タビスルムスメ

深町珠

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吉松にて

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「これから折り返しですか?」と、愛紗はCAさんに。

CAさんは「はい。この列車で鹿児島へ戻って、お昼です。」


友里絵は「車掌さんなんて、すごいなー。」


CAさんは笑顔で「いいえ。誰でもなれます。」と、にこにこ。


友里絵も、にこにこ「あたしもなれるかなー。」


CAさんはこっくり。「はい。できますよー。」と、友里絵の口調に似せて。


みんな、微笑んだ。


お客さんがみんな降りたので「乗降、終了!」と、白い手袋で指差して。
乗務員室のドア脇にある、扉スイッチを降ろした。

ツー、と。バスみたいな機械式ブザーが鳴って、ドアが閉じる。



「小休止です」と、CAさん。


菜由は「あ、お疲れ様です」と、なんとなく習慣。


ほんの少しの間でも、休みたいし・・・・
乗務していると立ったまま。トイレも行けない。

そんな経験からの労い。


友里絵も「がんばってねー」と。にこにこ。

手を振りながら。


愛紗「きっちりしてるなぁ。」

菜由「肩こるね。」


友里絵「わー、おばさんっ」


由香「同い年じゃん」


菜由「家に入っちゃうと、楽だからねー。気兼ねないし。」



友里絵「それで、どんどん・・・。」


菜由「どんどん?」


友里絵「焼き、食べたいなー。」


由香「うまく逃げたな」


友里絵「ははは。でも、なんか食べたいね。買ってくるよ!」

吉松駅は高台。ホームから見下ろせる線路。
ひとつは、都城方面への吉都線。

駅からカーブを描いて、下っていく。


架線がないので、鉄道模型みたいに見える。

川に沿って、高台を走っている。



もうひとつは、今来た肥薩線の隼人方面。

それから、登っていく人吉方面。
けっこうな上り坂。



「友里絵、大丈夫かな。30分もないよ」と、由香。


菜由「まあ、来なかったら一本遅らせればいいし。」


「そうね」と、愛紗も、のんびり。


風さわやか。静かな高原。

火曜日の旅。

気持もおだやか。


「乗る列車は・・・あ、あれか」と、菜由。

対面ホームに、位置を変えて停車している臙脂のディーゼル・カーは
エンジンをがらがらがら・・・と、響かせたまま。

綺麗にリフォームされている、比較的新しい目の車両。

内装にも木材が使われていたりするのが特徴。



友里絵は、何か抱えて「おーまたせ!」と、駆け出してきた。

「さ、乗ろう!」と、にこにこ。「あれ?、あの汽車?」


愛紗「そう、あれね。」


由香「何買ってきた?」


友里絵「蒸れ蒸れ肉まんじゅう。」

由香「・・・・あ、いいのか。別に。」


友里絵「なんだよぅ」(^^)。


由香「なーんか、アンタが言うと違う意味に聞こえる」


菜由「ははは。なーんかね。」




友里絵「蒸れ蒸れマンからしたたる汁・・・・。」



由香「・・・・あ、いいのか。」

菜由「考えすぎか」


愛紗もおかしい。なんとなく。


友里絵は、ハハハと、笑って。 Vサイン。


「サインはV!」。


菜由「いくわよー、ひろみ」と、構えるポーズ。


友里絵「それはちがーう」


由香「Xこうげーき!」と、腕をふって。


友里絵「そう、そっちー。**Xこうげーき」


由香「ヘンな間をいれるな!」と。


友里絵は「はは」と、笑って。列車へと駆け出した。




峠を越えていく人は少ないようで、乗客はまばら。

平日だけど、観光列車みたいに記念撮影パネルがあったりして
ちいさい子でも楽しめるような、車内になっている。

「なんか、かわいいね」と、友里絵。

「うん」と、由香。


「遊園地みたい」と、菜由。


「かわいいね」と、愛紗。




どこか、別世界に来たような気がする。
大岡山の方だと、こどもの声ですら騒々しく聞こえるのだけど。
こちらの子供の声は、至って可愛らしい。


「引越した方がいいかなあ」と、菜由。

愛紗「うん・・・・。」


友里絵「なんで?そう思うの?」


「子供は、こういうところで育てたいな、って思ったの」と、菜由。


「まあ、菜由にとっては故郷だし。でも、台風とか怖くない?」と、由香。


菜由は「それはそうだけど、友里絵ちゃんとかさ、愛紗とか。
見てると、なんとなく・・・自分の子にそういう思いをさせたくないな、って。」


友里絵「まー、あるねぇ。あたしだってさ、こういうとこで生まれてたら
かわいい子に育ったんだろうって」


由香「ムリムリ」


友里絵「まあ、そうだけど」(^^)。


由香「ハハハ」



「吉松ーくん♪」と、友里絵。


由香「来たな」

「お粗末、唐松、十姉妹、ちょろ松、一抹」友里絵、にこにこ。


由香「字が全然違ーう。」


友里絵「やっぱダメか、お嬢様は。夫人ならなれるな。お蝶夫人!
いくわよーひろみ」と、構えるポーズ。


由香「さっきやればよかったな」

友里絵「じゃ、エマニエル夫人♪じゃんじゃかじゃかじゃーん♪」エアギターで歌う。
フランス語ふう。


由香「それは・・・あ、いいのか。わかんないだろ。絵ないもんな」



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