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My Latin sky
しおりを挟む神様も、本当は知っているけれど
クリスタさんは、お節介ではなく
愛のために、地上に留まった。
自らのためでなく、求められたので
献身した。
そういう愛もある。
もちろん天使であるから、男の子でも
女の子でもないのだけれども
それでも、愛らしい心に
変わりはないから
唯一無二として、求められる。
なので、天国で神様のそばに
いる事はできないけれども(笑)
それは、仕方のない事で
例えば宇宙の原始、いろいろな素粒子が
ヒッグス
環境によって減速され、質量を持ったように
振る舞う事。
それを愛、と例えれば
原子が、愛によって作られると
比喩できる。
いつまでも、光のように
ヒッグス
環境に囚われれず、飛びつづける素粒子もあるが
いつか、エネルギーが尽きる。
あたかも、愛を得なかったかのようだ。
少年ミシェルは、すこし短絡にすぎたようで
そうした、天使さんのような愛しかたもあるので
男の子としてのクラスメートたちの生き方に
影響されすぎているかのようでもある。
報酬のためにそうしている訳ではなくて
そうする人が、適性があるので
神様の世界に招かれた、と
言うだけの事である。
その反対の人は、天国ではなくて
他のところへ行く、だけの事なのだけど。
なので、リサのおじいちゃんは
それで、天国に招かれた。
意外に早かったのだけれども
現世で、国鉄を退いたあと
なかなか、意義を見出せるような仕事は
なかったから
それはそれで、ひとつの選択肢だったかもしれない。
意味なく、茫洋と生きているのは
リサのおじいちゃんのような人にとって
退屈であっただろうから。
そういう時、魂は神様が天国仕様(笑)に
するのだけれども
手持ちのストックには、いろいろあって。
ミシェルの時のように、間違える事も
あったりする。
ミシェルは、清潔好きだったから
それで、列車に乗る前に
お風呂に入っていたのに
眠る前には、シャワーしたい、なんて
思ったり。
今の列車は便利だから、シャワーがあったりするけれど。
シャボンをつけて、タオルで体を洗って。
お湯が出るのは6分だけれども、途中で止めて置けるから
時間としては長い。
頭から足まで、綺麗にして
流す。
6分あれば長すぎるくらいだった。
ドライヤーもついていて、至れり尽くせり。
さっぱりして、バスローブを着て
ガウンを羽織る。
部屋つきの代物だから、料金としては
それほどの物でもない。
ビジネスホテルと同じくらいだから
移動を楽しむひとには安い、と
思えるだろうと
そんなふうに、ミシェルは思う。
「お嬢さん、一杯いかが?」などと
ロビーで酔ってたビジネスマンが冗談を言う。
「いえいえ」と、ミシェルは微笑んで。
女の子によく間違えられる(笑)。
別に気にならないし
それは、美しいと言う事だろうと(笑)
仕事と愛着
おじさんは、格別
禁欲的でも、立派な人でもなく
ただ、田舎だと仕事がないし(笑)
安定していていいから、この仕事に就いた。
もちろん、おじいちゃんが奨めたのもある。
国鉄一家と言うけれど、後継を代々
輩出するのは、いわば義務のようなもの
なので、おじさんがそろそろ定年で
代わりにリサを、と言う話が来るのも
当然、であった。
おじさんには、ふたり女の子がいたけれど
奥さんが、国鉄の仕事に理解が無くて
ーーーそれは、そうだと思う。
薄給だし、朝は早い。夜遅い。
ふつうのサラリーマンみたいな暮らしを
基準にしている隣近所とか、町内とかと
暮らしの時間も合わないし
苦労もおおい。
雪の日の早朝出勤などは、本当に大変だ。
自転車に乗れなければ歩いていかなくてはならない。
夜行の乗務開け、家で寝ていると
気をつかう。
そういう事もあって、国鉄職員に
離婚の話も多かった。
そんな訳で、おじさんの娘ふたりは
おじさんと、もう会う事もない。
それでも、おじさんが国鉄を辞めないのは
愛、であろうか。
家族、妻への愛よりも
それが強い、と言う訳でもなく
国鉄を辞めたら、転職が面倒だった(笑)
くらいの理由であろうけれど。
少し待てば定年だから、と言うおじさんの
考え(50才から)を待てなかった
妻との間が、ちょっとまずくなった、と言うのもあって。
10年かそこら、待てないのだろうか?と
のんびりしていたら、妻が出ていった(笑)
と、そういう事らしい。
しかし、まあ
それも愛である。
でも、リサのおじさんは
超然と構えている。
リサにとって、それは
おじいちゃん譲りの、鉄道員らしさに見えたりする。
達観、と言うのだろうか。見る人にとって
それは神々の領域に近いひと、と言う事になる。
八百万の神、って言うけれど
こういう神様が宿る時もある。
列車が、減速をして
徐行運転。
車掌室のおじさんは、点呼で聞いた場所と照合。
赤い機関車は、深夜なので短く汽笛吹鳴。
黄色いヘルメットを被った保線職員たちが、手を上げる。
機関士も。
深夜に、線路の修理をしているのだ。
重い列車が走ると、どうしてもレールの位置が変わってしまう。
敷石を固めた上に枕木を敷いているのだから、当然だが
それを修繕するのは、時折
こんな深夜になったりする。
列車が少ないから、である。
ミシェルは、カーテンを閉めずに眠りについたので
その保線区間で減速した列車と、機関車の汽笛に
微睡みから醒める。
車窓、黄色いヘルメットの保線職員が
手をあげているのを見て。
-----ああ、こんなにもみんな、頑張っている。
ひとつの目的のために。
そう思うと、少年らしいエネルギーが
行き場を求めて漲るように思え
愛のため、とはいえ
思いつきで国鉄に行くと言った我が身を恥じるのだった。
「僕は、こんな人たちのことを軽んじたようだ」と。
そういう人々の家庭もまた、献身的な努力で運営されていたりする。
国鉄ならば、それに十分な報酬を払えるけれど
もし、お金儲け主眼なら......。
怖い脱線事故が起きたりする。
そういう事の無いように、国鉄は頑張っている。
そうは言っても、ミシェルは
若いから
そのエネルギーが余るので、ついつい
親しい人には、逆らったりもする。
誰かの意志に従うよりも、思うままに行動したい。
思う、のは
エネルギーがあるから。
独特の方法を考えだすのは、楽しい事。
結果、失敗しても満足できるのが
若いから。
ミシェルのおじさんのように、達観、と
思われる行動は
実は、エネルギーが足りなくなってきて
考えるのが面倒になってくる、なんて理由もある。
夜の乗務は、とても疲れるのだ。
夜眠るように出来ている、人間は
その間に体を休めるように出来ている。
面白いもので、昼間眠っても休まらないのは
地球の自転に沿って生きてきたから、でもある。
時速1700km、凄い勢いで動いているのに
そう感じないのは地表にくっついているからで
本当は、列車が揺れて走る速度の
20倍くらい早いのである。
鉄道職員たちは、なぜ
安い賃金で、家庭を犠牲にしても
鉄道の運行を守るのかと言うと
それが、群れを守って生き延びてきた
人類にとって、慣れ親しんで来た行動だから。
別に、鉄道でなくても
なんでもいいのである。
みんなのために働く事が好きな人が
集う場所は、やっぱり
金儲けの場所ではないはずで
そういう場所があれば、エネルギーの余った
少年ミシェルでも、逆らわずに従える。
それは、感覚で誰しも解る事。
べつに、国鉄でなくても
郵便でも、電気設備でも
なんでもいいのだが。
眠ってしまったミシェルは、夢を見た。
めぐお姉ちゃんの裸体ではなく(笑)
なぜか、駅で
切符を売っている夢だった。
夢で見る家、と言うのは
自分の意識のイメージ、と言う事だから
ミシェルは、駅、つまり鉄道で働く自分を
安定した未来、と仮定しているのだろう。
少年が、そう思える環境は
とても良い環境なのだろう。
駅の仕事は、かなり大変だ。
人には、様々な希望があって
時刻表に沿って走る列車に、間に合わない、
なんて事もある。
普段、便利な生活に慣れていると
それを不便だと思ったりする人もいるから
不便を解消したいと駅の人に頼むような
事もある。
乗り遅れたら、どうしようもない。
ミシェルのような、魔法使い駅員でも
時間を巻き戻して、乗り遅れ解消(笑)
なんて事はできないから
そういう時、気持ちを宥めてあげるような
思いやりは必要だったりする。
そういう気持ちは、教えても作れないから
国鉄職員は、割と適性を量られる。
ミシェルが、夢を見ている間にも
いくつもの駅を通過するけれど
その駅のひとつひとつに、当直の駅員が仮眠して
アクシデントのないように、と
気をつけている。
それで、夜行列車が
だんだん、減っているのだ、すると
淋しいけれど、仕方ない事もあると
リサならずとも、思う事もあるだろう。
寝台列車、Northstarは無くなっても
代わりに、旅を楽しむ豪華夜行列車は
企画されている、と言うから
いつか、ミシェルやリサが
そういう列車に乗務する事があるかもしれない。
夜の旅は、魅惑的なのだろう。
眠って汽車に乗ると言う、普段ないような
事が、旅としては
変わっていて楽しいのだろう。
そういう楽しさに惹かれた神様は、
遠い異国で、寝台電車に乗って
夢の中。
楽しい旅を。
神様くらいになると、楽しい事は
そんなにはないけれど
旅は、それでも楽しい。
Goodnight.goodness .and god.
寝台列車Northstarは、もうすぐ
出発から2時間。
ForestHill駅に到着だ。
素手に深夜とあって、起きている乗客は
ほとんどいない。
夏休みなら、特別な夜が楽しくて
寝られない子供が、窓の外を眺め
都会とは違う、明かりのほとんどない
風景に驚きながらも
時折、街灯が流星のように
飛びさるのを見ては
昼間見たら、どんな風景なんだろうと
丸い、上段寝台の明かり取り窓から
横になったまま、心を遊ばせて。
いつもと違った夜を過ごし
夏休みの大切な思い出を心に刻んで。
いつか、大人になった時
そんな、思い出を訪ねて歩きたくなったり
するのだろうけれど
そんな時、思い出の列車が無くなっていると
淋しい気持ちになったりするから
本当は、残しておいてほしいと
リサは思ったりする。
機関車職場もいいけれど、そういう
企画をするのも、いいかもしれない。
14号車の4人部屋で、リサは
夢うつつに、そんな事を思った。
ーーつまり、今日あった出来事を
そうして記憶に刻んでいるのだろう。
人間はそうして、思い出を残す。
脳細胞もそうして、記憶、データを残して
寿命を終える。
データの持ち主、人間は
それを遺伝子に残す。
或は、文章や数式に残したりして
データをそのまま残す。
魔法使いは魔法で残すし
国鉄職員は、国鉄、に残す。
仕事ってそういうものだとリサは思うから
給料が安いとか、仕事がきついとか
あんまりは思わない(笑)。
「おじいちゃんの願いだもん」と。
夢の中で思う。
ミシェルが、駅の夢を見ているのと
少し似ている。
やっぱり
姉弟かな?
魂が何であれ、一緒に居れば似てしまうのは
記憶のおかげさま。
丁度、特急で2時間くらいのところにある
ForestHill。
意外にも海に近い場所であるが、海産物の
美味しい土地でもある。
ここには、既にSuperExpressが来ているので
夜行列車に乗るひとは限られている。
そうは言っても、夜遅くになって
最終に乗り遅れた人、とか
いろいろな需要のある、夜行列車である。
さっき、ミシェルと仲良しになった
機関車乗りは、ここで乗務終了。
折り返しの貨物列車でまた、元来た駅に帰る。
のではあるが、連続乗務はできないので
少し休んでから、折り返し。
赤い機関車に、ひとりで乗っていると
眠くなるので(笑)。
以前は、助手とふたり乗務だった。
そのあたりは、さすがに国鉄と言えど
合理化が進む。
もっとも、いま、機関車乗りになりたいと
言う少年は少ない。
危険だし、眠いし(笑)。
責任の割に給料は安い、と来ている。
なので、国鉄は
家族に国鉄職員がいると、後継ぎを求める(笑)。
郵便もそうだが。
機関車のブレーキを巧に操り、眠っている
人を起こさない運転ができないと
寝台列車の運転士はできないが
それが出来たから、儲かる訳でもない(笑)。
なので、最近の風潮には乗り遅れた
仕事である。
でも、誇り高い仕事だ。
機関車乗りの男は、ミシェルの事を
思い出し
「どちらかと言うと、車掌より機関車向き」と
考えた。
見た目が優しそうだと、どうしても
お客だって人間だから、甘えてしまう。
そんな理由で、若いミシェルは
お姉様方には人気になるだろうけれど
かえって大変かもしれない(笑)。
それよりは、自分がミスをしなければ
良い、機関車乗りの方がいいかもしれないと
思い。
停止位置に機関車を止め、ここで乗務交代だ。
ブレーキハンドルを抜き、キーを外す。
なぜか伝統で、このキーは個人の持ち物として
代々、後輩に与える事になっていたりする。
「ま、あいつが来たらやろうか」と
まだまだ先の事を楽しみにして、機関車乗りは
乗務交代。
誰もいないホームに、交替の運転士。
顔なじみなので「よぉ、後頼む」(笑)。
この夜行乗務も、いつまで続くか、と
機関車を見ながら、彼は思う。
ミシェルは、深夜のホームを
ぼんやりと眺めた。
列車が止まったので、目覚めて。
誰もいない深夜の駅に、コーヒースタンドの明かり。
ホットドックや、ハンバーガーなどを
乗務員たちが憩えるように、まだ開けているのだ。
それも、無言の思いやり。
丸顔で、穏やかそうなおばちゃんは
さっきの機関車乗りに声を掛けた。
「お帰り」。
機関車乗りは、ここが故郷じゃないけれど
彼の父は、やっぱり機関車乗りで
この町に程近い場所で、駅長をしていたから
それで、コーヒースタンドの
おばちゃんも顔見知り(笑)。
国鉄一家、と言われる由縁である。
乗務が終わったら、終着点呼をするのだけれども
折り返し仕業なので、余裕時分がある。
そこで、コーヒーを、と(笑)
のんびり国鉄である。
「ご苦労様」と、冷たいコーヒーを出した
おばちゃん。
機関車乗りは、それが好きだ。
ホームのコーヒースタンドは、オープンカフェだから
いい香りが漂っている。
「この列車にね、ミシェルとリサが乗ってるんだよ。機関車に乗せてやった」と
そういう、規則違反を言っても
まあ、大丈夫な国鉄である(笑)。
おばちゃんは「ミシェルって、弟さん?
そんな子いたんだね」と。
機関車乗りも、あれ?そうだったっけ?
とか言いながら(笑)。
男の記憶はいい加減だし、そういう事は女の
方が詳しい(笑)。
どの世界でもそうだけど。
「うん、なんか、ほら。女の子みたいにかわいい男の子で」と、機関車乗りは
コーヒーを飲みながら。
フランスパンのドッグを食べる。
バゲットをふたつに切って、赤く焼けた
フランクフルトを挟んで。
パンもしっかり焼いているんで、熱くておいしい。
サンミッシェル仕込みの(笑)と
言う、なんの変哲もない美味しさだけど
そこがいいと評判の味。
フランスって、もともと貧しい農業国なので
素材の美味しさを楽しむ、ちょっと
日本人っぽい庶民の食文化で。
おばちゃんは、それを楽しむ。
ミシェルは、見た目かわいいと言われても
その見た目は、選べないから(笑)
べつに、どうでもいいと思っている。
できれば、好きな人に選んで貰いたい
外観であれば、とか(笑)
そんなふうにも、思う。
まだ、Kissもした事もない。
ミシェル自身は、別にKissなどしたいと
思ってもいない。
好きな人と、好きあいたいと言う
そんな気持は持っているけれど、それが
くちびるをふれあう事で得られるとも思わないのは
すこーし、自分が変わっているのかな、なんて
ミシェルは思う。
生い立ちを知らないと言う理由もある。
そういうミシェルにとって、恋は
すこしだけ、ほかの人とは違うみたい。
ミシェルの寝ている10号車から見て、珈琲スタンドの位置が
見渡せれば、きっとミシェルも起きていっただろうと
思う。
ふつう、こういったお店は
なぜかホームの中央から外れているから
それなので、深夜の駅で
機関車乗りは、のんびりとくつろぐ事が出来たりする。
この駅には管理局、と言う厄介なものがあり(笑)
どこの組織でも同じように、管理職と言うものは
暇なので、つまらないことばかり気にするものである(笑)。
故に、リサのおじいちゃんなど
首都の中央駅長にならずに、機関車に乗り続けたと言う人だが
鉄道員には多い。
管理職になるなら、なにも鉄道の仕事に就く必要はないからで
役所にでも勤めればいいのである(笑)。
実際、国鉄も上層部や役所(鉄道局、ministry of railwayである)なので
お堅いひとびとが、お堅いアタマで仕事をしている
割には(笑)現場は緩いのは
古い組織は皆同じである。
「ほんで、お姉ちゃんは特待生で大学、国鉄に入って。羨ましいねぇ」と、機関車乗りは
コーヒースタンドのおばちゃんに言う。
おばちゃんは、にこにこ。
もう客がいないので、閉めようか、なんて
思いもしない(笑)。話すのが楽しいし
国鉄のみんなの事を知るのは、みんなのなかの
ひとり、と言う気持ちになれて楽しいものだ。
仕事は違っても、鉄道の側で一緒にいる人達だもの。
都会に出ると、忘れちゃいそうな
感覚が、ここにはある。
「へぇ、特待生。いいねぇ。じ様の人徳だね」 と、おばちゃんは
自分の娘の事みたいに喜んだ。
おばちゃんも、余ったコーヒーを
アイスコーヒーにして、ミルクたっぷり。
砂糖を溶かしたシロップは、炭酸水で作る。
こうすると刺激的。
「お、いいねぇそれ、俺のにも」と、
機関車乗りは、自分のグラスに
そのシロップを足した。
深夜の駅、和やかに。
でも、駅員以外誰もいない。
ミシェルの寝台は、ひとり用個室で
枕木の方向にベッドが置かれているので
窓際を頭にして寝る人が多い。
窓際に、オーディオのスイッチがあって
音楽が聞けたり、読書灯があったりするので
そう使う人が多いようだ。
なので、ミシェルもそうしていたから
駅に着いて、しばらく停車していて
車窓を眺めるには、体を捩って。
ちょっと不自然な格好。
そういう姿勢をすると、何か
女の子のような格好、と
よく、リサお姉ちゃんが叱った(笑)。
男の子なんだから、と
そういう指定は
実のところ、女の子の希望だったりする。
女の子は、女らしくと規制されている
反動だろう(笑)。
なので、機関車乗りになりたがったりする
女の子も多い。
「おばちゃんの娘っこも、国鉄じゃなかったっけ?」機関車乗りは言う。
「んだんだ、勉強嫌いだはんで、大学なんて
とてもとても。」と、おばちゃんは笑う。
リサも勉強が好きな訳ではないけれど、
でも、適性があるらしい。
人間はいろんなタイプがあるから、
動物と違って脳の構造が単純でない。
環境に慣れるのだけど
そういう時に、適性がある。
運動が得意なひと、数学が得意なひと、
国語が得意なひと。
めぐみたいに、理系だけど
本が、好き。とか。
それぞれ、遺伝、みたいなもので
向いている道がある。
合った分野なら、楽だし、楽しいはず。
「それで、客室乗務員ね。それもいいよな」と
機関車乗りは笑顔。
SuperExpressには、飛行機みたいな
サービスがあるので
そういう仕事。
「俺には真似できないよ」と言うと
おばちゃんも笑った。
Northstarの停車時間は長い。
時刻表には書いてないけれど、長距離を
走るので
遅れた時の用心に、と
ゆとりを取ってあるのだ。
なので、機関車乗りも
急ぐ事はない。
安全のために、ゆとりある国鉄である。
深夜の駅を、最新鋭の電気機関車が走り抜けて行く。
ホームに通らない、貨物機関車だ。
長い編成を苦にもせず、スマートなブルーの車体は
インバータの発振音を、宇宙船のように
響かせて、スムーズに、パワーを見せ付ける。
機関車乗りは、それを見て「すげえなぁ、あれ」
帰りは、あれに乗るのだけれども。
モーターの電力を、連続可変できると言う
仕掛けを考えたのは、ヨーロピアンである。
機関車乗りの彼は、コーヒーを飲み終えて
ホットドックも、また食べ終える。
バゲット一本そのままなので、それは
結構なボリュームだ。
フランスパンとソーセージだけと言う
シンプルな味が、食欲をそそる。
それは好みだけれども、マスタードでも
ビネガーなしのものの方が、より
味わいが楽しめると、彼は思う。
「アメリカのホットドックは、もっと大きいんだろね」と、彼が聞くと
おばちゃんは「そうだねぇ。あっちの食べ物は
なんでも大きくて。クルマや電車もそうだけど」と、笑った。
「それじゃ、おばちゃんみたいだ」と、彼。
「ホントだ」と、おばちゃんも笑う。
アメリカの機関車が大きいのは、国が大きいから
運ぶものも多い、そんな理由。
人間も、大きくて、おおらかなのが
元々のアメリカン。
だから、食べ物も大きい。
アジアンのファーイーストから見ると
同じ切符で飛行機に乗れるのは不公平だと(笑)
言われそうだが。
心はひとつで魂もひとつだ。
貨物列車が駆け抜けて
後に風だけが残る。
深夜の駅は、どこかもの悲しい。
「さ、そろそろ仕舞いだろ」機関車乗りは
スタンドのおばちゃんが、眠いと
いけないと気遣う。
「いいんだよ。それよっか、あんた
ぼちぼち嫁さんでも貰えば?」と
おばちゃんは、豪快に笑う。
「そうだけど、今更なぁ」と、機関車乗りは
楽しそうだ。
過ぎた日の恋でも、思い出したのか
ひとの記憶は、一瞬で思い起こされるけれど
それは、構造を見るとわかる通りで
並列に記憶回路がつながっているから、で
そこに、ケミカルスイッチが入ると
その時の気持ちと、同じ気持ちの時に
起きた事を思い出す。
ミュージシャンが陽気な人が多いのは
音楽にいつもふれているから、楽しい記憶が
多いから、だし。
スポーツマンに爽快な人が多いのも、同様である。
なので、機関車乗りは
そういう楽しい記憶が、恋に多かったのだろう。
コーヒースタンドの壁についている、ゼニスの真空管ラジオから
テンポのいい、ファンクジャズが掛かる。
ブラスの音が輝かしいそれは
RonnieLaws。
テキサスのミュージシャンだ。
それを聞くと、元ミュージシャンと言う
機関車乗りは、心にメロディーが沸く。
連想だけど、そういうものだ。
沢山、音楽を聴いていて、音楽が好きだと
連想する。
そして、楽しいから
笑顔になる。
そういう人を見ていると楽しいから
おばちゃんも、この機関車乗りのファンだ。
「まだ、音楽書いてるの?」と、おばちゃんは
聞く。
「書いてるって言うか、自然にね。
即興だよいつも」と、機関車乗りは笑顔になる。
まだ、作業着のような制服のままだ。
でも、心は自由なミュージシャンだ。
上り2列車は、乗客たちの眠りを乗せて
10分ほどの、時刻表にない
停車時間を終え
交代の機関士が、スタンバイ。
信号を確認。
無線で、リサのおじさんが「2れっさ、はっさ。」(2列車、発車)
どうも、脱力する(笑)けれど
この、間延びした言葉が
穏やかでいい。
およそ、尖った雰囲気には似合わない。
ホームで、機関車乗りは
コーヒースタンドから、列車を見送る。
ベテランの機関士は、機関車のブレーキを掛けたまま
モーターに電力をすこし、掛ける。
その瞬間は、必ずショックがあるから。
磁力は、最初が一番強いので
そうするしかないのだけれども
モーターは誠に不思議な小宇宙で
接触もしていないのに力があるのだ(笑)。
理論物理学で言うところの、6次元空間のひとつの次元には、電磁気力があると言う説もある。
空間3軸、縦横高さ。
時間軸。
重力軸。
電磁気軸。
それらはエネルギーを置換できると言われているので
電磁気は、例えば電子と言う素粒子が構成しているので
つまり、宇宙がHiggs環境で成立した
結果の電磁気と言えるので
それを引き出す魔法で、それぞれのエネルギーに転換できる、と言う訳だ。
原子核融合の、1000倍のエネルギー。
18世紀からあった技術なので
魔法を、当時のヨーロピアンは封印した。
動き出した列車に気づき、微睡んでいた
ミシェルは、その揺れに心地よく
身を委ねながら。
朧げな意識で、車窓のホームを見たような気がした。
元々、見る、と言う現象は
光が届いて、その光の強弱を
神経が電気信号にして受け取るのであるから
視床下部のように
光を感じ取れる器官がある、と言う
人間の脳の構造は不思議であるし
進化の歴史に消し去られたものが
あるのではないか、などと言う説もあるくらいで
魔法使いの系譜にある少年に、そんな
能力があっても楽しい。
ミシェルは、それで、はっ、と
飛び起きて
過ぎ去るホームに、あの機関車乗りの
姿を見て。
途端に、淋しい気持ちになったり。
感受性が鋭敏になっている時期である。
せめて、ミシェルに兄
がいたら
そんなふうな気持ちを強く持つ事もないのだろうし
半分、女の子のような魂を持っているミシェルは
どこかしら、女の子のような
淋しさの訴求をしているようだ。
そんなところが、女の子たちの
親近感を得ている理由かもしれない。
カーテンの向こうで、遠ざかる風景は
時間軸が進み、空間軸が遷移している証である。
それを、置換できる者、ミシェルは
でも、2どめの時間は
退屈であったりする事も経験したから
どちらかと言うと未来に興味を持ったりもした。
ミシェルの記憶に、そうして
旅の思い出が刻まれて行く。
時間に従って記憶されないから
いつでも、夜の旅、みたいな
素敵な時間に思い出す事だろう。
いつまた、出会うかもしれない人達だけど
もう、出逢わないかもしれない事柄。
それだけに、思い出は大切だ。
できれば、好きな人達の事を
沢山覚えていたいものだけど。
ホームの上、コーヒースタンドに居る
親しくなった人が
ゆっくりと、遠くに行ってしまう。
それは、なんとなく人生に例えられるような
そういう光景。
時間が巻き戻せる事を、ミシェルは知ったけれど
でも、素敵な一瞬を、もう一度体験しても
素敵にはならない事も知った。
未知の体験をするからいいのだ。
魔法使いなら、と
ミシェルは、未来を見てしまいたいと
思った。
めぐお姉ちゃんに近づく者を遠ざける事が
魔法ならできそうだ、なんて
思ったりもしたけれど
「それも、ちょっと」と
思い直す事にした。
だって、めぐお姉ちゃんも魔法使いなんだもの(笑)。
それを努力とは認めてくれないだろう、と。
列車に揺られながら、横になって眠るのは
珍しい経験なので
それは、とても
素敵な夜になるのだろう。
幼い頃から、夜行列車に乗り慣れている人に
とっても、幾度経験しても、また乗りたくなる
ような、そんな経験。
夜遅くに、気づくと
どこか、静かな駅に列車が止まっていて
起きて見ると、暗いプラットフォームに
出発信号。
そんな景色は、印象深くていいものだ。
もうひとりの魔法使い、めぐは
そういう情緒にあまり関係ないのか(笑)
ぐっすりと眠りについている。
それでも、時折夢をみたりして。
どこまでも広い青空に、初夏の陽射し。
麦藁帽子に白いサマードレスで、なぜか
自転車のペダルを踏んで、丘の上を駆けていく、
そんな夢だった。
その夢をみながら、めぐの心には
音楽のような風が、アンサンブルを奏でて
いるようだった。
爽やかな金管の、ホーン。
オーバードライブの効いた、ギター。
コンプレッサのかかった、エレクトリカル
アコースティックギターのカッティング。
ラテンのリズム、軽く、弾むように。
覚えかけた音楽は、めぐの心をも捉えた。
ただの音の重なりが、心地好い理由は
めぐにもわからないけれど
それを聴いて快いと感じる人達がいてくれれば
その快さは伝わる。
0
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2023.9.15 完結。
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