恋人は’77年型

深町珠

文字の大きさ
上 下
5 / 38

all rite now

しおりを挟む
インターの料金所で並んでると、また家族連れのバンに
無理矢理割り込まれた。

なんで遊びに来てるのに、あんなにせこいんだ。


「家族連れなんて大嫌い」

そういうと、ラジオの音楽、この時はfreeの
all right nowが流れてた。

その音楽に乗って、ワーゲンちゃんが答える。

「まあ、嫌いでいいけど。僕も嫌いだな。」



「そうでしょ?」と、わたし相づち。


「でも、いつかは家族づれになるんじゃない?」と
ちょっとシニカルなワーゲンちゃん。


「なりたくないな、そんなの」と、わたしは本音を言う。


それは本当だと思う。好きな人と家庭を持って
幸せに暮らすのはいいけど、家族連れ、なんて

せかせか、いらいらしていて
自分たちさえよければいい、なんて
ルールを破っても平気、そんな人達にはなりたくない。


「そうだね、そうはならなくてもいいね」と
ワーゲンちゃんは、穏やかに言った。

「どうして?」と、わたしは問う。


「うん、せかせかする必要はないんだ。目の前にある事を時間に沿って進めていけば、いつか結果になる。
物理時間だね。」



すごいなぁ、と
わたしは、なんか雄大なものを彼に感じた。
彼?あ、そうか。

「ねぇ、なんて名前なの?」ふと、わたしは気づき。



「僕かい?フェルディナント。フェリーでいいよ」と
ワーゲンちゃんは、すらっとしたドイツ発音で。


「かっこいい名前。」って、なんかうれしくなって、わたし。


「そぉ?ありふれた名さ」と、フェルディナントは

さわやかな高原の風の中で。


開け放した窓から、みどりの香り。

ロマンティックロード、なんて道路標示。

霧が出ると幻想的なのかしら、なんて
思いながら、床からでている風変わりなアクセルを踏むと
軽やかに坂を登っていく、ワーゲン。

「でも、最初からポルシェのエンジンだったかなぁ」と
わたしは疑問。


フェルディナントは、事も無げに「いや、僕が居る間だけさ」



居る間って、どういう事なんだろう。



わたし、よくわからない。

フェルディナントは、説明に苦慮し
「うん、まあだって、ラジオから僕の声が聞こえる事だって不思議でしょ?つまりそういうこと」


彼の説明では、どこかの空間とつながっている、それは
壁の穴のようなもので、穴が無い時には
壁のむこうなんかに気も留めないけど、穴があって
はじめて気になる、と。


たしかに、そうかも。
しおりを挟む

処理中です...