恋人は’77年型

深町珠

文字の大きさ
上 下
8 / 38

boy friend

しおりを挟む
「ボーイフレンドとかいないの?」と、フェルディナントは
あっさりと。

「男の子とつきあったことない。女子高だったし、なんか怖いし」


それは事実で、サービスエリアで絡んできた連中と
似たようなもの、だと思っていた。


「僕には、ふつうに話せるのに」と、フェルディナントは
楽しげに。

「だって、あなたは紳士だし、それに...」ラジオの向こうだし、と言い掛けたところに

パーキングに、国産のバン、トヨタのボクシーだろうか、
黒いそれを、サングラスを掛けた女が運転して
乱暴に停車し、子供と亭主らしき連中、どやどやと
降りてきて。


木陰のいい場所に止まっていたワーゲンを、いかにも
邪魔そうに見、奇声を上げる子どもを叱りもせず
サングラス女はタバコをふかしはじめた。
高原のさわやかな空気は、タバコの臭いと
騒ぐ子供の声で台無しになった。

まだのんびりしたかったが、ワーゲンのエンジンを掛けて
出ることにした。


「だからイヤなのよ、家族連れって。自分さえよければいい、って最低」と、わたしはワーゲンのクラッチをつないでロードに出た。

「そうだね、ドイツにはあんなのはいないなぁ」と、フェルディナントは言う。

「そう?」意外、と思ってわたしは。


「うん。日本だけじゃないかなぁ。ドイツであんな事してたらすぐに警官がくるよ」

フェルディナントはさらりと。


わたしはおどろき「ホント?」


「本当さ、陸続きの国じゃみんなルールは守る、のが当然なんだ。そうしないと国、が守れない」と
毅然とフェルディナントは言う。

車を路上駐車してても、邪魔でないところなら違反にはならないが

日本のように、繁華街に止めたりすればすぐにレッカー移動、だそうだし

子供が国道に飛び出して轢死しても、運転手の罪にはならない、なんて事もあった、なんてフェルディナントは言った。


「ドイツって徹底してるのね」私は感心して。


「そうさ、日本もそうすればいいのに。なぜしないんだろう」


フェルディナントは不思議、と言う雰囲気で言った。

「規則が緩いし、いい加減なのよ、日本人って」
わたしは、諦めるように言った。


「こないだもね、原発が爆発して。放射能まみれになったのに管理者は責任も取らずに、退職金を6億円も貰って。その上、その会社を税金で生かし続けるとか」
と、わたしは、よくわからないニュース原稿を読んだ(笑)

「知ってる、ドイツ気象庁は放射能拡散予想もしたりして心配したし、原発は廃止する事にした」と、フェルディナントはまた、ニュースキャスターみたいな合いの手を(笑)

しおりを挟む

処理中です...