寅さんと「少年寅次郎」

深町珠

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16作

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さて、本日は此方。いいですね。のどかなお話で。学術研究者と言うのは、寅さんっぽい所がありますね、確か。大抵貧乏だし、旅人。非正規雇用だしにやにやした顔。夢追い人ですね。小林幸子じゃなくて小林桂樹さん。お似合い。樫山文枝さん可愛らしい♥。今も変わらず。


前作で夢想的なサラリーマン、で、今回は学者(東大だと、たぶん大学院研究専攻、かな。研究だけやってる所。変な人多いです。半地下の研究室にほとんど住んでる人、とか)寅さんは、いつものように愛でたいだけ。研究助手の礼子さんを可愛がってるだけで。恋、と言うような範囲にない自由さです。

映画の冒頭、山形から修学旅行の少女が寅さんを訪ねて来ます。寅さんの娘ではないかと、皆慌てます。そうではなく、寒河江で、食物を恵んでくれた人の娘でした皆で、その娘をもてなします。(ひょっとしたら、原案では「悪童」にあった、タコの工場に居た娘だったのかな。うなぎ屋の色男に恋した)。

サトコちゃんでしたね。「少年寅次郎」でヒロインのひとりだった。まあ、今回の寒河江のお雪さんはちょっと可哀想な役柄なので、違う人ですね。「悪童」だと、サトコちゃんがお母さんになった頃、売をしている寅次郎青年に再会するのですけど。その辺りのお話もTVにしないかなー。そのうち。

寅さんは、寒河江までお墓参りに行くのです。そこで、お雪さんが「学問がないから」東京の色男に騙されたと言っていた事を和尚さんから聴きます。(この辺りが、サトコちゃんのお話から来てるのかな、なんて)寅さんは、自身愚かだと和尚に告げますが、「愚かだと気づいた方は愚かではありません。


いいシーンでしたね。そこで和尚に「あなたも学問をなさるいい」と、勧められます。(真の意味での「学問」。学校の勉強の事ではなく)今回は、山田監督流の文化論、のようなテーマもありますね。研究者の礼子さん、学者の田所先生より、寅さんの方が真理を突いた事を述べる。(よくある事ですね。

それで、寅さんは学問をしたいと思うのですが、皆、学校のお勉強しか知らない。この辺り、風刺ですね。山田監督のご見識が生かされています。今でもそうですね。学校の勉強が全てだと思う人はいないでしょう。少しづつ良くなって来ているようではありますけど。学校の映画を作る山田監督らしい今回。

考古学研究のお二人。教授さんは寅さんの率直な言葉に感銘を受け、寅さんを「師」と呼ぶ。礼子さんは「何故学問するか」との問いに顧みる。そんなふうに、客観性があるのが、このお二人が本物の研究者らしい辺り(ふつうは、こうは行かないです。ニュートンさんだってライバルに意地悪だった位で)


そんな教授さんは、どうも礼子さんに幻想を抱いているようで、でもそれは、例えば美しいサウンドが作るような愛の幻想で。
現実にはならないもので。(だからいいのですが)寅さんは元々そうだから解っている。教授はとらやに下宿する礼子さんが心配になってしまいます。

ちょっと脱線すると、こう言う、空想上の美、ですね。研究をするような人は、元々自分の思考と記憶の中で過ごしていますし、そうでないと出来ない。ちょっと恋愛、みたいな事を具象化するのは困難。想いだけが募るのね。別にそのままでいいの。元々自分の空想なんだから


それで教授は、想い余ってラブポエムを綴ります。ひとりの家だとまあ、空想が止まらない。礼子さんが世話女房のようで(たぶん、教授のお母さんがそうだったのでしょうね。優しい方だったのでしょう)ちょっと錯覚してしまう。お千代さんと、岡倉助教の時と同じで。少年のままですね。愛らしい方。

お相手の礼子さんが、とても可愛らしいので、これは教授で無くても好意は持つでしょうね。守護したいと普通の大人は思うのですけど、教授さんは永遠の少年だったのでしょう。好きな事だけしていた人らしい自由さ。酔って、そのラブレターを渡してしまいます(この辺りは喜劇ですね)あーあ。

夜にラブレターを書かない方がいいですね。面白いものです。渡した後で後悔する教授さん。この辺りが似合うお顔でもあります。それで礼子さんは、現実を顧みてしまいます。悩むお姿も愛らしいですね。寅さんは、今回は恋、ではないようで(ちょっと表現不能。愛でたい事は事実なのですが)

愛でたい気持ちは、原初的なものですから、恋愛、等と言う後から出来た言葉に当て嵌まらない。なので、婚姻、等と言う制度に合致しない訳で。そのままでいいのですが、礼子さんは婚姻/研究= のように考える。研究的思考ですね目が笑っている笑顔家庭に入るべき、と思う訳ですね。確かに研究は無理でしょうね。

前作のリリーさんは歌、りつ子さんは絵、礼子さんは考古学。この頃の山田監督さんの論旨には「生物としての幸福/文化的な幸福感」が、あるようですね。まあ、生物的幸福=排他。∴どちらを選んでも同じ。なのですが、当時はご婦人、若年の文化的活動は制限されていましたから(=高齢層の排他に)で。

なので、「折角ここまで来たのに、研究を続けたい」と、礼子さんは思うでしょう(ふつう、大学だと博士号持ってたり、「同等の見識を有する者」でないと研究者にはなれないです。)嫌いな人に「好き」と言われても思わないでしょうけど、この辺りは文字に出来ない感情ですから、映画っていいなぁ。

寅さんがなぜ愛でたいのか。たぶん...光子さんを何処かで憶えていて「優しくされた」気持ちを思い出しているのでしょう(光子さんはもう、何処にも居ないので尚更)大抵の感情は追体験なので、過去に快かった事を反芻したいの。それで、礼子さんは「お母さんのような」寅さんに安堵するのです。が。

恋のお相手としては、ちょっと物足りないと思う人もいるのでしょう。元々「寅の人生そのものが夢のようなもの」と、御前様が形容していますように、寅さん自身、それで十分幸せなの。でも、礼子さんは寅さんに求婚されたと告げます。それで、寅さんの幻想は霧散してしまいます。ああ無情。

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