆け上がるキャリア・カー。
「..もう、いい加減、気づいた頃だろな。」
.....?
追っ手は、来ない。
「..どうなってんだ?」
3rd、4thと、めまぐるしくシフトし、増速。
森林の中に、抜け出すキャリア・カー。
「ここまでくりゃ、もう大丈夫だろう。それにしても...。」
...変な連中だな。
・
・
・
階上の小部屋。
さっきの連中が、窓から。
「行っちまいますね...。」
「いいんだ。奴はシロだ。さっき、アミタールで解ったろう。
あいつは何も知らない。
残るは、もうひとりの、『奴』だ.....。」
麻酔面接を行った、偽?警官。「特高」と名乗って。
その、鉄面皮のような表情を僅かに歪ませ、そう呟いた。
ディーゼル・ユニットは、激しい振動とノイズを撒き散らしながら驀進する。
S12は、持ち前の適応力ですぐさまこのキャリア・カーのハンドリングを
“ものにした”。
深い、森林に囲まれたワインディングを、右。左....。
大きなステアリングをすばやく切り、カウンターを呉れながらフル・スロットル。
「ここは...どのあたりだろうか....。」
ルーム・ミラーに映る、自分のマシンを気にかけながら、彼はあたりをつけた。
闇雲に走っていても、そこは長い経験を持つ走り屋だ。
回遊するようなことはない。
不思議なことだが、彼等のような連中は滅多な事では道に迷ったりはしない。
嗅覚が働くかのように、目指す方角を探り当てる。
「カン、だよな...。」
彼等はいつもこんな風に言う。
彼らには、渡り鳥のような方位コンパスが備わっているに違いない....。
・
・
・
しばらく走ると、標高が下がり、どこか見覚えのある街路に出会う。
「ここは......。」
旧道R246.神奈川ー静岡県境のあたりのようだ。
彼は丹沢山渓のあたりに拉致されていたようだ。
「よし!」
彼は、思い切りアクセルを踏んだ。
ここまでくれば、もう大丈夫だ。
...どうするかな、このキャリア・カー。
....どっかに捨てちまおう....。
彼は、携帯電話で仲間に連絡した。
「とりあえず....御殿場の熊でも呼ぶか....。」
彼の工業高校時代の級友。
今は電気工事屋をしている。商売柄、付き合いも多い。
多分、今なら家にいるだろう....。
ポケットから携帯を取り出し、手探りで短縮ダイアルをコマンド。
「....おお、クマ。俺だよ。ちょっと頼まれてくれよ...。」
・
・
・
・
街道筋から入り込んだ作りかけのバイパス道路。
よく、小僧どもがゼロヨンをする場所だが、今日はweek-day。
静まり返っている。
「なんだよ、そりゃ、話んなんないだろ。」
クマは、自分の乗ってきたピックアップ・トラックのバンパーに腰掛け。
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盛り上がったフェンダー。
力強い造形は、いかにもアメリカだ。
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