タビスルムスメ

深町珠

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キンリンコ

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友里恵は「金鱗湖って言うからさー、芦ノ湖くらいかと思ったけど。
池田湖みたいだね」

パティは「池田湖って?言うとー、ああ、指宿の」


池田こりゃ。
池田こ。
池田湖、って。昔のお殿様がいったそーな。

と、友里恵は、池田湖のネタを話すと、パティは

「ハイ。指宿って、お殿様が指さしたお宿と聞きます」

由香は「おー!さすがCA。」と、囃す。

パティは「うっふっふー。」と、にっこり。



友里恵は「う、ふふふー♪、う、ふふふー。アクマちゃんするー?パティ?」

パティは「りとるでーもんですか」

由香は「それは、すっごく最近かも」


パティ「ハハハ。マジメなオハナシ、指宿=>湯豊宿、だったそうです。」

友里恵は「さーすが。・・・・あっちも乗務するの?」


パティは、いえいえ、と手を振って「ガイドブックに書いてありますー。
いつ転勤になってもいいように、って。」



金鱗湖にも、そろそろ観光の人が見えてきて。
今日は金曜なので。お休みを取って、来ているのかな。


観光バスもちらほら。

湖、川沿いのぎりぎりまで舗装してあるバスの駐車場。

車止めも、ガードレールもない。
どうしてか、と見ていると・・・・。12mの観光バスのタイヤが
ぎりぎりまでその岸辺に寄って。
はみだして、ボディは中空を走っていく。


友里恵はそれを見て「上手いなー、落っこちたりしないんだね」


パティは「神業みたいですね。鉄道より難しいね。アレ」

由香は「そうだねぇ。二階建てバスだって、木の枝にもぶつからないし」

ほんとに、自分の体みたいにすい、と
ぎりぎりで避けていく。

きっちり、バック一回で止める。


見ていると、ホントに神業のようだ。



友里恵は「あんなのできないよー」と。

由香は「ホント。」


パティは「最初っからできないけど、いつかできるかも」



由香は「そっか、そーだねぇ。」


もうすぐ21になる由香は、免許取って乗ろうと思っているのだ。



湖から出ている小川に掛かる橋が、いくつか。


板張りの、太鼓橋があったり。

友里恵は「時代劇みたいだねー」と、欄干に登って「とー」なんて
飛び降りたり(^^)。


由香「おっこちても温泉だしな」


パティは「鯉ちゃん、びっくりしますね」


踏み板が傷んでいる橋があり「この橋は渡れません」と書いてあるものもある。


友里恵は「端でなくて真ん中歩けば」

と、真ん中を歩こうとしたら、踏み板が、バリバリっ。


友里恵は「おっとっと」


由香は「一休さんかいな」


パティは「♪いっきゅーさーん♪」


由香は「なつかしいなぁ、おじーちゃんが見てたっけ。朝5時頃」

友里恵は「そうそう、なんだかやってるんだよね、朝。」


パティは「日本昔はなしとか」


友里恵「♪ごーやー、よい子だねんねしなぁ♪」

由香は「にがうりかいな」

パティは「ふふふ」

由香「♪よい子だ金だしな♪」


友里恵「キンだすの?」

由香「朝からそのネタ禁止」

友里恵「同情するなら金おくれ!」


由香「キン欲しいのか?」

友里恵「朝からそのネタ禁止!」


パティ「ハハハ」

ぶらぶら、歩きながら・・・川原を歩いていく。









愛紗は、その頃・・・既に目覚めていた。
407号室。

辞める、と決めたら・・・妙に気楽になった。
無意識だけど、朝、明るくなる前に目が覚めてしまう。

点呼の時間。

そういうものが、なんとなく・・・ストレスになっていた。


遅れてもへーき。

そういう性格ではないため、だ。


旅が終わったら、また・・・その生活に戻るのかと思うと
気が重かった。

毎朝、起きる時間が違う。
毎晩、寝る時間も違う。

そういう生活が、如何に辛いかは
経験しないと解らない。


「深町さんは、よく平気な顔をしていられたなぁ」と・・・。なんとなく思う。
平然と、にこにこして。


野田が言うには「あれは人間じゃない」と言う・・・くらい。



朝7時。
そんな時間に寝ていられる。
なんて幸せなんだろうと思ったりする愛紗である。




菜由は、まだまだ・・・夢の中(^^)。











303号室の、理沙は
既に起き、布団を畳んで。

朝食を取りに、一階のラウンジに向かった。

7時と言う時間、九州の朝は遅いので
まだまだ、早朝、と言う雰囲気だ。


バイキング形式になっている、朝ごはん。


入り口で食事券を交換し、トレイを取って
好きなものを取って食べる。

和洋中、それぞれ。

真ん中に、ながーいテーブルが置いてあり
そこに、沢山のお料理。

山菜のおひたし、漬物。蒟蒻のサラダ。生野菜。氷水でトレイが冷やされている。
ししゃも・いわしの焼き物。電熱で温まっている。
マカロニ・パスタのサラダ。
ダシ巻き卵、スクランブルド・エッグ。上手に半熟で、食べごろ。
ベーコン・ベイクド・スライス。
ひとり用に、ベーコン・エッグも作れるように、ホット・プレートがあったり。
シェル・マカロニのオランデーズ・ソース。
スバゲティ・カルボナーラ。サラダスパ。
ふつうに納豆、焼き海苔、生卵。
すぐ近くの豆腐屋さんの、手作り豆腐。

ロールパン・クロワッサン・イギリスパン。
温める為にオーブン・トースターがいくつか。
町内のパン屋さんの焼きたて。

ポタージュ。コンソメ。

珈琲。アメリカン、エスプレッソ、カプチーノ、カフェオレ、カフェラテ。
一杯ずつ作りたてが頂ける。

フレッシュジュース、ミルク、清水。


「食べきれないなー」と、理沙は笑顔になる。

旅暮らしの楽しい一瞬である。



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